今大会ではペースメーカーが3つのグループに設定されていました。号砲前に発表された設定ペースによると、先頭集団は神野大地選手(セルソースアスリート)と福田穣選手(NN Running Team)、田中飛鳥選手(RUNLIFE)の3人が1キロ3分19~20秒で先頭集団を引っ張り、大会記録(2時間21分11秒)を更新できるペースで走ります。続く第2集団は、川内優輝選手(あいおいニッセイ同和損保)と寺田夏生選手(JR東日本)が1キロ3分22~23秒のペースで牽引。第3集団は岩田勇治選手(三菱重工)が1キロ3分25~26秒でゴールを目指すペースだったそうです。

選手同士が駆け引きをしながら激しく競い合う大会と比べると、ペースメーカーに守られるようにして走る今回のレースは、レースというよりはタイムトライアルに近い印象を受けた人も多いかもしれません。通常、ペースメーカーが引っ張るのは30キロ付近までですが、独走に入った松田選手の周りに3人のペースメーカーがぴったりとつけ、ゴール付近まで共に走るという風景に違和感を覚えた人もいるでしょう。
結果として、ペース配分も正確な、非常に安定したペースメーカーのおかげで、自己ベストを更新する選手が続出。6位の選手までがMGCの出場記録を突破するという好成績を収め、結果的に良かったのではないかとも思います。
折り返し地点で、ペースメーカーの川内選手が女子選手たちの様子を確認しながら安全に誘導するようなシーンや、第1集団から遅れそうな選手をペースメーカーの田中選手が「ついてこい」と言わんばかりに手招きする仕草なども見られました。ペースメーカーが選手に声をかけたり触れたりすることはNGですが、こうしたサポートに女子選手たちも「走りやすかった」「苦しい30キロ以降も耐えられた」などと話していた様子も印象的でした。
タイムを狙うか、勝負にこだわるかによって走り方は変わる
ただ1点、気になったのは、松田選手が独走状態に入ってからの光景です。3人のペースメーカーと集団で走っていたのですが、終盤手前から2人のペースメーカーが彼女のほぼ真横につき、1人が少し後ろを走るというフォーメーションとなり、ペースメーカーに松田選手が合わせているというよりは、彼女にペースメーカーが合わせているように感じられました。
松田選手は普段から、誰かに引っ張ってもらって後ろからついていくような練習を好まないと聞きます。人に合わせるのではなく、自分でペースを作って走る練習で力をつけてきたので、今回もこうしたフォーメーションで走れるような調整をしていたのかもしれません。ただ、今回のレースのように目標タイムにこだわるのであれば、ペースメーカーに委ねて走った方が、ペース設定に余計なエネルギーを使わずに済んだようにも思います。もしペースメーカーが前に立って松田選手を牽引するような形であれば、また違ったタイムが出ていたかもしれないなとも思いました。
五輪や世界選手権にはペースメーカーが存在せず、スピードある外国人選手が前に立って牽引する可能性が高く、レース特有の揺さぶりや駆け引きも発生します。五輪や世界選手権のレースでこだわるべきは、タイムではなく勝負ですから、本番に向けてどのような練習や対策を積み上げていくかが、これからの課題だと思います。