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有森裕子の「Coolランニング」

有森裕子 マラソン女子の低迷脱出のカギは?

無名のランナーにも勝機はある、常識にとらわれない戦略を

 有森裕子=元マラソンランナー

 この結果をもって「女子選手が強くなった」とは一概には言えないかもしれません。なぜなら、今回の名古屋ウィメンズマラソンは、気温11.2℃、湿度61.4%、ほぼ無風といったマラソンには絶好のコンディションのなか、準備されたペースメーカー(*1)が理想的なペース配分で選手を引っ張ったからです。

 こうした好条件を冷静に生かした選手が、順当に結果を出しただけの大会、という見方もあるでしょう。しかし、どんなに実力があっても、本番でその実力を出し切る強いメンタルがなければ、いくら好条件に恵まれても結果は出ません。今回の名古屋でMGCの出場権を手にした選手たちは、そんな勝つための条件を、身をもって学んだのではないでしょうか。

 特に、レース途中で転倒して棄権した「第38回大阪国際女子マラソン」からわずか42日後のレースでありながら、日本人2位に入り、MGC出場権を獲得した福士加代子選手(ワコール)は、非常によく粘ったと思います(日本人1位は、既にMGC出場を決めていた岩出玲亜選手〔アンダーアーマー〕)。

 失敗しても何度も立ち向かっていく彼女の姿勢や、大阪の失敗から名古屋へと素早く気持ちを切り替えた集中力、そして粘りの走りによってセカンドベストの2時間24分09秒をマークし、日本人2位に入ったことは、若手を含めたマラソン女子選手たちに大いに刺激を与え、背中を押したのではないでしょうか。

 そんな福士選手は、レース後にこんなことを話していました。「今回は海外の選手がいたけれど、MGCではいなくなる。(自分は)主導権を握って走るというのをやったことがないので、MGCではやってみたい」。この言葉を聞いて私は、「ああ、彼女はきちんと自分の置かれた状況や課題を分かっているな」と思いました。

「なぜ勝てたのか」を振り返ることで見えてくるもの

 名古屋ウィメンズマラソンは絶好のコンディションで、理想的なペースメーカーもいました。でも、オリンピックのレースではペースメーカーはいませんし、どんな天候になるかも分かりません。恐らく相当な暑さの中での戦いになるでしょう。そんな中で勝つためには、自分自身でペースを組み立てて走る能力が必須条件になります。

 MGCの出場権を獲得した女子選手たちが、さらにここからもう一段強くなるためには、「なぜここで結果が出せたのか」「どうして自分は走れたのか」という徹底的な分析がカギになるでしょう。

 失敗したときはもちろんのこと、良い結果が出たときであっても、その分析を人任せにせず、練習内容や技術面、体調面、メンタル面といったさまざまな角度から振り返り、自分の頭でしっかり勝因を考えることはとても重要です。そこから見えてくる答えやさらなる課題は、MGCやオリンピックのレースの作戦を立てるときに必ず生きてくるはずです。

 私自身も現役の頃は、普段の練習内容はもちろん、レースでの体の状態やメンタル面、食べた食事の栄養成分までノートに記録し、「こういうものを食べたから、今回のレースではエネルギー切れしなかった」など、結果と自身の状況の関係性を少しでも把握しようとしていました(連載バックナンバー「有森裕子 私の陸上人生を支えてくれた手帳」)。選手として成長し、オリンピックでメダルを獲得するために、そうした振り返りが大いに役に立ったと実感しています。

*1 ペースメーカー:あらかじめ設定されたペースで指定された距離まで走り、先頭集団を引っ張る役目を果たすランナーのこと。

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