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有森裕子の「Coolランニング」

有森裕子 ランナーの安易な鉄剤注射はドーピングと同じ

医学的に必要なケースを除き、陸上界からの根絶を

 有森裕子=元マラソンランナー

重度の貧血で鉄剤注射を行っていた現役時代

 私がこの問題に強い関心を寄せているのは、私自身も現役時代にひどい貧血に悩まされていたからです。

 長距離選手は長時間の激しい練習により、大量の汗をかきます。汗の中には鉄分も含まれていて、汗と一緒に皮膚から失われていきます。また、女性ランナーは月経でも経血と一緒に鉄分が失われるため、男性よりも貧血になりがちです。さらに、酸素濃度の低い場所で高地トレーニングを行うと、体の中に酸素を取り込むために鉄を大量に消費するため、ますます貧血になりやすくなります。

 現役当時の夏場のトレーニングでは、汗とともに鉄分が失われて体重も3kgほど落ち、鉛のように体が重くなって眠くなることが度々ありました。その時代、血液検査などは頻繁にしませんでしたから、体の異常を訴え、病院に行って初めて、鉄欠乏症貧血と診断されたのです。血液中のヘモグロビンの量が、男性で1dL当たり13g、女性では12gを下回ると貧血と診断されるようですが(*2)、当時の私は6gしかありませんでした

 鉄分は体内に吸収されにくく、蓄えにくい物質です。私の場合、ヘモグロビンの数値が低すぎて食事からの鉄分摂取ではとても追いつかず、最初は鉄の錠剤を摂取しました。ところが、体質のせいか、鉄剤を飲んでも胃が荒れるだけで体内に吸収されず、一向に数値が改善しません。そこで仕方なく、より吸収効率が良く速効性のある鉄剤注射を打つことにしました。

重度の貧血がある場合、鉄剤注射は有用な手段です。安易な使用とは分けて考えるべき。(C)belchonock-123RF

 鉄剤を打つと、とても体が楽になり、まるで空中を飛んでいるみたいに軽やかに走ることができたことをよく覚えています。貧血がどれだけパフォーマンスに影響していたのかを、身をもって実感したのです。当時、日本代表として世界大会に出場するレベルの選手で、同じように重度の貧血で鉄剤注射をしていた女子選手は少なくありませんでした。

 ただし、この鉄剤注射はあくまでも鉄欠乏症貧血の治療として行ったものです。血液検査でヘモグロビンの値の推移を見ながら治療を続け、改善すれば当然中止していました。鉄欠乏状態を改善させるために鉄剤注射を行うと、貧血は改善されますが、血液内にあるリンが減って骨がもろくなるというデメリットもあります。また、鉄剤注射を長期的に繰り返すと鉄過剰になる危険性があり、体内に溜まって将来的に肝硬変や糖尿病などを引き起こす恐れがあるそうです。

*2 年齢や検査を行う医療機関によって診断基準には多少の差がある。

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