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疲れたら「ボディスキャン瞑想」! 頭から順に意識集中し、違和感探る

第16回 オフィスでのマインドフルネス瞑想活用

 奥田弘美=精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家

 こんにちは、精神科医&産業医の奥田弘美です。朝夕の寒さが増すとともに街にはコート姿の人が目立つようになりました。あなたの心と体はお元気でしょうか? さて今回は、「オフィスでのマインドフルネス瞑想活用」をテーマにお伝えしたいと思います。

働く人はいつも緊張している

ボディスキャン瞑想(めいそう)は座れる場所ならどこでもやれる。オフィスでの仕事の合間などにやってみよう(c)gstockstudio-123rf

 私は産業医として現在20の企業を毎月訪問していますが、そのほとんどが都心のオフィスです。現代のオフィスは例外なくパソコンが完備され高度にIT化されています。そのため、こうした環境で働く人に共通して発生しやすい、私がよく「オフィス病」と呼んでいる病態があります。これは分かりやすく言うと「心と体の過緊張状態」のことです。

 心の過緊張については、第1回「働く人に多い『過緊張』、1分間マインドフルネスで予防を」で詳しく紹介しましたが、間がかなり空いてしまったので簡単に復習しましょう。

 心の過緊張状態とは、医学的に正確に表現すると「交感神経の過度な緊張状態」のことで、主に次のような症状のことです。

  • 夜寝るときになっても、仕事や人間関係のことが頭から離れず、緊張が解けない。
  • 体は疲れているのに妙に頭がさえてしまい、なかなか寝付けない。
  • 仕事や人間関係の夢をよく見るために、夜中や早朝に目覚めてしまう。
  • イライラや不安など感情が不安定で、緊張がとれない。時間に追われる感じがつきまとう。
  • 朝起きても体の疲労や心の緊張がとれていない。

 デジタル化が進み、効率ばかりが重視されるようになった日本の職場では、1人当たりの仕事の量が激増している一方、人間関係が複雑化かつ希薄化しています。心を割って同僚や上司と相談したり悩みを共有したりする「ほっとする場や時間」がどんどん消滅し、職場でのリラクゼーションが難しくなっています。またIT技術が発達したために自宅にいても夜中になっても休日でさえも仕事ができてしまい、ONとOFFのメリハリがなくなっています。そのため仕事から完全に離れてリラックスできる時間も激減しています。こうした状況から、現代のIT環境下では働く人は誰もが過緊張状態に陥りやすくなっています。

 この過緊張状態は放っておくと危険です。連続すると本格的な不眠症やうつ病に移行してしまうからです。

 「働く人に多い『過緊張』、1分間マインドフルネスで予防を」の記事では、心の過緊張状態を解消するための一つの方法として、マインドフルネス瞑想法の一つ「深呼吸瞑想」をご紹介しました。今回は、心の過緊張だけではなく、体の過緊張にも役立つマインドフルネス瞑想法をご紹介したいと思います。

「ボディスキャン瞑想」で体の緊張や異変に気づく

 私が産業医面談をする中でしばしば遭遇するのが、自分自身の体や心の過剰な緊張状態や異変に気づいていない人たちです。時間に追われながらIT機器にへばりついている時間が増えれば増えるほど、その日常が当たり前となってしまい体のコリなどの慢性的な不調や心の緊張に慣れてしまうのです。長時間労働が連続している過重労働者になればなるほど、その傾向が高いように感じています。そこでお勧めするのが、マインドフルネス瞑想の中でも「ボディスキャン」と呼ばれる瞑想法です。

 マインドフルネス瞑想はいくつも種類があるのですが、このボディスキャン瞑想はその中でも特に体と対話し、体と心のつながりを回復させる効果の高い瞑想法です。時間に追われた慌ただしい毎日を送っていると、体からのメッセージを感じ取る能力が衰えてしまいます。このボディスキャン瞑想を行うことで体に表れている筋肉のこわばりや心の緊張に気づきやすくなります。また体全体をじっくり感じることで、普段は気づかずにいる体からのメッセージを受け止められる、体や心の不調に早めに気づけるようになります。

 次にそのやり方を箇条書きにまとめました。

 ボディスキャン瞑想は座位が取れる場所ならどこでも可能です。ぜひオフィスの仕事の合間や、夜に自宅に帰って人心地ついたときに試してみてください。

ボディスキャン瞑想のやり方

ボディスキャン瞑想。日中であれば太陽の光、夜であれば懐中電灯で自分の体の部位を照らすイメージで行いましょう(イラスト 新倉サチヨ)
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1 肩幅程度に足を広げてゆったりと立つか、背筋を伸ばして椅子に座ります。

2 心地よく自然な呼吸を行います。軽く目を閉じます。

3 朝や昼であれば、明るい窓辺で行うのもお勧めです。太陽の光が自分の頭のてっぺんから体の中に入ってくる感じをイメージします。夜であれば体の各部位を懐中電灯で照らしながらチェックしていくようなイメージを持ってもよいでしょう。普段は無視している微細な体の感覚をじっくりとチェックしながら感じていきます。

