日経グッデイ

メタボ・肥満解消に効果!「代謝アップ」大作戦

「プラス10cm歩行」で、ウォーキング効果は格段に上がる

記者の歩行年齢も「プラス10cm歩行」でマイナス7歳に!

 村山真由美=フリーエディタ―・ライター

 健康のためにウォーキングを行っている人は多いだろう。代謝アップのためには「速歩き」が有効という話を前回記事「5000人研究で判明!代謝を上げ病気を予防するウォーキングの黄金律」でお伝えしたが、最近は、歩行の速度だけでなく、歩き方によって、歩行機能を評価したり、健康との関わりを調べることができるようになってきたという。人それぞれ歩き方には特徴があるものだが、歩き方と健康にはどのような関係があるのだろうか。老化予防に有効な運動に詳しい東京都健康長寿医療センター研究所の金憲経さんらに話を聞いた。

「筋力」と「バランス力」の衰えが歩行機能を低下させる

 ウォーキングが代謝アップにつながり、体にいいとは言っても、「ただ歩くだけ」ではダメだという話を前回の記事でお伝えした。東京都健康長寿医療センター研究所の金憲経さんも、「最近、歩行速度や、歩幅歩隔(左右の足の間の横幅)、歩行角度(進行方向と踏み出した足の角度)、つま先角度(内股か外股か)などが、健康と深く関わっていることが分かってきました」と話す(図1)。

 金さんの研究によると、転倒、ひざの痛み、尿失禁などの軽い症状がある人は歩行速度が遅い傾向があった。さらに、これらの症状が中程度以上の人は、歩行速度が遅いだけでなく、歩幅が狭く、歩隔が広く、外股であることが分かったという。

図1 歩幅、歩隔、歩行角度って?
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歩行機能が低下すると転倒リスクが上がる

 「1秒間に1メートル以上歩く人は歩行速度が『速い』、1メートルに満たない人は『遅い』と判断でき、歩行機能が低下すると転倒のリスクが2.9倍高まることが分かっています。これは足や体幹の筋肉の衰えが関係しています(*1)」(金さん)

(*1)Cesari M, et al. J Am Geriatr Soc. 53: 1675-1680, 2005.

 速く歩くには、つま先を持ち上げる「前脛骨筋(ぜんけいこつきん)」や、足を持ち上げる「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」や「腸腰筋(ちょうようきん)」、足を後ろに蹴り出す「下腿三頭筋(かたいさんとうきん)」がしっかりついている必要がある。これらが衰えると、歩くのが遅くなるだけでなく、歩幅が狭く、「すり足」になり、ちょっとした段差につまずきやすくなるのだという(※それぞれの筋肉が体のどこにあるかについてはこちらをご覧ください)。

 「速く歩くと、尿道、膀胱、子宮、膣、直腸を支える『骨盤底筋(こつばんていきん)』が大きく刺激されることも分かってきました。歩行速度が遅い人は骨盤底筋が弱いため、尿失禁になりやすいと考えられます」(金さん)

片足立ちで5秒キープできる?

 筋力と並び、バランス力の衰えも、歩行機能と深く関わると金さんは言う。「片足立ちで5秒間キープできない人はバランス力が低下していると考えられます」

 金さんによると、私たちは日常生活の中において、活動動作のうち約70%は片足立ちをしている。普段は意識しないが、歩くときは一瞬片足立ちになるからで、片足立ちが長くできないことは、歩行機能にも大きく影響するのだという。

 このバランス力の衰えにも、筋力が関係している。太ももの外側にある「大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)」や太ももの前を横切る「縫工筋(ほうこうきん)」、内ももの「大内転筋(だいないてんきん)」、インナーマッスルの「腸腰筋」が衰えると、ひざをまっすぐ前に出せなくなるという。「その結果、歩行時のバランスが悪くなると、まっすぐ歩けなくなったり、バランスをとるために歩幅が狭くなったり、歩隔が広がったり、つま先が外に向きやすくなります。また、重心がぶれると関節に負担がかかるため、ひざ痛の原因にもなる」(金さん)というのだ。

 ひざが痛いと、踏み込むときに体重をのせることができないため、歩行が遅くなったり、活動量が減ったりして、ますます筋力が弱まるという悪循環に陥りやすい。

 では、そうした悪循環に陥らないようにするには、どうすればいいのか。

【対策1】「プラス10cm」の歩幅を心がける

 今、減量や生活習慣病の予防・改善のために、ウォーキングを心がけている人は多いだろう。しかし、「せっかく歩くなら、歩行速度を上げるとともに、歩幅を大きく、歩隔は狭く、つま先角度や歩行角度はまっすぐになるように正しく歩けば、将来の健康維持にも役立つ。それ以外に、足圧と言って、『かかとから着地し、後ろから前に重心を移動させ、しっかり後ろに蹴り出すこと』も大切です」と金さんはアドバイスする(図2)。

