東京マラソンの人気などを背景に、ランニング人口は2080万人に増加し、各種スポーツの中でも高い関心を集めています。特に20~40代の男性の参加が多い一方で、アスリートのような走りを性急に求めすぎた結果、故障をしてしまう人も少なくありません。そんな状況に危機感を抱くのは、五輪マラソンメダリストの有森裕子さん。トップアスリートならではの深いランニング知識を基に、楽しく長く走り続けるためのコツをお届けします。
マラソンを始めると、様々な能力が鍛えられます。持久力はもちろん、つらくて苦しい時間を乗り越える精神力も身についていきます。それはどの年代から走り始めても、です。マラソンで培った能力は、仕事にもきっと役立つでしょう。
ただ、私の経験から言えば、そうした能力を身につけ高めるためには、ただ走るだけではダメ。やはり“食事”が大きく影響するのではないかとも思います。
食は体を作り、体はメンタルを作る
当たり前ですが、健康な体は一朝一夕で作り上げられるものではありません。いかにバランスのいい食生活を続けてきたかが、マラソンランナーのみならず、スポーツに携わる人々、もちろん日々厳しいノルマをこなすビジネスパーソンにも重要なポイントになります。
食は体を作り、体はメンタルを作る。それが長い距離を走りきる精神力につながります。脳も食事で作られ、その脳から発信された指令で体は動くわけです。となると、幼い頃からきちんとした食生活を送ってきた人と、そうでない人では、乗り越えられる練習の質や量も変わると思います。
先天的な才能よりも、後天的な努力がものをいうマラソンというスポーツには、食生活を含めて育ってきた環境が、多少なりとも影響するのではないかとも思います。もちろん、子どもの頃だけではなく、今の食生活が大事なのはいうまでもありません。
偏食だった私を変えてくれた母の食育

私は大学時代まで実家に住んでいたのですが、当時は、調理師免許を持ち、大学の学生食堂で働いていた母が、毎日バランスの良い食事を作ってくれていました。幼い頃、私はアトピー性皮膚炎だったので、より食事には気をつけてくれていたのだと思います。
さらに私は好き嫌いの激しい子で、根菜類などの煮物が食べられず、噛む力も内蔵も弱かったために食の細い子どもでした。母は手を替え品を替え、調理方法や味つけを工夫して、嫌いなものを食べられるようにしてくれました。そんな食生活の積み重ねのおかげで、やがて私の体は丈夫になり、身長も伸びました。
食への関心が高かった母は、「なぜインスタント食品に頼るのは良くないか」、「なぜその食材を食べなければいけないか」といった説明をよくしてくれたものです。加工食品とは違って、旬の食材、新鮮な食材は栄養価が豊富です。母はこだわりをもって栄養価の高い食材をバランス良く選んでくれていました。この季節にはこの食材を食べるとおいしくて、こんな栄養素がある、といった知識は私自身にも自然に受け継がれ、食について考える癖が身についていったのです。
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