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女性の梅毒が急増中! その背景には…

現れたり消えたりする多彩な症状に注意

 大西淳子=医学ジャーナリスト

男性から女性へ、女性から男性へ、の悪循環が?(©Valerii Sidelnykov-123rf)

 過去の病気と思われていた性感染症、「梅毒」の患者が、2010年以降、年々増加しています。国立感染症研究所の調べによると(*1)、2015年第1週から10月25日までに、新たに梅毒に感染した患者数は2000人以上に達しました(2037人、うち男性1463人、女性574人)。

 注目すべきは、女性の患者数の増加です。特に20~24歳の女性では、2014年の2.7倍に急増しています。女性全体では、2015年の新たな感染者の数は2010年の約5倍にもなり、危機感を抱いた厚生労働省は、啓発チラシ「女子の梅毒増加中!」(*2)を作成しました。女性の梅毒急増の背景には、異性間の性的接触による感染が広がっていることがうかがえます。

女性が感染すると胎児の早産や死産、障害の恐れ

 女性の梅毒感染の増加が引き起こす問題として、特に憂慮されるのは、胎児への影響です。梅毒に感染した女性が妊娠すると、あるいは、妊婦が梅毒に感染すると、胎盤を通じて胎児に病原体が移行して、早産や死産になったり、胎児に障害が起きたりする可能性があります。

 日本では、妊娠すると、初期に必ず梅毒検査を受けることになっています。早い段階で治療を受ければ、子どもに悪影響が及ぶことは避けられます。

梅毒とは? ~性的な接触でうつる感染症~

 以下は、厚生労働省 梅毒に関するQ&A(*3)を参考文献として簡単にまとめたものです。

 梅毒は、性的な接触などによってうつる感染症です。原因は「梅毒トレポネーマ」という病原体で、感染すると全身に様々な症状が出ます。感染からの時間によって、症状が現れる部位や内容が異なり、しかも、出たり消えたりするため、患者自身も、医師も、梅毒に感染していることに気が付きにくいのがやっかいなところです。まず、感染からの時間経過ごとに、どんな症状が出るのかをみてみましょう。

第Ⅰ期(感染後約3週間) ~感染した部位にしこりができるが自然に治る~

 感染がおきた部位(陰部、口唇、口腔など)にしこりができたり、股の付け根のリンパ節が腫れたりしますが、痛みがないことが多く、症状は自然に軽くなるため、感染に気づかない人が少なくありません。しかし、パートナーにうつす可能性は持続しています。無防備な性交渉の覚えがあるかたは、この時期に梅毒の検査を受けてください。

第II期(感染後数カ月) ~アレルギーや風しんに似た赤い発疹が出現~

 治療なしに3カ月以上が経過すると、病原体は血液によって全身に運ばれ、手のひら、足の裏、体全体などに赤い発疹を生じさせます。この発疹も、数週間以内に消える場合があり、再発を繰り返す場合もあります。

 発疹は、アレルギー、風しん、麻しん、手足口病や接触皮膚炎などに間違えられることがあります。この時期に適切な治療を受けないと、数年後に深刻な症状が現れます。

第III期(感染後数年) ~ゴムのような腫瘍が発生、複数の臓器に異常~

 皮膚や筋肉、骨などにゴムのような腫瘍(ゴム腫)が発生することがあります。また、心臓、血管、脳などの複数の臓器に異常が発生、最悪の場合には死亡することもあります。現在では、比較的早期に治療を受ける患者が多く、この段階まで進行する人はほとんどいません。

感染経路 ~症状が出ている粘膜・皮膚との接触で感染~

 梅毒はどのような経路で感染するのでしょうか。梅毒の症状が現れている患者の粘膜や皮膚と、非感染者の粘膜や皮膚が直接接触すると、感染する危険性があります。主に感染の原因となるのは、性器と性器、性器と肛門、性器と口の接触ですが、感染部位を傷のある手で触れても感染する危険性があります。1回の性的接触による感染のリスクは、HIV(エイズを引き起こすウイルス)よりずっと高いとみられています。

