日経グッデイ

インフルエンザ総特集

貼るだけでOK! 「痛くない」インフルエンザワクチンの開発が活発化

次に登場するのはどのワクチン?

 大西淳子=医学ジャーナリスト

2017年~2018年シーズンのインフルエンザ流行速報から、知っているようで知らないインフルエンザの基礎知識まで、この特集で一挙解決! インフルエンザ流行マップはこちら毎日更新中です。

鼻の中に噴霧するワクチンだけではなく、注射部位を浅くして痛みを抑えたワクチンや、貼るタイプのワクチンも開発が進んでいる。(C)Boris Bulychev-123rf.

 この冬も、全国的にインフルエンザの流行が始まりつつあります。2017年のインフルエンザシーズンは、ワクチン不足への懸念が広がるなど、波乱含みの幕開けとなりました(関連記事「インフルエンザワクチンが不足、『13歳以上は原則1回接種に』」)。

 ただし厚生労働省によると、12月の第3週には、予定されている2528万本の供給は完了する見込みです。また、2528万本という製造量は、2016年の2784万本に比べれば確かに256万本少なくなっていますが、昨シーズンに実際に使用されたワクチンの本数(2642万本)や、2012年から2016年までの5年間の平均使用本数(2592万本)から考えると、従来通りの接種状況で本当に不足するのは64万本程度と考えられます。

 ワクチン1本には、13歳以上なら2回分の量が含まれています。医療機関が接種予約数に応じて入荷数を上手にコントロールして、ワクチンの廃棄を減らせば、不足は減るはずです。ちなみにワクチンの廃棄量は全体の3%程度と推定されています(*1)。

 厚生労働省が推奨した、「13歳以上の任意接種は原則1回」とする方針が全国で受け入れられれば、不足はさらに減少するはずです。もちろん、医学的に必要と判断された人は、今年も躊躇なく2回接種を受けてください。なお、厚生労働省は、一般には1回接種で問題はないことをQ&A形式で国民に伝えています(*2)。

 さて、通常のインフルエンザワクチンの供給が不足した場合、別の選択肢はないのだろうか、と思う人もいるでしょう。そこで本記事では、国内外で開発が進んでいるワクチンや、承認待ちのワクチンの現状を整理してご紹介します。

【1】代わりに利用できるはずのフルミストは効果に懸念

 まず1つ目が、皮下注射ではなく、鼻腔内にシュッと噴霧するタイプのインフルエンザ弱毒生ワクチン「フルミスト」です。フルミストは既に海外で広く利用されており、ここ数年、国内でも、希望すれば一部の医療機関で接種可能となっています(ただし、フルミストは現時点では国内未承認の輸入品のため、接種に起因する健康被害が起きたとしても、公的な救済は行われません)。

 通常のワクチンが足りないなら、割高でもフルミストを、と考える人もいるでしょう。しかしフルミストは昨シーズン(2016/2017シーズン)、米国で思わぬ逆風にさらされました。米予防接種諮問委員会(ACIP)が2016年6月、「2016/2017年シーズンはフルミストの接種を勧奨しない」と発表したのです(*3)。2012年までの流行期には十分だったフルミストのインフルエンザ予防効果が、2013/2014シーズン以降は見られなくなっていたという調査結果を受けての判断でした。深刻なのは、有効でなくなった原因がいまだ特定されていない点です。

 フルミストは2016年6月に第一三共が承認申請を行っていますが、2017年11月時点で未承認となっています。

*1 延原弘章ほか. 厚生の指標. 2017;24(13):44-52.
*2 「Q.18:ワクチンは1回接種でよいでしょうか?
*3  ACIP votes down use of LAIV for 2016-2017 flu season. Wednesday, June 22, 2016.

【2】痛みの少ない皮内投与型ワクチンも承認待ち段階

 フルミストの申請に先駆け、第一三共、テルモ、ジャパンワクチン、北里第一三共ワクチンが共同開発した皮内投与型季節性インフルエンザワクチンも、2015年4月に承認申請が提出されており、承認待ちの段階にあります。

 フルミストは従来の不活化ワクチンとは全く違う製法で作られた生ワクチンであるのに対し、この皮内投与型ワクチンの成分自体は、現在の不活化ワクチンと同じものです。違いは、皮下注射ではなく、ノック式ボールペンのような特別な注射器を用いて、皮膚のより浅い部分(皮内;皮膚の表面から2mm以内)にワクチンを送り込むという点です。

 皮内には免疫細胞が多いため、皮下に注射するよりもワクチンの効果が高まることが示されています。また、従来に比べ細く短い針を用いるため、痛みも少ないと期待されています。

【3】国産の次世代型経鼻ワクチンの開発も続く

 より有効で安全、かつ安定した効果が得られる「次世代型」経鼻ワクチンの開発に取り組んでいるのは、国立感染症研究所の長谷川秀樹氏らのグループです。

 現在日本で用いられている不活化ワクチンは、インフルエンザの発症予防と症状軽減をもたらしますが、「次世代型」のワクチンは、感染そのものを予防します。さらに、予測された型以外のインフルエンザウイルスが流行しても効果を発揮する経鼻ワクチンになる見込みです。

 長谷川氏らはすでに、承認申請に向けた国内での臨床試験(フェーズ1試験)実施に向けて、試験計画を作成しています。

【4】手首に貼るだけ! パッチ型ワクチンへの期待高まる

パッチ型ワクチンのイメージ。マイクロニードルが100本植えつけられた粘着シートを手首の外側に貼り付けて20分待つ。(Lancet. 2017; 390(10095) :649-658. 掲載の写真を参考に作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 もう1つ、米国で開発が進んでいる新しいタイプのインフルエンザ不活化ワクチンをご紹介しましょう。自分で接種できて、痛みはほとんどなく、安全で安価な「パッチ型ワクチン」です。米国では既に、このワクチンを健康な人に接種する臨床試験が始まっています。

 このパッチ型ワクチンの基本的な構造は、実は、日本でもスキンケア用品として販売されている、目元に貼り付けるヒアルロン酸のマイクロニードルパックとほぼ同じです。小さな粘着性シートの約1cm四方のエリアに、100本の微小な針(長さ650μmのマイクロニードル)が規則正しく植えられており、1本1本の針の中にワクチンが詰め込まれています。

 このシートを手首の外側に貼り付けると、皮膚に浅く刺さった針が溶けてワクチンが皮内に放出され、約20分で接種は完了します。使用後のパッチには針が残らないため、廃棄も簡単です。2015年に100人を対象に米国で行われた臨床試験では、マイクロニードルを用いたパッチ型ワクチンは、従来のインフルエンザワクチンの筋肉注射と同程度の抗体を産生させる効果があり、有害事象の発生率にも差がなかったことが確認されています(*4)。

 また、パッチ型ワクチンを使用した人に、摂取後すぐに痛みの有無を尋ねたところ、96%が「痛みなし」と解答しました。その後、貼り付け部位には、圧痛(66%が経験)、紅斑(40%)、掻痒(82%)などが見られましたが、この接種方法に対する好感度は高いことがわかりました。

 自分で接種でき、廃棄は容易、かつ冷蔵が不要(40度で1年間保管しても変化なし)で安価、となると、従来型ワクチンを接種する方法として、パッチ型ワクチンは非常に有望と考えられます。今後の開発の進展に期待したいところです。

*4 Rouphael NG, et al. Lancet. 2017 Aug 12;390(10095):649-658. doi: 10.1016/S0140-6736(17)30575-5. Epub 2017 Jun 27.