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「腰が痛い」ときの対処法 ~この方法で痛み解消

【腰が痛い】長年の「腰痛」から、解放されるかも

第1回 ここ10年で腰痛治療はこんなに変わった

 梅方久仁子=フリーライター

 つらい腰痛があるのに、湿布薬やマッサージでごまかしていないだろうか。「むかし、整形外科に行っても、あまり変わらなかったし」という人も、ぜひこの記事を読んでほしい。
 ここ10年で腰痛治療は、大きく変わった。視点を変えて新しい治療法を試せば、がんこな腰痛が劇的によくなるかもしれない。腰痛治療の第一人者で『腰痛診療ガイドライン2012』の策定にも加わった日本医科大学病院教授・多摩永山病院整形外科部長の宮本雅史氏の話を基に、最新の腰痛治療についてまとめた。

お医者さんの虎の巻で明かされた3つのポイント

 腰痛治療の何が変わったのかを紹介する前に、『腰痛診療ガイドライン』について少し説明しておこう。

 医学の進歩はめざましい。年々新しい医学情報が発表され、たとえ医師でも、すべてを把握するのは不可能な状態だ。そこで、さまざまな分野で専門家が集まって"診療ガイドライン"が作成されている。最新の臨床研究を基にした診断法や治療法をまとめたもので、いわば、お医者さんの虎の巻だ。

宮本雅史氏
日本医科大学病院教授、多摩永山病院整形外科部長
専門は、脊椎脊髄病及び腰痛疾患の診断と治療。『腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン』『腰痛診療ガイドライン』の策定に委員として参加

 腰痛についても、日本整形外科学会と日本腰痛学会の監修により、最新の研究報告をまとめた『腰痛診療ガイドライン2012』が策定された。このガイドラインには、最先端の腰痛治療の粋が詰め込まれていると言ってよい。その中に、これまでの一般常識を覆すような内容があって、話題を呼んでいる。

 「ここ10年で腰痛治療は大きく変わりました」と宮本氏は言う。「いま受診していただければ、これまで治らなかった慢性腰痛でも、これまで思いもかけなかった治療法で、よくなるかもしれません。ある意味受診をお薦めできる時期です」

 『腰痛診療ガイドライン2012』に反映された最新治療のポイントは3つある。1つは、「心因性の腰痛」。2つめは、「安静の効果と運動療法」。3つめは、「薬剤治療の多様化」だ。それぞれについて、詳しく説明しよう。

精神ストレスが、腰痛を招く

 腰痛といえば、椎間板ヘルニアなど身体のどこかに異常があってなるものだと、一般的には考える。ところが、身体の組織に異常はなくても精神的なストレスや強い不安から痛みが起きたり、腰痛の原因だったケガが治ったあとにも、痛みが残ってしまうことがあるという。

 痛みに心因性のものがあることは、医学的には以前からわかっていた。

 痛みのことを医学用語で疼痛という。疼痛は「侵害受容性疼痛」「神経障害性疼痛」「心因性疼痛」の3つに分けられる。

 侵害受容性疼痛は、やけどや切り傷など身体に刺激を受けて感じるものだ。神経障害性疼痛は、神経組織に障害が出て、痛みがあると感じてしまうもの。そして心因性の疼痛は、本来は痛みの原因がないのに、精神的なストレスや不安から痛いと感じたり、弱い痛みを強く感じてしまったりするものだ。

痛み(疼痛)を起こす要因は3つある
  • 侵害受容性疼痛…身体組織への刺激
  • 神経障害性疼痛…神経の障害
  • 心因性疼痛…心理的影響

 心因性疼痛は医学の常識であり、医師の間では、当然、腰痛にも心因性のものがあると考えられていた。しかし、これまでははっきり確認されていないため、あまり積極的な治療法にはつながっていなかった。

 それが最近の臨床研究で、心因性の腰痛が確かにあることが、科学的に確かめられてきた。そして慢性腰痛には、「抗うつ薬」や「抗不安薬」が効き、「認知行動療法」など心理的アプローチが有効であることがわかってきている。

思い込むことで不安を感じ、痛みが生じる

 認知行動療法とは、説明や訓練で認知(ものの受け取り方や考え方)を変えて、精神的なストレスと上手につきあえるようにしていく治療法だ。考え方を変えることで精神的なストレスが減り、日常生活や社会生活が送りやすくなる。うつ病、ストレス障害、統合失調症などの精神障害には広く使われる方法だ。

 重症の腰痛では、腰痛に対する恐れや不安を持ってしまい、社会生活や職場復帰が難しくなることがある。たとえば「少しでもかがむと痛くなる」と思い込むと、それだけで不安を感じて、長時間の外出や出勤が難しくなってしまう。

 そこで、「コルセットで固定すれば大丈夫」「もし痛み出したら、休憩室で横になればいいだけ」のように考え方を変えたり、少しずつ試して自信をつけたりしていくと、職場復帰や社会復帰につながっていく。実際に、整形外科医だけではなく、精神科医、臨床心理士、理学療法士などのチームで認知行動療法に取り組んで、痛みの治療に成果を上げている医療機関が増えてきている。

