五輪マラソンメダリストの有森裕子さんが、トップアスリートならではの深いランニング知識を基に、楽しく長く走り続けるためのコツをお届けする本連載。今回は、市民ランナーの「燃え尽き症候群」について考えます。
3月も中旬を迎え、そろそろ春の足音が近づいてきました。ランニングが楽しくなる桜のシーズンはもう目の前です。新年度になれば、仕事では転勤や部署の異動、プライベートではお子さんの進級や進学といった新生活をスタートされる人も多いのではないでしょうか。心機一転して気分も高揚し、新たな目標に向かってランニングの練習に励む方もいるかもしれませんね。
一方、東京マラソンなど大きな大会を終え、目標を見失ってしまっている人も中にはいるかもしれません。以前知人から聞いた話ですが、仕事の傍ら、「サブフォー(フルマラソンを4時間未満で走る)」を目標に練習をがんばっていた男性ランナーがいました。彼は真摯な努力を積み重ねて、とうとう念願のサブフォーを達成! 市民ランナーにとって誇れる成績を残したのです。
ところが、喜びもつかぬ間、本人は浮かない顔。「目標を達成したとたん、燃え尽き症候群になってしまい、次の目標が見つからない。練習へのモチベーションがなくなって、休日は走らなくなり、家でゴロゴロするようになってしまった。そんな自分が嫌だ…」と真剣に悩みだしたのだそうです。
私はその話を聞いて、「も、燃え尽き症候群!?」と思わず声に出してしまいました。

スポーツの現場で一般的に言われる「燃え尽き症候群」(バーンアウト症候群とも言います)とは、オリンピックでメダルを獲得するなど、トップアスリートが大きな目標を達成した後に、次の目標が見つからず、虚無感からやる気を失ってしまうような症状のことを言います。でもそれは、全身全霊をかけて、世界の頂点をかけて戦っている、プロ意識の高いアスリートだからこそ生じる症状だと私は考えています。走ることを職業としていない、市民ランナーの方が気軽に使うような言葉ではないように思うのです。
もし、「燃え尽き症候群」という言葉を使ってしまうとしたら、ぜひ自分に問いかけてみてください。そもそも自分はなんのために走っているのか、ランニングとの向き合い方が間違っているのではないか、と。近年のランニングブームで、記録を含めプロとアマのレベルが近くなっていると常々感じていますが、「ああ、こんな“意識の部分”でもプロとアマチュアの垣根がなくなってきているのだなあ」と思ってしまいました。
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