日経グッデイ

一から学ぶ、認知症

認知症のリスク増も!? 注意したい薬の重複と飲み合わせ

認知機能が低下した高齢者の薬の飲み忘れとその対策(2)

 伊藤左知子=医療ジャーナリスト

 高齢者の薬の問題で家族がまず心配するのは薬の飲み忘れだが、問題は飲み忘れだけではない。高齢になると持病が増えて、薬が増えてくる。それに伴い、副作用や飲み合わせなど、気を付けなければいけない問題も増えてくる。持病で飲んでいる薬が認知症の原因になる可能性も!そんな高齢者の薬の問題について、前回「その薬の飲み忘れ 『認知症の始まりかも』を考えよう」に引き続き、東京大学大学院医学系研究科加齢医学(老年病学)教授の秋下雅弘さんに話を聞いた。

処方される薬が6つ以上になると、薬の副作用を起こす高齢者が増えることが分かっています」と専門家は言う(©-123rfstylephotographs)

薬が増えると認知症のリスクも増加!

 高齢者の場合、複数の病気で複数の病院に通院している人も多い。病気の数が増えればその分、飲んでいる薬の数も増えてくる。厚生労働省の「2015年社会医療診療行為別統計」によれば75歳以上の高齢者の約4人に1人が7種類以上の薬を使っているという。

 「高齢者では、処方される薬が6種類以上になると、薬の副作用を起こす人が増えることが分かっています」と秋下さんは話す。

【図1】年齢層別の薬の数
厚生労働省「2015年社会医療診療行為別統計」(院外処方〔薬局調剤〕)より
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 薬の副作用が起こる最も大きな原因は薬の重複だ。複数の病気を抱えている人は、内科、整形外科、耳鼻科など複数の医療機関を受診している場合が多い。そうすると、それぞれの医療機関の医師から薬が処方される。しかし、医師は患者さんが他にどの病気でどの診療科に通っているのか、教えてもらわなければ分からない。当然、どういう薬を飲んでいるのかを知ることもできない。さらに薬をもらう薬局が、それぞれの医療機関の近くにある保険薬局で、お薬手帳もそれぞれの薬局で作ってもらったものを分けて使っているというような場合、薬剤師も患者さんの薬の全貌をチェックすることができない。

 このような状況では、どういうことが起こるのか。例えば、私たちは医師から「かかっている病気以外で他に何か困っていることはありませんか?」と聞かれれば、「最近、胃が痛くて」とか「よく眠れなくて」と話すだろう。そうすると医師は「では胃薬も出しておきましょう」とか「精神が安定する薬を出しましょう」ということになる。

 1つの病院内で複数の科が連携して、患者さんの薬を管理している場合はいいが、内科は市民病院、整形外科は町のクリニックというように、複数の医療機関を受診している場合、患者さんが何も言わなければ、医師は他の医療機関で処方されているとは知らずに、同じ薬を処方してしまう可能性があるのだ。

 「重複して処方されやすい薬には、胃薬、便秘薬、鎮痛薬、睡眠薬などが挙げられます」と秋下さん。薬が重複していることに気付かずにすべての薬を飲むと、当然だが副作用は出やすくなる。

薬の重複で起こりやすい副作用は?

薬の重複で起こりやすい副作用にはふらつき、転倒、物忘れなどがある(©-Jan Mika -123rf)

 薬の重複で起こりやすい副作用にはふらつき、転倒、物忘れが多いと秋下さんは言う。他にも、うつ、せん妄(興奮したり、ボーっとしたりする症状(*1))、食欲低下、便秘、排尿障害などが起こることもあるという。

 こうした副作用は認知症の発症や進行の原因につながる。「例えば、高齢者では不眠症はポピュラーな病気で睡眠薬や抗不安薬が処方されることは珍しくないのですが、睡眠薬は脳の活動を抑えて眠りやすくする薬です。適正な量であれば問題はありませんが、薬が重複して過剰摂取すると記憶力が低下して、認知症の発症を後押ししてしまうことになってしまいます」と秋下さん。また、睡眠薬には筋力を低下させる作用もあるので、薬の重複による副作用で転倒して骨折し、それがきっかけで寝たきり生活が始まり、認知機能が著しく低下してしまう可能性もある。

 もう一つ問題になるのが、薬の飲み合わせだ。「他の診療科でどのような薬が出ているのかをそれぞれの科の医師が知らないと、作用がまったく逆の薬が投与されてしまう場合もあります」と秋下さん。

*1 脳の機能が乱れた状態のことで、話す言葉やふるまいに一時的に混乱が見られる。

 例えば、アルツハイマー型認知症と診断された場合、認知症の進行を抑えるために、脳のアセチルコリン(神経伝達物質の一種)を増やす薬が使われることがある。一方、花粉症で使われる抗ヒスタミン薬、頻尿の原因となる過活動膀胱(ぼうこう)を抑える抗コリン薬、あるいは胃薬で使われる抗ヒスタミン作用を持つH2ブロッカーという薬、これらは全てアセチルコリンの働きをブロックする薬だ。アセチルコリンを増やす薬と抑える薬を両方同時に飲んでも意味がないことは言うまでもない。

「患者力」が多過ぎる薬の副作用を防ぐ!

 薬の重複や飲み合わせの問題は、その人がどういう薬を飲んでいるのか、トータルで医師や薬剤師が管理できれば、容易に解決できる。「そのためには、『患者力』を高めることが大切です」と秋下さん。

 私たちはまず、医師や薬剤師がなんでもお見通しの超能力者でないことを認識する必要がある。内科で高血圧の治療をしている人が、整形外科で腰痛の治療をしていても、教えてもらわなければ、それぞれの医師には分からないということである。

 つまり、複数の医療機関を受診している場合は、それぞれの医師にどこでどういう病気の治療を受けていて、どういう薬を飲んでいるのか、きちんと伝えることが重要なのである。

 また、お薬手帳は1冊にまとめること、薬はいろいろな薬局でもらうのではなく、かかりつけ薬局でもらうこと。できればかかりつけ薬剤師を作り、飲んでいるすべての薬を管理してもらうようにすることが大切だ。高齢者で認知機能が低下してきた場合でも、かかりつけ薬局が1つ、お薬手帳も1冊であれば、ご本人もご家族も管理しやすくなるし、薬の増え過ぎや薬の副作用をチェックしてもらいやすくなる

 「もともと高齢になると、身体の代謝が落ちて薬の効き方が若い頃とは変わってきます。そうした変化を見逃さないようにするためにも、かかりつけ薬剤師がいると安心ですね」と秋下さん。

 薬とうまく付き合っていく「患者力」を高めることが、身体のためにはもちろん、認知症の発症や進行を予防するためにも大切だ。

秋下雅弘(あきした・まさひろ)さん
東京大学大学院医学系研究科加齢医学(老年病学)・教授、東京大学高齢社会総合研究機構・副機構長(兼任教授)、東京大学医学部附属病院副院長
秋下雅弘(あきした・まさひろ)さん 1985年東京大学医学部卒業後、同老年病学教室助手、スタンフォード大学研究員、ハーバード大学ブリガム・アンド・ウイメンズ病院研究員、杏林大学医学部高齢医学助教授、東京大学大学院医学系研究科加齢医学助教授などを経て、2013年同教授に。日本老年医学会副理事長、日本老年薬学会代表理事。老年病の性差、高齢者の薬物療法などを主に研究する。主な著書に「薬は5種類まで」(PHP新書)。