日経グッデイ

Gooday 通信

「ストレスチェック」はどう役立てるかを考えながら進める!

中小企業における「ストレスチェック」のより良い運用と活用を考える(前編)

 氏家裕子=ライター

 2017年6月30日に開催された日経Goodayの特別セミナーでは「中小企業における『ストレスチェック』の運用と活用を考える」と題して、外部実施事務従事者として約70社のストレスチェックに関わったネオシステム社のEAPコンサルタント宮川浩一さんと、都内20社で高ストレス者面接に対応した産業医を務める精神科医の奥田弘美さんが登場。ストレスチェック初年度の結果を受けて、今後、この制度を効果的に活用していくための課題点・改善点を提案していただきました。

日経Goodayの特別セミナー「中小企業における『ストレスチェック』の運用と活用を考える」には多くの参加者が集まった。

ただ実施することが目的ではなく
今後どう役に立てるのかという視点が必要

 まずは宮川さんから「ストレスチェック制度の実施状況、課題とこれから~EAPコンサルタントの視点~」と題して、初年度のストレスチェックを経て感じたこと、今後の活用法について語っていただきました。

まずはEAPコンサルタントの宮川浩一さんの講演

 ストレスチェックは、2015年12月からスタート。従業員50人以上の事業所に対して年1回の労働者への実施が義務づけられました。その背景の一つに、2011年、14年連続で3万人を超える自殺者が出たと発表されたことがあります。2012年以降は若干減少したものの、その後も、先進国の中では圧倒的に多い2万人を超える自殺者が出ています。また、脳血管疾患、心疾患に比べて、精神疾患での労災が右肩上がりであることもストレスチェックが必要とされる理由の一つです。

 「ストレスチェックは、メンタルヘルス不調者を発生させないという未然防止に加え、ストレス度の高い人に対して面接をして早期のケアにつなげましょうという趣旨があります。初年度は、わからない点も多く、とにかくやるだけになってしまった企業さんも多かったかもしれませんが、取り組みがどうだったかを振り返り、今後どう役に立てていくかという視点を持つことが大切です。趣旨目的としては、一次予防として職場の環境改善やセルフケア。次に、ストレスの高い方に対して面接を通じて早期ケアにつなげるというのが二次的な目的。そういったことを踏まえてどう運営していくかが大事なところで、2年目にどう取り組むか、3年目にどう展開するか。PDCAをしっかり回していくのが大切になります」(宮川さん)

紙ベースのストレスチェックはリスクや負荷が大きい

 続いて、ネオシステム社が実際に実施した企業数72団体の状況を踏まえながら、傾向と対策についてお話しいただきました。

 「大手企業だと年度替わりの4月に実施したところが多いようですが、弊社で取り扱った企業さんは中小が多く、様子見であったりとか、なかなか準備が進まなかったりしたため秋ごろに駆け込みで行うような状況が多く見られました」(宮川さん)

 受検方式は厚生労働省から提供されている無料のプログラムを使っているところもありますが、使いやすいものがあれば、これでなくてもよいそうです。しかし、「紙」でストレスチェックを行う場合は気をつけたい部分も。実際に、工場や現場ではWebでの受検環境が難しいということで紙にした企業もあったそうですが、宮川さんは、「紙はリスクが高い」という印象を受けたようです。

 「(ストレスチェックを紙で行った場合)抜けやダブりなどの記入ミスがあり、それを確認するのが非常に手間なんです。また、書類の紛失等のリスクも伴います。働き方改革で残業を減らして効率化した業務を進めている状況なので、担当者の業務も効率化していくという観点からは、できるだけWebなどシステムを使っていくのが望ましい」(宮川さん)

 全社平均を見ると受検した人は80~90%。しかし、対象者が1300人もいる派遣会社の場合は受検率が56%止まりだったといいます。

 「人材派遣会社は派遣スタッフの方をたくさん抱えていて周知徹底が難しいという声がありました。受検環境もあって受検率が低かったのですが、全体としては事前にどのくらい周知できたかで、受検率の差が出たという印象です。私が行った事業者では、実施1カ月前に衛生委員会を経て、システム的に情報共有する仕組みを使ったりとか、各所属の上長を通じて周知徹底したりなど、事前周知ができた事業者さんは98%くらいの受検率でした。600人規模の事業者ですが、実は今年ももう終わって同じくらいの数値が出ています」(宮川さん)

