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「隠れ疲労」の兆候を感じたら、何も予定を入れない休日を

第24回 夏うつ予防のための休日の過ごし方

 奥田弘美=精神科医(精神保健指定医)・産業医・労働衛生コンサルタント

こんにちは、精神科医・産業医の奥田弘美です。今回も前回「梅雨の隠れ疲労、放置すると『夏うつ』? 解消する3つのヒント」に引き続き、「隠れ疲労」の対処法についてお話ししたいと思います。最もお伝えしたいのは「何もしない休日」の重要性です。

「隠れ疲労」についておさらい

「隠れ疲労」が気になる方は、休日は何も予定を入れないのがお勧めです。写真はイメージ=(c)Antonio Guillem-123RF

 まずはざっと復習です。社会的・環境的な変化が目白押しの3月、4月に発生した心身の疲れをゴールデンウイークの休みに解消しきれないでいると、疲労が引き続き蓄積していく。自律神経の乱れや気力の低下が知らず知らずのうちに進み、高温多湿の環境ストレスが高まる6月、7月、8月に「夏うつ」ともいえる病的な症状として顕在化しやすい――そのようなことを前回は解説しました。併せて、「隠れ疲労」の症状をいくつかチェックリスト風にまとめました。ここでも再度掲載いたしますので、前回をお読みになっていない方はチェックしてください。読まれた方は、このページの最後の段落にお進みください。

  • 仕事や人間関係のことで、普段より細かいことが気になりやすい。
  • そのためつい夜遅くまで考えこんだり、早めに目が覚めたりと、熟睡できる夜が減っている。
  • 何となく体が重だるいと感じる日が増えている気がする。
  • 家事や仕事上のルーティンワークに対して、普段より「面倒くさい」と感じイラッとしやすい。
  • 病院に行くほどではない程度の胃もたれ、便秘、下痢といった消化器症状の乱れや、肩こり、頭痛、耳鳴りなどの体調不良が、以前より頻繁に起こりがち。
  • 休日に遊びや研修などの予定を入れてみるものの、いざ出かけるとなるとテンションが下がり、出かけるのをためらう。頑張って外出しても、すぐに疲れてしまってあまり楽しめなかったりする。

 現時点でこのような症状が表れている方は、まず平日に、心と体のセルフケアを意識しながら働くことを強くお勧めします。平日は、心身の緊張を促す交感神経系がどうしても活性化しやすいため、睡眠、食事、移動時間などを上手に活用して、意識的に副交感神経を優位に働かせリラックスを促したいところ。そのコツを前回「梅雨の隠れ疲労、放置すると『夏うつ』? 解消する3つのヒント」で詳しくお伝えしました。

休日は「Beingモード」で

 今回は「隠れ疲労」を抱えている人に休日の過ごし方を提案したいと思います。一言で言うと、隠れ疲労の症状が出ている方は、休日は徹底して「心と体の休息」のために過ごされることをお勧めします。ただでさえ祝日がない6月から7月前半にかけては、土日の休日は貴重な休息日です。隠れ疲労の症状にチェックが多く入る人ほど、時間に追われず済むよう「何も予定を入れない休日」をお勧めします。

 私はこれを「Beingモード」の休日と名付けています。「Being」とは、「ありのまま、あるがまま」ということ。心理学やマインドフルネス瞑想(めいそう)で心のあり方としてよく使われますが、ここでは「心のおもむくままに過ごす」という意味で使っています。つまりその日の自分の心の声に正直になって、家で休みたければ休む、人と会いたくなければ一人でいる、散歩に行きたくなればふらりと行くといった過ごし方です。

疲れがたまっているときは、体力消耗度の高い運動は控えましょう。写真はイメージ=(c)maridav-123RF

 片や、習い事に行く、家族や友人とレジャーや遊びに興じる、セミナーに参加するなど「何かをしようとする休日」は、「Doingモード」の休日です。「Doing」は、多かれ少なかれ緊張を促す交感神経を活性化させてしまうのが特徴です。

 時間に追われ、「ねばならない」という感覚が強くなればなるほどリラックス度が乏しくなり、体力・気力が消耗されます。隠れ疲労の方は、資格取得などの勉強系セミナーや、体力消耗度の高いトレーニングやハードなスポーツなどの、自分を緊張させたり頑張らせたりするタイプの予定はしばらく控えることをお勧めします。

 雑誌やウェブサイトでは、「健康のために1週間に一度は汗をかくような運動をしましょう」などとよく書かれていますが、強度の高い運動は、あくまでも心身が健康なときにプラスアルファとして行う健康法です。ストレスや睡眠不足で自律神経系が乱れかけている状態で、激しいスポーツやトレーニングをやると、さらに疲労が蓄積して症状が悪化しかねません。サッカーや長距離マラソン、ハードな筋トレや登山といった強度の高い運動をしている方は、くれぐれも無理をされないようにしてください。

