東京マラソンの人気などを背景に、ランニング人口は2080万人に増加し、各種スポーツの中でも高い関心を集めています。特に20~40代の男性の参加が多い一方で、アスリートのような走りを性急に求めすぎた結果、故障をしてしまう人も少なくありません。そんな状況に危機感を抱くのは、五輪マラソンメダリストの有森裕子さん。トップアスリートならではの深いランニング知識を基に、楽しく長く走り続けるためのコツをお届けします。
桜の開花便りが全国各地に届きはじめ、既にお花見を楽しまれた方も多いのではないでしょうか。暖かさが増すほどに気持ちも高揚し、新年度という季節柄、新しいシューズで桜並木でのランニングを楽しんでいる方もいらっしゃるかもしれませんね。桜のシーズンが終われば、新緑のシーズン。ますます走ることが気持ちよくなっていくと思います。
現役時代、なくてはならない大切なものだった練習記録
さて。唐突ですが皆さんは、手帳を持っていらっしゃいますか? 今はスマートフォンのカレンダー機能など、デジタルでスケジュールを管理されている方が多いかもしれません。そういう私は何を隠そう“メモ魔”で、書くことが大好き。高校時代から「手帳に予定と日記を書く習慣」を続けています。
具体的には、試合までのスケジュールや練習メニューのほか、その日の体調、練習や試合でのタイム、プライベートで感じたことを毎日書き綴っていました(引退した今もスケジュールや日記は書いていますよ)。このライフログのような“記録”は、私の陸上人生を支えてくれた、なくてはならない大切なものでした。

練習からレースまでの“流れ”が見えてくる
ランニングをするにあたって、記録することの効用はいくつかあります。まずは、練習メニューやタイム、体調、食事、レースの結果などはもちろん、「この練習で少し感覚がつかめてきた!」といった“振り返り”も書き残しておくと、練習から試合までの“流れ”が見えてくること。一日一日の出来事より、一定期間の状況を俯瞰して把握できるのは大事なことです。例えば、ケガをしたときに、そこに至るまでの練習や状況を見れば、ケガの原因が分かったり、またはケガから復活してレースに出場するまでのプロセスも見えてきたりします。
これはレースで良いタイムで走るための、さらにいえば健康で長くランニングを続けるために役立つ大切な記録です。スランプに陥ったとき、過去に似たような状況から復活したデータがあれば、参考にできます。成功したときや失敗したときのプロセスをヒントに工夫すれば、目の前の課題も克服できるかもしれない。自分がどんな体調のときに、どんな練習をすれば、どんな結果になるかといったことも予測しやすくなるでしょう。