図2 ウォーキングのポイント
イラスト提供:花王
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 歩行速度、歩幅、歩隔、歩行角度、足圧と、すべてを一度に意識するのは難しいので、まずは歩幅をいつもより10cm大きくすることから心がけるとよいだろう。

 「歩幅が大きくなると自然にスピードが上がって、足圧も増し、筋トレ効果が期待できます。歩いているうちに、いつの間にか元の歩幅に戻るでしょうが、思い出すたびに
『プラス10cm』
を思い出して、心がければ大丈夫です」(金さん)

【対策2】足の筋力トレーニングを行う

 正しく歩くためには、前述した通り、足の筋力が十分についていなければならないが、筋肉は加齢とともに減少する。「20歳と80歳を比較すると、全身の筋肉は男性では29%、女性では24%減少します。ところが、足の筋肉に限定すると、男性は37%、女性は29%減少します(*2)。つまり、足の筋肉の減少は、他の部位より顕著だということです」(金さん)

(*2)金ら、体育学研究 44: 500-509, 1999

 まさに、「老いは足から」なのだ。

 もしあなたが、すでに「すり足」気味になっていたり、片足5秒立ちができない場合は、筋力がかなり衰えてきていると考えていいだろう。そこまでではないが、自分の筋力が弱いか強いか知りたい人は、手の「握力」を測ってみるのも一策だ。実は、全身の筋力と握力は相関が高い。「握力が男性は26kg未満、女性は18kg未満だと、全身の筋力も弱いと考えられます。筋力が弱い人は特に、積極的に足の筋力トレーニングを行いましょう」(金さん)

 仕事中や電車の中でもできる、簡単な筋トレを金さんに教えてもらった。毎日気づいたときに、無理のないペースでやってみよう。筋肉を意識して行うことで、効果が上がるそうだ。


簡単な筋トレ体操(図3~図6参照)イラスト提供:花王

つま先上げ下げ

いすに座って両足を肩幅に広げ、かかとを軸につま先を上げたり下ろしたりする。「すり足」改善に効果。

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鍛えられる場所 すねの筋肉


片ひざ上げ・胸寄せ

いすに座って片足を上げ、ももを胸に引き寄せる。足に力を入れず腹筋を意識。反対側も同様に行う。

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鍛えられる場所 腸腰筋


片足上げ・ひざ伸ばし

ひざを立てた状態で床に座り、片足を上げて、つま先を手前に引いてひざを伸ばす。反対側も同様に行う。かかとを押し出すようにするとと効果的。

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鍛えられる場所 太ももの前の筋肉


足の前後交差

両手で上体を支えながら、両足を同時に上げ、足を前後へ交互に動かす。

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鍛えられる場所 腹筋、おしりの横の筋肉


 太ももの筋肉を鍛えるには、家事をするときにひざを使うこともお勧めだという。「掃除機をかけるときや料理をするとき、棒立ちにならずにひざを少しゆるめる。こうするだけで太ももの筋肉が使われます」(金さん)

記者も「プラス10cm歩行」で、歩行年齢が「-7歳」に!

 ここまでの話で、一言で「歩く」といっても実に奥が深いことが分かった。自分は正しく歩けているのだろうか…と思った人もいるだろう。また、歩幅を10cm広げる「プラス10cm歩行」の効果はいかばかりかと、興味をもった人もいるに違いない。

 そこで、取材班は実際に自分たちの歩き方を測定してもらうため、ある場所を訪れた。東京・墨田区にある花王の東京研究所だ。同社が金さんの協力を得て開発した、人の歩行のクセや歩行年齢が分かる「歩行支援プログラム」を体験するためだ。

 歩行支援プログラムとは、人の歩行を科学的に解析する仕組み。床に敷いたシート式の圧力センサーの上を歩いてもらい、歩行速度、ピッチ(1分当たりの歩数)、歩幅、歩隔、歩行角度、つま先角度、足圧などを測定する。これを、過去2万人の歩行データに基づいて解析し、その人の歩き方の特徴を数値化して提示する、というものだ(詳しくは、下の動画〔約37秒〕、または歩行支援プログラムの解説サイトをご覧ください)。


