オリンピックは競技者間の競争であり、国家間の競争ではない
オリンピック憲章には、「オリンピック競技大会は、 個人種目または団体種目での選手間の競争であり、 国家間の競争ではない」と記されています。国の戦いではなく、個人の戦いであると捉えられるこの記述を今一度考えてみると、個人よりも組織の論理を優先する今回の陸連の提案に、異論を唱える人が出てきてもおかしくないようにも思います。
もちろん、団体競技と個人競技では、勝利に対する考え方や価値観は異なります。ラグビーやサッカーといった団体競技は、「誰かのために戦う」「チーム一丸となって」という言葉や思いが力につながりやすいように感じます。一方、個人競技ではどうでしょうか。少なくとも私自身は、「自分自身のために戦う」という意識が大きな原動力になっていました。
今回の提案は、あくまで提案であり、最終決定は3月になる見込みです。さまざまな思惑が渦巻く中、陸連、監督・コーチ、そして当事者である選手が声を上げて、大いに議論する余地があるでしょう。選手が自分たちの意思で決めて、覚悟を持って挑んだ結果と、そうではない結果では、後悔や納得の度合いが異なります。そのことは、東京五輪以降の人生にも大きく影響するでしょう。選手たちが責任と覚悟を持って五輪に挑める状況になることを切に願います。
(まとめ:高島三幸=ライター)
元マラソンランナー(五輪メダリスト)

1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。公式Instagramアカウントはこちら。