感染予防法 ~無防備な性交渉を避けることが第一~

 梅毒を予防するワクチンはありません。が、性的な接触をしなければ感染しません。パートナーが陰性なら感染しませんが、パートナーが一晩限りの無防備な性行為をする人であれば、いずれ自分も感染する可能性があります。もちろん本人が無防備な性交渉を避けることが第一です。

 コンドームの使用にはある程度の予防効果が期待できますが、完全ではありません。コンドームに覆われていない部分との接触が感染を引き起こす危険性があります。口腔粘膜に潰瘍などの症状が出ている患者とのキスも感染の原因になります。パートナーの皮膚や粘膜に異常があれば、その日は性的な接触を控えて、速やかに医療機関を受診するよう勧めましょう。

どこの診療科を受診すればいい?

 症状が多彩なだけに、患者が最初に受診する医療機関はさまざまで、歯科医を受診する患者もいるほどです。が、感染リスクを高める行為があり、上記のような症状が現れた場合には、男性は泌尿器科、女性は婦人科を受診するとよいでしょう。無防備な性交渉や風俗の利用があったことを伝えれば、診療はスムーズに進むはずです。

梅毒検査 ~検査キットを購入し、郵送する方法も~

保健所によってはHIV検査と一緒に梅毒検査を受けることもできる。(©Jarun Ontakrai -123rf)

 梅毒に感染しているかどうかを調べるには、3つの方法があります。

1. 受診した医療機関で、血液検査(最初は抗体検査)を行います。

 感染から3週間程度しかたっていない場合は、まだ十分な抗体ができておらず、検査結果が陰性になってしまいますが、それ以降に検査を受ければ、信頼できる結果が得られます。

2. 保健所で、匿名かつ無料で検査を受けられる場合があります。

 HIV 検査相談に関する全国保健所アンケート調査報告書(平成25年度)(*4)によると、回答を寄せた日本国内の保健所の76%が、HIV検査と共に梅毒検査も行っていました。梅毒はHIV感染リスクを高めることが知られており、これら2つの病気の検査を一度に受けることは理にかなっています。ただし、梅毒検査の実施頻度は、週1回から月1回と少ないため、最寄りの保健所に電話で確認したうえでお出かけください。

3. 最後の選択肢は、検査キットを購入し、自宅で標本を採取して郵送する方法です。

 梅毒検査を含むキットは、1万円弱から1.5万円程度の価格で市販されています(他に検査できる項目の数によって異なる)。ただし、梅毒に対する治療を受けたことがある人は、治癒後も陽性判定を受ける可能性があるなど、検査結果に対する判断が難しい場合があります。

*4 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業.HIV 検査相談の充実と利用機会の促進に関する研究. HIV検査相談に関する全国保健所アンケート調査報告書(平成25年度)

治療 ~早期に治療をすれば薬物療法で完治~

 もし検査で陽性になったら、感染している可能性があるパートナーにも検査を勧め、陽性であれば一緒に治療を受けることが重要です。ほとんどの場合、薬物治療で完治します。しかし、治療を受けて治ったからといって、免疫ができて感染から守られるわけではなく、再感染を予防する必要があります。

 パートナーとの性的な接触は、医師が安全と判断するまで控えます。

新たな患者の数は、実は2000人どころではない?

 新たに梅毒を発症する人が増加している、というニュースは、診断した医師が保健所に届け出た数に基づいています。症状が現れたり消えたりする病気で、一般的な皮膚疾患との区別が難しい梅毒ですから、診断がつかない患者もいる可能性があります。もちろん、受診しない、検査も受けない感染者もいるでしょう。新たな患者の数は、実は2000人どころではなく、増加のスピードも予想を超えているのかも知れません。

 近年、世界各地で、一部の治療薬に耐性を示す梅毒が見つかっています。自分の身は自分で守るよう、これまで以上に心がける必要があります。