 ここで気をつけたいのは、「単なる気の持ちよう」と素人が決めつけないことだ。心理的なものといっても、本人は実際に激痛を感じているし、本人の意志だけで、ものの受け取り方や考え方を変えることは難しい。専門家のサポートが必要だ。ただ、いままで原因不明で治療法が見つからなかった慢性腰痛でも、心因性とわかって治療すれば、よくなる可能性がある。

安静よりも、適度な運動が効果的

 腰が痛いのなら、じっと安静にしていたほうがいい。それが、世間一般の常識ではないだろうか。しかし、最新の臨床研究では、じっと寝ていても効果がないばかりか、むしろ痛みを強く感じたり、長引かせてしまうことがわかってきた。

 腰痛があっても安静にせず、できるだけ普段の生活に近い形で過ごしたほうがよい。「痛い場合には、サポーターやコルセットの助けを借りてでも、動くほうがいいんです。どうしても動けないときに数日くらい休むのは、しかたないでしょう。でも、できるだけ早く前の生活に戻る努力をするべきです。そのほうが、慢性化して長期間休職したり離職したりという事態を防げます」と宮本氏。

 ただ、コルセットやサポーターに頼りすぎると、体幹の筋力が落ちてしまう。器具をどう使うかは、医師と相談して決めよう。

 安静がよくないのなら、積極的に動かす「運動療法」はどうだろう。さまざまな研究で、慢性腰痛では運動療法に高い効果があることが、はっきりしてきた。もっとも、どのような運動が効果的かは研究途上で、まだよくわかっていない。

 宮本氏の考えでは、強い運動をいきなりやるのではなく、運動習慣をつけることが大切だという。「週に2、3回、腰周りの筋肉のストレッチと筋力トレーニングをやるといいでしょう。少し汗をかく程度に3、40分やるのがお薦めです」とのこと。

 「痛いのに運動なんかできるか」と思うかもしれないが、運動といってもいろいろな方法がある。医師と相談して、痛くなく、安全で、しかも効果的な運動法を教えてもらおう。

使える薬が増えている

 10年くらい前までは、腰痛の薬物治療というと「非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)」くらいだった。現在は症状、原因、病歴などにあわせて、多様な選択ができるようになっている

 腰痛治療で最初に使われるのは、NSAIDsか「アセトアミノフェン」だ。NSAIDsというと聞き慣れないが、「ロキソニン」や「ボルタレン」という商品名を聞いたことはあるだろう。アセトアミノフェンも「カロナール」などの商品名で知られている。どちらも古くからある鎮痛薬だ。

 NSAIDsは鎮痛効果が強いが、副作用がやや強い。アセトアミノフェンは副作用が少ないが鎮痛効果がやや弱い。アセトアミノフェンには、値段が非常に安いというメリットもある。どちらを使うかは医師の考えによるが、日本ではNSAIDs、欧米ではアセトアミノフェンを最初に使うことが多い。

 NSAIDsには強い鎮痛作用があるが、消化管の粘膜障害という副作用がある。薬の特性として、痛みを感じにくくすると同時に、胃粘膜を保護する機能を抑えてしまうのだ。長期間使うと非常に難治性の胃潰瘍ができたりするので、注意する必要がある。

別の鎮痛剤を試す方法もある

 ところが、最近ではNSAIDsの中でも胃粘膜の保護機能にはあまり影響しないで、痛みだけを抑える「COX-2選択的阻害薬」が新たに開発されている。これまで胃潰瘍の経験があるとNSAIDsを使えなかったが、COX-2選択的阻害薬なら利用可能だ。

 最近は、「オピオイド」も腰痛に使われるようになってきた。オピオイドはモルヒネ類似の鎮痛薬の総称だ。鎮痛作用は強力だが管理が難しく、以前はがんの終末期にのみ使われていた。それが、最近では経口薬や貼付薬が開発され、腰痛などの慢性痛にも使えるようになった。医師の指示で慎重に使う必要があるが、NSAIDsが効かない強い痛みにも使える薬があるということだ。

 椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症など、下肢症状を伴う痛み(末梢神経障害性疼痛)には、「抗けいれん薬」が効くことがわかってきた。ここ2、3年でよく使われるようになっている。

 心因性腰痛らしいとわかれば、「抗不安薬」や「抗うつ薬」も選択肢に入る。

 腰痛には、原因がよくわからないまま長期間続くものがある。以前は鎮痛薬をもらっても、あまり効かなければ、そこでおしまいだった。しかし、今は他の薬を使ってみることができるし、運動療法や認知行動療法もある。治療の選択肢が増えることで、よくなる可能性が広がっている

(写真:中野和志)

この記事は、nikkei BPnetの2014年1月29日付け記事の転載です。