4 まず自分の頭部をスキャンしましょう。光で頭の表面や頭の内部をくまなく照らしていくイメージを持つと、普段は意識していない頭の皮膚感覚や脳の状態をチェックしやすくなります。もしかしたら頭の皮膚の一部がかゆく感じるとか、髪の毛がかすかに風で揺れている感覚に気づくかもしれません。感覚をキャッチしたら、「あ、かゆみがある」とか、「あ、髪が揺れている」と気づいてください。

5 過緊張や睡眠不足の人は、頭の中に重い不快な塊のような感覚があることもよくあります。そうした不快な感覚をキャッチしたら、呼吸に合わせて新鮮な空気をその塊に送り、不快な感覚を呼気とともに吐き出すイメージを何回か行ってみてください。多少でも不快感が和らいだら、次の体のパーツにスキャンを移動させましょう。

体や頭の中に「不快な感覚」を発見したら、その感覚や塊に対して新鮮な空気を送り込み、吐き出しましょう(イラスト 新倉サチヨ)
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6 同じように光で照らしていくイメージを続けながら、両目、鼻、口周り、ほほ、顎などそれぞれのパーツの感覚を入念に意識して感じ取ってみてください。

7 知らず知らずに緊張していると、目の周り、ほほ周りの筋肉が固まっていたり、歯を食いしばっていたり、顎に力を入れていることがよくあります。力が入っているな、固まっているなと感じたら、その箇所に呼吸とともに新鮮な空気を送りながら、意識的に力を緩めてあげてください。

8 続いて同じように光の流れとともに、首→両肩→胸→背中→腹→お尻→左右の太ももからふくらはぎ→両足底といった感じで、次々とそれぞれの部位を意識しながら、様々な感覚をスキャンしていってください。全身をスキャンする時間がないときは、「頭部と首筋だけ」「肩と背中だけ」などと部位を決めて行ってもかまいません。

瞑想で気づいた不快な感覚はイエローサイン

 ボディスキャン瞑想は、マインドフルネス瞑想の一つですので、もちろん「今ここ」に心を連れ戻し、過去や未来へと注意が散乱してしまうことを防ぐ効果があります。マインドフルネス瞑想には、「心の筋トレ」と表されるように、続けていくことで未来の不安や過去への後悔といった心を乱す感情や思考にとらわれにくくなり、今ここに対する集中力が増すという効果が期待できます。

 今回ご紹介したボディスキャン瞑想には、これに加えて体の様々な隠れた不調に気づきやすくなるという効果があります。ボディスキャンしている最中に「頭の奥に重い石のようなものがある」「胸の奥や肩の筋肉の中に重くてつっぱった板のようなものがある」などと不快な緊張やこわばり、重だるさといった不快な感覚に気づくことがよくあります。特に過緊張に陥っているときや心身の疲れを感じているときには、そのような「不快な感覚」が発生しやすくなります。

 先述したように、こうした「不快な感覚」を発見したときには、その不快な感覚や塊に対して、静かな呼吸とともに新鮮な空気を送るイメージを描いてみましょう。息を吸ったときに新鮮な空気がその不快な箇所に送り込まれ、息を吐き出すとともに不快な感覚も外に出ていくようなイメージを持ちながら、静かに深く呼吸をすることで副交感神経が優位になるため、筋肉の緊張が緩むとともに心拍数や血圧が落ち着き、末梢血管の血流が改善するといったリラクゼーション効果が期待できます。

 この「空気を出し入れするイメージ」を静かな呼吸とともに何回か続けていると、不快な感覚が少し落ち着いてくることがよくあります。感覚によってはすう~っと消えてなくなるものもありますし、こわばりや緊張が緩んでくることもあります。もしボディスキャン中に体のどこかの痛みや異変に気づき、それがずっと続くようなら該当する医療機関の受診を検討してください。

 頭痛ならば頭痛外来、筋肉や関節系の痛みならば整形外科、食道や胃の鈍痛や不快感ならば消化器内科などがお勧めです。これらの診療科で異変が見つからない場合や心労が高度な場合は、メンタル疾患の症状が出ている可能性もありますので、心療内科や精神科のクリニックにも相談してください。


こちら「メンタル産業医」相談室

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第 1 回 働く人に多い「過緊張」、1分間マインドフルネスで予防を

奥田弘美(おくだ・ひろみ)さん
精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家
奥田弘美(おくだ・ひろみ)さん 1992年山口大学医学部卒。精神科臨床および都内18カ所の産業医として日々多くの働く人のメンタルケア・ヘルスケアに関わっている。著書は「1分間どこでもマインドフルネス」(日本能率協会マネジメントセンター)、「一流の人はなぜ眠りが深いのか」(三笠書房)など多数。日本マインドフルネス普及協会を立ち上げ日本人に合ったマインドフルネス瞑想の普及も行っている。