◆歩行支援プログラムとは
図7 記者Oの測定結果
左上に「歩行年齢」、右上に「将来の自立度」が表示される。歩行速度やピッチは中央下あたりに表示されている
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 具体的には、歩行年齢や今の体の状態(敏捷性、バランス力、筋持久力、筋力、正確性[左右均等に足を使えているか])、将来の自立度や気をつけたいポイント(転倒、筋力低下、尿もれ、ひざ痛、腰痛)などが表示される。これがチャートで示されるため、自分の弱点が一目で分かるようになっている(図7)。

 我々も測定してもらったところ、記者Oは、40代後半にもかかわらず「歩行年齢は62歳」「バランス力が低く、ひざ痛の方と同じ特徴の歩き方」という結果が出た。歩行速度は毎時4.2kmと標準(毎時4.87km)より遅く、1分当たりの歩数を示す「ピッチ」も標準値の124に比べ113と低かった。

 そこで、2回目の測定時、編集者Oは金さんからアドバイスされた「プラス10cm歩行」を意識し、普段より歩幅を10cm広げて歩いてみた。すると、歩行速度は毎時4.2kmから6.0kmに、ピッチも113から127にアップ。スピードが出たせいかバランス力も上がり、歩行年齢は55歳という結果が出た。

 「プラス10cm歩行」は、確かに歩き方の改善につながるといえそうだ。


記者Oの1回目と2回目の比較

1回目の測定2回目の測定
歩行年齢62歳55歳
歩行速度4.2km/時6.0km/時
ピッチ113歩/分127歩/分
 
 

正しい歩き方を「続ける」コツは?

 ただし、「歩き方を改善することは簡単なのですが、正しい歩き方を“続ける”ことは難しいんです」と、花王・開発研究第2セクター パーソナルヘルスケア研究所で歩行解析研究に携わる仁木佳文さんは言う。

 「筋力が低下している人が正しい歩き方をするのはラクではないため、すぐに元の歩き方に戻ってしまうのです。そこで、当社が自治体などと協力して行っている歩行測定会では、参加者に測定会のあと、活動量計(前回記事参照)をつけて毎日、歩行量と歩行速度をチェックするように促しています。そうして日々数値でチェックする習慣をつければ、日常的に正しい歩き方を意識できるようになることが分かりました」(仁木さん)

 筋肉が少ない人は、少ないなりにラクに移動できる歩き方をするという。それを放置すると、背中は丸く、歩幅は小刻みになり、広い歩隔で外股に歩く高齢者特有の歩き方になってしまう。歩き方には年齢が出る。いつまでも若々しい人と見られたいなら、ファッションやメイクで若づくりをするよりも、足の筋肉を強化してさっそうと歩けるようにしたほうがいいようだ。

歩行解析研究に携わる花王のプロジェクトメンバー。前列中央の男性が仁木さん
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 「例えば、歩幅が狭い人が歩幅を広くして歩き続けると疲れてしまいます。歩幅を広げて歩いたり、普通に歩いたりすることを交互に繰り返して、メリハリをつけて歩くといいかもしれません」(金さん)

 花王の歩行測定会は、同社が自治体や企業、高齢者施設などと組んで開催しているもので、個人で直接連絡して測定してもらうことはできないが、少なくとも「プラス10cm歩行」を実践すれば、ウォーキング効果が上がることは分かった。いつもの歩き方を「スモールチェンジ」して、代謝アップを図ろう

まとめ
散歩の際は、「プラス10cm」を意識!
2~3人で散歩をする場合は、思い出した人がその都度「プラス10cm!」と声を出して言うのもいいでしょう。
金 憲経(キム ホンギョン)さん
東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と介護予防研究チーム 研究部長 筋骨格系老化予防の促進 テーマリーダー
金 憲経(キム ホンギョン)さん 1984年慶北大学校(韓国)体育学部体育教育科卒業、1994年筑波大学大学院スポーツ科学研究科修了後、1996年同大学体育科学系講師就任。1998年より東京都老人総合研究所(現:東京都健康長寿医療センター)主任研究員を経て現職。体育科学博士。
仁木佳文(にき よしふみ)さん
花王・開発研究第2セクター パーソナルヘルスケア研究所 プロジェクトリーダー
仁木佳文(にき よしふみ)さん 1987年花王株式会社入社。サニタリー研究所にて乳幼児、高齢者向け商品開発を担当。現在パーソナルヘルスケア研究所にて歩行解析研究を中心とする健康ソリューション研究担当。