 また、大きな課題の一つとなる高ストレス者の面接申し出割合は全社平均で対象者の8.7%と非常に低い数字が出たそう。宮川さんによると「実際は1~2%くらいだと思います」という。

高ストレス者の面接申し出割合は全社平均で8.7%と低い数字だった。
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 「高ストレス者の面接申し出の勧奨時期が、遅い企業も見受けられました。結果がわかったら速やかに面接申し込みをしてもらうよう呼びかけが必要だと思います。厚生労働省のガイドラインはできるだけ速やかに結果を渡して、申し出があってから1カ月以内に面接指導を実施となっていますが、恐らくこれは長すぎます。ストレスチェックはそのときの状態を見ているので、チェックしたら速やかに面接につなげていかないといけないと思いました」(宮川さん)

エクセルでできる集団分析もある

 集団分析については頭を悩ませる企業が多かったようです。1組織の人数が少なく、10人以上の集団分析ができない中小企業の場合は、本人と特定できない方法で、3人以上の分析を行うことが可能ですが、少人数だと結果に偏りが出るので、このあたりを考慮する必要があったといいます。

 「人数が少ないとそれだけデータがブレます。1人や2人のストレス度が高い場合、そちら側に大きく振れるので、その点を考慮することが大切になります」(宮川さん)

 ちなみに、エクセルベースでも分布や相関など統計分析を活用した一定の集団分析は可能だそうです。

メンタルヘルスの悪化は企業の業績にも悪影響

 ここで宮川さんは、2014年の日本経済新聞の「経済教室」欄に掲載された記事を紹介。慶応義塾大学の山本勲先生と早稲田大学の黒田祥子先生による研究で「メンタルヘルスの悪化は企業の業績にも悪影響を与える可能性がある」という結果が提示されていました。

 「会社に出てきて仕事はしているけれど、実は体調不良でいろんな生産性を落としている。これはプレゼンティズムと呼ばれている問題で、気付きにくいうえに経済的損失が大きいといわれています。そういう意味でも健康で働ける職場づくりは大切なんだと認識していく必要があるんですね。再確認となりますが、2年目が終わったところで振り返っていただき、決められたからやるということを脱して、どう有効活用して、解決していくのかにつなげていく視点で取り組んでいただければと思います」(宮川さん)

セミナーは東京国際フォーラムで行われた。

産業医にとってもストレスチェックは一大事だった

 次に奥田さんが登壇。都内のクリニック心療内科にて精神科臨床医をしながら、都内の企業20社では嘱託産業医として働く人たちの心身のサポートを行っている奥田さん。産業医および実施者としての立場から高ストレス者の面接を通しての考察や感想を話してくださいました。

精神科医、日本医師会認定産業医、労働衛生コンサルタントの奥田弘美さん

 「ストレスチェックの制度開始は、昨今まれに見る一大事でした。私のように20社も産業医契約をしている医師はあまりおらず、ほとんどは1~2社の嘱託産業医を、アルバイト感覚でやっている先生が多く『ストレスチェックってなんなの』という感じで右往左往している先生も見受けられました」(奥田さん)

 医師の間で問題だったのは「実施者になるか、ならないか?」「高ストレス者の面接を指導するか、しないか?」という2点だったといいます。なぜなら、引き受けることは義務ではなかったためだ。

 厚労省の「ストレスチェック制度関係 Q&A」によると「労働安全衛生規則第14条の規程は、産業医がストレスチェックや面接指導等の実施に直接従事することまでを求めているものではありません。(中略)ただし、事業場の状況を日頃から把握している産業医がストレスチェックや面接指導等の実施に直接従事することが望ましいと考えています」という曖昧な表現が使われています。

 「引き受けるかどうかは産業医側の選択となり、悩む先生方が多かった」と奥田さん。結局、実施者も面接指導も引き受けない先生。実施者は受けないけど、高ストレス者面接は引き受けるよという先生、条件が合えば、実施者も面接指導も引き受けるという先生の3つのパターンに分かれ、奥田さんは「条件が合えば実施者も面接指導も引き受ける」という選択をしていたといいます。医師たちがここまで慎重になっていた理由は「個人情報の扱いがとても特殊で、何かが起きたときの責任リスクが不明瞭だと懸念して二の足を踏む先生方が多かったように思います」とのこと。そんな中でも奥田さんが、実施者も面接指導も引き受けるために出していた条件とはなんだったのでしょうか。

