日経グッデイ

一から学ぶ、認知症

重症化で切断も…どう防ぐ? 高齢者の足トラブル

放置すると転倒リスクや歩行障害のリスク

 伊藤左知子=医療ジャーナリスト

65歳以上の高齢者の7割は何らかの足のトラブルを抱えているといわれる。しかし、多くの人は小さな足病変(足に傷や腫れなどの病的な変化が見られる状態)を見逃してしまったり、自覚していても「大したことはない」と放置して、重症化させる可能性が高い。自分の問題点をうまく伝えることができない認知症の人は、さらに足トラブルを重症化させるリスクが高くなる。認知症になった高齢者の足のトラブルを家族や周りの人はどのように見つけ出し、ケアすればいいのだろうか。足のナースクリニック代表の西田壽代さんに話を聞いた。

痛みをうまく伝えられない認知症高齢者を、周囲の人はどうケアすればいいだろう。写真はイメージ=(c)Akhararat Wathanasing-123rf

痛みやかゆみを伝えられない

 高齢者に多い足のトラブルには、魚の目、たこ、爪のトラブルのほかに、皮膚の表面を覆う角質層が分厚くなり、様々な肌トラブルを起こす角質肥厚、足の指が変形するハンマートゥなどがある。

 一方、高齢者は感覚が鈍くなっていることに加え、足に何らかの違和感があっても、「年だから少しくらい仕方がない」とか、「たかが魚の目だから」などといって放置し、重症化させやすい傾向がある。

 例えば糖尿病や進行した動脈硬化などがある場合、足のトラブルが重症化すると、足指の壊死(えし)、壊疽(えそ、壊死に陥った組織が細菌の感染や乾燥などで二次的変化を受けた状態)が起こり、下肢の切断に至ることもある。さらに、こうした足のトラブルは立位のバランスを悪くするため、転倒リスクや歩行障害のリスクも高くする。

 そして、認知症がある高齢者になると、これらのリスクはさらに高くなる。なぜなら認知症の人は、自分の現状を適切に表現し、伝えることが難しいからだ。痛みが強い場合は表現できるが、ちょっとした痛みやかゆみといった違和感がなかなか正しく伝えられない。

 「例えば、認知症の人に理学療法士さんがリハビリで歩き方の指導をしていたが、いやだと言ってやってくれませんでした。理学療法士さんは自分の接し方に問題があると思い、いろいろ工夫したが、やはりうまくいきませんでした。そんな患者さんにフットケアを行ってみたところ、足の裏に大きな魚の目やたこがあることが分かりました。この人はこれが原因で歩く訓練をしたくなかったのです」と西田さん。

 高齢者の足のトラブルには、高齢者特有の次の5つの要因があるので、まずはそれを知っておこう。

(1)加齢による筋肉や骨の衰え

 高齢者は筋肉や骨が衰えるため、走る、蹴る、飛ぶなどの動きが鈍くなる。また、骨を支える筋肉も衰えるため、骨が変形したり、圧迫されたりして、姿勢が悪くなりがちだ。一般的に高齢者は前足部分に重心がかかり、前傾姿勢になりやすい。よって転びやすい。

(2)加齢による神経細胞の減少

 加齢に伴い脳の指令を伝達する神経細胞(ニューロン)と神経伝達物質が減少する。そのため神経伝達速度が低下する。その結果、視覚、聴覚、触覚など様々な感覚のインプットが鈍くなり、平衡感覚が不安定になりやすい。めまいが起こるのもそのためだ。動作が緩慢になり、瞬間的な運動が困難になるため、転倒しやすい状態になる。

(3)加齢による皮膚の変化

 高齢者は、皮膚にハリを与えるコラーゲンが減少する。実は足底の土台となる足底腱膜と呼ばれる組織はコラーゲンが綱状構造となったもの。コラーゲンが減ると足底腱膜が弱くなり、歩行困難を起こしやすくなる。

(4)加齢による動脈や静脈の劣化

 加齢に伴い動脈が肥厚し、動脈硬化を起こすと、下肢の血流が減少し、小さな傷から足の壊死や壊疽を起こす可能性が高くなる。また静脈系、リンパ系の機能が低下することで、むくみが起こりやすくなる。

