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有森裕子の「Coolランニング」

有森裕子 ランナーの安易な鉄剤注射はドーピングと同じ

医学的に必要なケースを除き、陸上界からの根絶を

 有森裕子=元マラソンランナー

“確信犯”による鉄剤注射はドーピングと同じ

 今回問題になった鉄剤注射は、治療のためではなく、持久力を高め、レースで良い結果を出すために打っている“確信犯”に近いようです。その背景には、減量のための食事制限によって低栄養状態となり、食事から十分な鉄分摂取ができなくなっていることもあるようです。

 読売新聞の報道(2018年12月9日付)によると、ある高校駅伝の監督は、選手に鉄剤注射を打たせたことを認め、「栄養剤の一種だと思っていた」と話しています。こうした行為は成長段階の選手たちの体に大きな負担をかけていることは否めず、禁止薬物ではないものの、ドーピングに等しい行為と言えるのではないでしょうか。

 今回の問題を受けて日本陸上競技連盟は、安易な鉄剤注射の根絶に向けて動いています(*3)。全ての年代の選手に対して鉄剤注射を原則禁止とした上で、全国高校駅伝においては、2019年度からチームでの鉄剤注射の使用の有無や人数、理由を明記した申告書の提出などを求めていくようです。日本医師会も、全国の医師に対して、競技者や指導者からの安易な鉄剤注射の要望には応えず、適正に使用するよう注意喚起を行いました。

 こういう事実が明らかになると、指導者は保護者や選手に対して、鉄剤注射を行う理由をどのように説明していたのだろうかと思います。選手自身にも、保護者の方々にも、そうした注射を行うことで体にどのような影響があるのか、もっと関心を持ち、指導者の言うなりではなく、自分の体は自分で守るという意識を持ってほしいと思います。

 私は今回の問題で、鉄剤注射の使用を全否定しているわけではありません。私自身がそうだったように、鉄剤の投与を必要とする重度の貧血に悩む選手はいるでしょう。きちんとした食生活を送っていても、ヘモグロビンの量が基準値を下回り、鉄剤の内服による治療も困難な選手は、医師の診断により鉄剤注射を行わなければ日常生活に影響するケースも出てくるはずです。

 今求められているのは、こうした医学的な必要性のない、不適切な鉄剤注射を根絶することです。このコラムでも再三お話ししてきましたが、スポーツの本来の目的は、人々の健康を増進することであり、害することではありません。目先の成績を追い求める余りに、選手たちの健康を、そして未来を壊すことのないよう、切に願います。

(まとめ:高島三幸=ライター)

有森裕子(ありもり ゆうこ)さん
元マラソンランナー
有森裕子(ありもり ゆうこ)さん

1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。

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