 「一つは、厚労省提示の57項目のストレスチェックシートを使うことです。実施者および、実施事務従事者(内部実施事務従事者と外部実施事務従事者)しか高ストレス者の名前を知ってはいけないので、自殺念慮(*1)など重大な症状に関連するような項目が入っていると、役割として責任が重すぎるんですね。厚労省の手引きにも「調査票に、性格検査や適性検査、うつ病検査、希死念慮などの検査を含むことは不適切」とされています。あるEAP会社は、150項目にもわたるストレスチェック質問票を作っていたのですが、その中にパワハラやセクハラを受けたことがあるかなどの項目があり、これは深く聞きすぎだなと思いました。本人が高ストレス者として面接を希望しなければ、実施者は何も手出しができないという制度なので、こういった安全配慮義務に直結するようなリスクの高い項目が入っていると非常に困るわけです」(奥田さん)

*1 自殺念慮とは、「死んでしまいたい。消えてしまおうか」といった思いに満たされてしまっている、あるいは常に頭のどこかにそうした考えがある状態のこと。

 安いという理由で産業保健に全く関連のないシステム会社を選ぶ企業もあったようだが、そういった会社はシステムは提供するものの、あとは放置というパターンもあるそうなので気をつけたいとのこと。嘱託産業医は月1回~数回しか会社を訪問しないからこそ、ストレスチェックシステムを提供するEAP会社とはしっかりタッグを組んで万全なサポート体制を構築する必要がある。そして、奥田さんが産業医を引き受けるための条件の一つは、会社側にも実施事務従事者を立てることを挙げたとのことです。

 「ほとんどの会社で実施事務従事者を立ててくれたのですが、ごく一部で会社は関わりたくないから外部(EAP会社と実施者)だけでやってくれという例がありました。要は会社内部に高ストレス者の存在を知る人がいないという状況でやりたがった会社もあったのですが、実はそれは非常に危険なんですね。内部に高ストレス者を把握している人がいて、いざというときには最低限の安全配慮義務が履行しやすい状況を作っておくことが必要だと思います」(奥田さん)

 ストレスチェックを実施する前には、パンフレットを配るだけでなく研修会を開き、口頭でも入念に説明を行うこともポイント。高ストレス者に対しては2回以上産業医面接の促しを入れるシステムを作ることなども、条件として提示していたそうです。

高ストレス者面接の内容は4パターン

 次に、奥田さんが実際に高ストレス者の面接を行った際の詳しい内容についてお話しいただきました。奥田さんは、20社担当している中で実施者も引き受けた会社は16社。高ストレス者面接は19社担当したといいます。高ストレス者は平均10~15%で、面接を行ったのは30名。とくに30代40代の男女の面接希望が多かったそうです。

 高ストレス者面接の内容は大きく「過重労働・業務内容高負荷によるストレス」「個人的要因ストレス」「会社や体制への不満、ストレス」「職場の人間関係ストレス」の4つに分かれました。どのような方と面接したのか、例を挙げて説明いただきました(個人情報保護のため一部情報を加工しています)。

【1】過重労働・業務内容高負荷によるストレス

 「30代の男性で小規模の支店の店長をしていて、80時間ほどの残業が毎月続いていて、抑うつ、不眠、食欲不振などの症状が出ていました。この方は私が実施者にならなかった会社で、EAP業者の提携しているドクターが高ストレス者面接も対応されていました。ただ、ドクターとの面接のときに抑うつ症状がかなり出ていたのに、クリニックの受診勧奨や適切な就労制限がされておらず「業務環境調整要す」の指示のみで、産業医である私とのフォロー面接をするにはその後1カ月ほどかかってしまいました。その間にさらに症状が悪化していました。本人にはすぐに医療機関を受診するように勧め、会社には残業禁止や応援要員の手配を提案しました。本人は受診して即日、休職になりました」(奥田さん)

【2】個人的要因ストレス

 「サービス業の20代の方で、ヘビーな家庭問題を抱えており、ストレス過多でした。不眠、不安が原因で体重も10キロほど減少。残業も平均40~60時間で多めでした。抑うつ状態が中程度あったので、本人には医療受診の必要性を説明して紹介状を書き、会社には症状改善するまで残業免除してくださいと意見書を書きました。その後、外来通院しながら何とか就労を続けた結果、数カ月で完治されて現在は元気に働いています」(奥田さん)