 ちなみにヨガやピラティス、マインドフルネス瞑想(めいそう)、心理系セミナーなど、昨今は疲労やストレス対策をうたった習い事や研修も多数開催されていますが、これらも体力消耗は激しくないものの「習い事や研修に参加する」という点で「Doing」の一種となるので要注意です。体力や気力にさほど問題がない場合は参加してもよいと思いますが、そもそも他人の中に出かけていき親しくない人とコミュニケーションをとる、時間に縛られて行動する、新しいことにチャレンジすること自体が交感神経の緊張を上乗せし、気力が消耗する原因になります。ご自身の心と体の疲労度に合わせて、習い事やセミナーへの参加は賢く取捨選択するとよいでしょう(*1)。

 また、たとえ親しい仲間との遊びや慣れ親しんだ趣味の予定であっても、午前中に予定を入れてしまうと、「○時に起きて、○時に駅に行って…」と交感神経がピリピリ働いてしまうので、深いゆったりした睡眠がとれなくなる恐れがあります。隠れ疲労度が高い人ほど、リラックスして深い睡眠をしっかり取りましょう。せめて午前中には予定を入れず、睡眠不足気味の方は普段より2~3時間多めの睡眠をとって1週間の睡眠負債をしっかり返しましょう。

睡眠負債もしっかり返す

 ちなみに「睡眠リズムを狂わせないために休日も平日と同じ睡眠時間がよい」という専門家もいますが、それは睡眠時間が平日でもきちんと確保できている人に対しての見解です。

*1 すでに習得しているマインドフルネス瞑想やヨガ、ピラティスなどを、自宅や慣れ親しんだ場所などで、時間に縛られずにゆったりと自分のペースで行うのは、「Beingモード」に入りますので疲労時に行っても差し支えありません。

 そもそも日本のビジネスパーソンは睡眠不足が常態化しているため、平日にたまった睡眠負債を休日に少しでも返しておかないと、疲労が蓄積し、健康悪化につながってしまいます。昼夜逆転するような極端な遅寝はいけませんが、午前10時ぐらいまでの「遅めの午前中」に起きる程度の「しっかり寝」をして睡眠負債を返すことは、ビジネスパーソンの疲労を回復させるためには非常に重要だと私は感じています。

 実際、最近発表されたスウェーデンのストックホルム大学の研究(*2)では、週末の寝だめが死亡率の低下に役立つという結果が報告されています。この研究では、毎日5時間未満の睡眠を続けた65歳未満の人は、毎日7時間眠る人に比べて死亡率が高くなるが、同じく平日は5時間未満の睡眠であっても、週末に朝寝坊して数時間多く眠っている人の場合、死亡リスクの上昇は認められなかったというデータが示されました。

 急なイベントや休日出勤によって、この「しっかり寝」する休日が損なわれたために、一気に自律神経失調症状や抑うつが病的レベルになってしまったビジネスパーソンに、今までに何人もお目にかかりました。平日に寝不足が続いている人は、休日にしっかりと寝るようにしてください。

 そうして深く十分に眠って気持ちよく目覚めたあとは、心のおもむくままにのんびりと過ごしましょう。時間に縛られない「Beingモード」の休日が、緊張を解きほぐしてリラックス度を自然に高めてくれます。体の疲労度が高く、家でボーッとしたければそれでもOK。家事はできるだけ手を抜いてゆったりのんびり過ごしましょう。午後から少し動きたくなったら近場の公園を散歩したり、近隣のショップをふらりとのぞいたり、軽めのストレッチ系の運動をしてみたり…。そんな身も心もフリーな休日は、時間にもコミュニケーションにも気を使わなくてもよいため、心身の緊張度がぐっと緩和されます。

 そして疲労が回復してきて気力や体力が普段のレベルに戻ってきたならば、次の休日にはスポーツやジムで無理しない程度に汗をかくのもよいでしょうし、新しい知識を得たりスキルをアップしたりするためのセミナーや習い事に短時間だけ出かけてみてもよいと思います。

 ただし、いくら「心のままに」といっても、昼間からアルコールを多量に飲んだり、甘い物を爆食いしたり、交感神経を高ぶらせるゲームに一日中興じたり、夜遅くまでDVDを観たりといった、不健康な心の声には応じないでください。あくまでもご自身をいたわる、健全な心の声のみに従っていきましょう。健全と不健全との区別がつかない方は、「ご自身の大切な子どもやパートナーなどの家族やペット」をイメージしてください。「自分の愛する、生きとし生けるもの」が弱っているときに、その行為を自分は勧めるかどうか? このように自分に問うてみると、おのずと答えは得られると思います。

 不快指数の高い梅雨から夏を、心身の疲労を悪化させることなく無事に乗り切るために、ご自身の心と体に対して、しっかり丁寧にケアしてあげる思いやりを忘れないでください。

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奥田弘美(おくだ ひろみ)さん
精神科医(精神保健指定医)・産業医・労働衛生コンサルタント
奥田弘美(おくだ ひろみ)さん 1992年山口大学医学部卒。精神科医および都内20カ所の産業医として働く人を心と体の両面からサポートしている。著書には「1分間どこでもマインドフルネス」(日本能率協会マネジメントセンター)、「何をやっても痩せないのは脳の使い方をまちがえていたから」(扶桑社)など多数。日本マインドフルネス普及協会を立ち上げ日本人に合ったマインドフルネス瞑想の普及も行っている。