東京マラソンの人気などを背景に、ランニング人口は2080万人に増加し、各種スポーツの中でも高い関心を集めています。特に20~40代の男性の参加が多い一方で、アスリートのような走りを性急に求めすぎた結果、故障をしてしまう人も少なくありません。そんな状況に危機感を抱くのは、五輪マラソンメダリストの有森裕子さん。トップアスリートならではの深いランニング知識を基に、楽しく長く走り続けるためのコツをお届けします。
前回、前々回と、有森流「東京マラソン満喫術」や、全国各地のおすすめ市民マラソン大会などを紹介してきました。読者の皆さんの中には、先日の東京マラソンに参加された方もいるのではないでしょうか? 寒い1日でしたが、心配された雨にはさほど降られず、楽しい思い出になったのではないかと思います。ただ、中には残念ながら足腰に痛みが生じてしまった方もいるかもしれません。
ケガに悩まされることなく、できるだけ長くマラソンと付き合うためには、体操やストレッチなどの走る前の「準備」と同じくらい、走った後の「ケア」が大切です。ところが、市民ランナーの方々をみていると、走る前の「準備」はできていても、走った後の「ケア」ができていない方がとても多いように感じます。
クールダウン、ストレッチ、アイシング・・・やらずに“飲み”に直行してない?

レース後の体のケアには、レースで使った体をジョグでほぐして全身に血液を巡らせる「クールダウン」、筋肉の緊張を緩める「ストレッチ」、氷や水を用いて身体を局所的に冷却し、炎症を抑える「アイシング」など、様々な方法があります。
でも実際のところ、「やったー!ゴールした!」という達成感にひたって、ついケアを怠り、そのまま“飲み”に直行したりしていませんか? うれしい時、調子がいい時ほど、ケアの重要性は忘れがちです。痛みが生じて初めて、「ケアをしなければいけない!」という危機意識が働くのでしょうが、ケガをしてしまった後では、治療代もかかりますし、何よりも「痛い」「走れない」といったストレスを抱えることで、体だけでなく、心にもダメージを与えてしまいます。
市民ランナーにとって、走ることの一番の目的は、心身ともに健康になること(健康を維持すること)ですから、ダメージを抱えたまま走ることで、不健康になってしまっては意味がありません。「走ること」と「ケア」は必ずセットで考えてほしいなあと思うのです。
レース後のケアは、ケガの予防だけでなく、回復力を高める効果もあります。国内の大会の場合、レースの翌日は出勤して通常業務をこなすという方も多いと思います。疲れを残さず仕事に集中して取り組むためにも、やはり走った後のケアは重要なのです。
上体を鍛える補強運動も、普段のケアのひとつ
ちなみに、こうしたレース後の「ケア」は、マラソンランナーだった私にしてみればごくごく当たり前の話。以前は、こんな普遍的なメッセージを発しても「飽き飽きされるのではないかな?」と思っていました。ところが、ランニング講習会などで、市民ランナーの方々にケアの重要性についてお話しすると、「そこまで重要だとは考えていなかった」と、ハッと気づかれる方が多いのです。
さらに「体に痛みがある人はいらっしゃいますか?」と聞けば、多くの参加者の方から手が挙がります。その痛みの部位のほとんどが、「膝」と「腰」。これは、腹筋や背筋などの上体を鍛えていないことも原因の1つです。
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