 「もう1人、30代女性で内勤の方です。小規模支社へ移動し受付接客業務が発生し、シングルタスクからマルチタスクとなったために不眠、イライラ、不安が出てきました。面接をしてみると、軽い発達障害を指摘されて医療受診していることがわかりました。発達障害は、シングルタスクはできてもマルチタスクは苦手だという人が多いんです。会社に対して、病名を公開していいということだったので、医療受診を継続してもらいながら配置転換、業務内容検討を会社に意見したところ、スムーズに対応してもらうことができ、現在は元気に内勤に戻って働いています」(奥田さん)

【3】会社や体制への不満、ストレス

 「販売業の20代新入社員の女性で、勉強会の休日参加が納得できないという理由からストレスになりました。昇進や業務に関する国家資格が必要で2カ月間毎週土曜日に勉強会が行われていたのですが休日出勤扱いにならないことがストレスだったようです。自由参加だと言われていたけど断りにくい雰囲気だったそうです。どうも納得がいかないためイライラしていたうえに、夏バテと疲労につながり、周囲のサポート低値に点数をつけて高ストレスになりました。面接したときには試験に合格して夏も過ぎて症状も改善してお元気でしたので、とくに医療受診は不要。今後も同様の試験があるので、勉強会の位置づけを本人とも話し合いをしてくださいとお願いしてご本人も納得しました」(奥田さん)

【4】職場の人間関係ストレス

 「サービス業の40代女性ですが、上司に嫌われていて、仕事が任せてもらえないということから会社に行くのが苦痛になって吐き気がする、眠れないという症状があり、面接を希望された。医療受診を指示したところ1カ月後に休職されてしまいました。しかし、人事から周囲へのヒアリングをしたら、結果、双方に問題があるということでした。復職後は異動を検討されることになりました」(奥田さん)

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ストレスチェックはメンタル不調者の早期発見に有効

 以上のことを受けて、ストレスチェックはメンタル不調者の早期発見、および早期対応には有効であると実感されたという奥田さん。注意点としては、ストレスチェック後の申し出期間に適切な期間を設けること。長期にわたる申し出期間があった場合、高ストレス者の状況が変わり、悪化した例も複数あったといいます。また、医師への情報提供が有効な面接につながること、どんな面接結果だとしても人事担当者が一度ヒアリングを行い、事後措置を検討していく必要性を感じたそうです。

 「まずは、医師の面接の後に高ストレス者と人事担当者が話し合いをして記録を残していくことが大切だと思います。高ストレスに、さらに別のストレスが重なって、休職になる方もいます。本人の意見も聞きながら事後措置を検討されるのが必要だと思いました。以上、私がストレスチェックに関わった感想と考察をご紹介しました。みなさんの会社でのストレスチェックに少しでもご活用いただけたら幸いです」(奥田さん)


 後編では、宮川さんと奥田さんのお話を踏まえて、セミナー参加者からの質問コーナーを開催しました。ストレスチェックに対する企業側の具体的な悩みを解決していきます。

(写真:稲垣純也)

奥田弘美(おくだ・ひろみ)さん
精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家
奥田弘美(おくだ・ひろみ)さん 1992年山口大学医学部卒。精神科臨床および都内20カ所の産業医として日々多くの働く人のメンタルケア・ヘルスケアに関わっている。著書は「1分間どこでもマインドフルネス」(日本能率協会マネジメントセンター)、「図解『めんどくさい』をスッキリ消す技術」(マキノ出版)など多数。日本マインドフルネス普及協会を立ち上げ日本人に合ったマインドフルネス瞑想の普及も行っている。
宮川 浩一(みやがわ こういち)さん
ネオシステム EAP事業部長/国際EAPコンサルタント(CEAP)
宮川 浩一(みやがわ こういち)さん EAPコンサルタントとして企業における産業保健の構築サポート、メンタルヘルス対策、組織診断・職場改善サポート、研修講師、カウンセリング業務、ハラスメント対策等に従事。メンタルヘルス、ストレスマネジメント、メンタルトレーニング、パワハラ・セクハラ等をテーマにセミナー、研修を実施。