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有森裕子の「Coolランニング」

有森裕子 マラソン五輪代表決定! 最後の1枠をかけた熱い戦いに感銘

MGC選考システムがもたらしたトップランナーの底上げ

 有森裕子=元マラソンランナー

 東京マラソンは、新型コロナウイルスの影響で一般ランナーの参加が中止となり、観戦自粛が呼びかけられる中、例年なら沿道に100万人が詰めかける景色が一変し、今までにない雰囲気の中での開催でした。

 スタート時の気温は11.5℃、湿度は46.4%という絶好のコンディションで始まった選考レースは、蓋を開けてみると、2019年9月のMGCで3位という悔しい結果に終わった大迫選手が、自身が持つ日本記録を21秒更新し、2時間5分29秒の日本人トップで4位入賞しました。最後の選考レースである3月8日のびわ湖毎日マラソンで、大迫選手の記録を上回る選手がいなかったため、大迫選手の東京五輪代表が見事内定しました。

大迫選手の強さは自分を知り尽くしたレースができること

 東京マラソンのレース前、日本陸上競技連盟の強化委員会マラソン強化戦略プロジェクトリーダーの瀬古利彦さんから、井上大仁選手(MHPS)の調子が良いと聞いていました。確かに、自ら2時間4分台を狙うと宣言していた井上選手だけが、スタート前にリラックスした表情で微笑んでいたのが印象的でした。最初から積極的な走りを見せる彼の姿に、相当な練習を積んで挑んでいることが想像でき、日本記録の突破を期待しました。

 そんな中、23キロ付近で井上選手とともに先頭集団を走っていた大迫選手が後退し、いよいよ井上選手が有利に。しかし、その井上選手も苦しい表情を見せ始めた32キロ過ぎで、本来の動きを取り戻した大迫選手が怒涛の追い上げを見せ、井上選手がいる集団に追いつくとそのまま先頭に立ちました。

 先頭集団から遅れをとったとき、大迫選手は、何とかリラックスして自分のリズムを取り戻そうと考えていたとインタビューで話していました。この、慌てず自分を客觀視しながら軌道修正できるところが彼の強みであり、普段の練習からいろいろな場面を想定しながら走っているように思いました。自分自身を知り尽くしたレース展開ができる技術を持ち、ケニア合宿で質の高いトレーニングを積んでいたからこそ、あの状態から追い上げ、周囲の選手のスピードが落ちる中で踏ん張れたのでしょう。とはいえ、先頭集団から遅れたとき、五輪をあきらめそうになる瞬間もあったのではないでしょうか。それを救ったのが、スタートから積極的なレース展開を見せ、大迫選手の前を走っていた井上選手の存在だったのではないかと思います。

 大迫選手が盛り返し、井上選手のいる集団に追いついて一気に抜き去ったとき、井上選手は気持ちが切れてしまったように見えました。いくら上位に入っても、大迫選手に負ければ五輪の切符を手にすることはできません。まねできないほどの大迫選手のスパートを目にした途端、限界まで力を出し尽くしていた彼は失速してしまったのでしょう(結果は2時間9分34秒の26位)。

有言実行ができる大迫選手のメンタルの強さが光る

 レース後の勝利インタビューで大迫選手は、「(MGCで)3番になってから非常に苦しい戦いだったけど…」と声を詰まらせて涙していました。そんな彼の姿を見て、あらためて彼が抱えていたプレッシャーの大きさを感じ、MGC以降、相当悩み、苦労したのだろうなと思いました。

 もちろん、彼自身、自分が持つ日本記録を更新することはできると信じていたと思います。でも、それを本番で実行するのは容易ではありません。どんなに努力して調子が良くても、レース当日にしっかり体が動いて結果が出る保証はない。その不確かな可能性を抱えながら戦うメンタリティを備えていた彼には凄みを感じます。

 大迫選手の今回のレース展開に対して、「世界に勝つにはもっと粘って海外の選手にずっとついていける走力が必要だ」と指摘される方もいるかもしれません。しかし、エチオピアやケニア勢のスピードは、日本選手よりかなり上です。そうした現状を踏まえた上で、例えば前半の位置取りやペース配分、給水の取り方など、大迫選手の今回のレース展開を踏まえて改善を試みていく方がいいように思います。

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