(5)慢性疾患による影響

 年をとると様々な持病を抱える人が多くなるが、慢性疾患は足病変、転倒などの原因になることも多い。特に影響の大きい合併疾患は、糖尿病、心疾患、末梢動脈疾患、関節リウマチである。糖尿病になると、骨量が減少することが知られているが、ほかにも糖尿病神経障害という感覚まひの障害が起こり、少しのケガに気付かないことも。また血流も悪くなることから、小さなケガから壊死や壊疽に進行しやすい。心疾患の患者は足の虚血(血液の流れが悪くなること)を併発するため、やはり壊死や壊疽が進行しやすい。関節リウマチは痛みを伴う原因不明の多発性関節炎を主体とする進行性の炎症疾患である。


 (1)~(5)の原因が複雑に絡み合うことにより、足病変は進行していくのである。

足病変を予防し、転倒を予防するフットケア

 認知症になっても自分の足で立ち、できるだけ長く自立した生活を送れるようにするには、どうすればいいのか。認知症の進行を遅らせる生活を送ることはもちろん大切だが、同時に、見落としがちな足の健康を管理し、足病変や転倒の予防を行うことが大切である。

 具体的にはどのようなことに留意すればいいのだろうか。

 「自宅でできるフットケアで一番大切なのは、足の観察です。自分自身でできる場合は自分で行い、本人ができない場合は、家族などの介護者が行うといいでしょう」と西田さん。

 ただ、日本人は素足を人に見せることに抵抗を感じる人が多いため、家族であっても足を見せてもらうのはなかなか難しい。入浴前など時間を決めて行うと、抵抗が少なくなりやすいと西田さんは話す。

 では、どこをどのように観察すればいいのだろうか。「観察するのは、足全体。ふくらはぎから下、足の甲、足の裏、指の間、かかと、爪。むくんでいないか、傷はないか、乾燥していないか、じくじくしていないか、皮膚の色は変化していないかなど、手で触れて、よく観察します。手で触れるのは、痛みの有無を知る上でも大切です。爪については皮膚に爪が食い込んでいないかや、巻き爪になっていないかどうか、爪の色などもよく見るようにしましょう」と西田さん。

 観察して、何か異常があれば必ず医師に相談することが大事だ。糖尿病の治療をしている人は糖尿病の主治医に相談するといいだろう。

 足を観察した後は入浴。自分で足をきちんと洗えない場合は、介護者が丁寧に洗う。入浴後はよく水気を拭き取り、保湿剤で保湿して終了。顔や体にクリームを塗っても足には塗らない人が多いが、足も同様にスキンケアがとても大切である。保湿剤を塗るだけで、乾燥、ひび割れなどの足トラブルが改善する。保湿は簡単だが大切なフットケアである。

自宅でのケアを指導してくれる「フットケア外来」

 高齢者の中には爪を自分で切れない人もいる。その場合、家族が爪を切ってあげるとよいが、人の爪を切るのが不安な場合は、フットケア外来を利用するのも一策だ。

 フットケア外来では、爪切りをはじめ、巻き爪の予防や処置、足浴、保湿など、自宅でできるフットケアを指導してくれる。また、自宅ではできない神経障害や血流障害の検査、白癬(水虫)、たこや魚の目の処置を行ってくれる。

 ところでフットケア外来はどのように探せばいいだろうか。「糖尿病の患者さんなら、糖尿病外来で開設しているところもあるので調べてみるといいでしょう。クリニックなどではフットケアを手掛ける病院を紹介してくれる場合もあるので、主治医に聞いてみましょう」と西田さん。そのほか、インターネットで「フットケア外来 ●●市」などと検索するのもよいだろう。病院以外にも、爪や角質のケアをするフットケアサロンや訪問フットケアなどもある。

 認知症の高齢者を介護することになったら、一度は介護者も一緒に受診して、自宅でできるケアについて指導を受けるといいだろう。

※参考文献:『はじめよう!フットケア(第3版)』(日本フットケア学会編/西田壽代監修)

西田壽代(にしだ ひさよ)さん
足のナースクリニック代表、日本トータルフットマネジメント協会会長、日本フットケア学会理事
西田壽代(にしだ ひさよ)さん 聖路加看護大学(現聖路加国際大学)看護学部看護学科卒業後、聖路加国際病院などを経て2010年より足のナースクリニック代表として、病院や高齢者施設と提携し、フットケアやその分野のスタッフ教育などを実施している。2013年、日本トータルフットマネジメント協会を設立。医療従事者専門のフットケアスクールを開講している。