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スーパー大麦で、太りにくい体質を作る「やせ形腸内フローラ」に?!

「睡眠の質が上がった」という報告も

 柳本 操=ライター

今、注目の穀物「大麦」。その大麦の中でも、食物繊維を多く含んでいるのがスーパー大麦「バーリーマックス」だ。大腸の奥にまで届く“第三の食物繊維”レジスタントスターチを豊富に含んでおり、その健康効果も報告されている。11月6日、「腸の奥からの健康を考える研究会」が「スーパー大麦バーリーマックスの最新研究発表」と題した最新研究報告を行った。その内容を紹介しよう。

スーパー大麦「バーリーマックス」は、第三の食物繊維と呼ばれる「レジスタントスターチ」が豊富だ。

 数ある穀物の中で、今、世界で最も注目されている穀物といえば「大麦」だろう。大麦の効能は世界的に認められており、日本でも「食後の血糖値の上昇を抑える」「正常な腸機能の維持」「血中コレステロール値の正常化」の機能性表示が認められている(詳しくはこちらの記事を参照)。効果を表示した商品も続々と登場しており、日々の食生活にすでに取り入れているという人も少なくないだろう。

 大麦の健康効果の源泉は、その豊富な食物繊維にある。食物繊維には水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があり、それぞれに効能があるが、腸内細菌のエサとなり、腸内環境を整える役割が強いのは水溶性食物繊維のほうだ。大麦は、水溶性食物繊維を豊富に含んでおり、さらに水溶性と不溶性のバランスがいいのも特徴となっている。

主な穀物に含まれる食物繊維(可食部100g当たり)
大麦は水溶性食物繊維を多く含んでいる。さらに不溶性と水溶性のバランスに優れるのが特徴だ。(「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」より)
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食物繊維を“腸の奥”に届けることが重要

 だが、通常、食べ物として摂取する食物繊維は、小腸と大腸の上部で食べつくされ、大腸の奥のほうまではなかなか届かないといわれる。ところが、“第三の食物繊維”といわれるレジスタントスターチには、大腸の奥にまで届く特徴があるという。

 レジスタントスターチとは、難消化性デンプンのこと。レジスタントは「消化されない」、スターチはデンプンのことを指す。物理的に堅い殻に覆われていたり、消化酵素によって分解されにくい性質を持つなどの理由から、糖質であるにもかかわらず小腸で消化・吸収されにくい。そして、大腸まで届いてから腸内細菌のエサになるなど、不溶性でありながら水溶性食物繊維と同じ働きをする特徴がある。

 そのレジスタントスターチを、大麦(もち麦)の2倍以上含む大麦が、今回のセミナーのテーマになっている、スーパー大麦「バーリーマックス」。バーリーマックスは、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)が、10年に及ぶ品種改良を経て、遺伝子組み換えなしで開発した新顔の大麦だ。

 機能性大麦の健康効果のメカニズムの解明と啓発を行う「腸の奥からの健康を考える研究会」の座長を務める帝京平成大学健康メディカル学部教授の松井輝明さんは、「腸内細菌は小腸から大腸に幅広くすみ着いていますが、食べ物として摂取した食物繊維のほとんどは、小腸と大腸の上部にすむ腸内細菌(有用菌)に食べつくされてしまうため、下行結腸より先の大腸の奥では、有用菌にとっての栄養が不足しやすくなります」と話す。

大腸の構造
「腸の奥」とは、大腸の奥の「下行結腸」「S状結腸」「直腸」のことを指す
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 「大腸がんや潰瘍性大腸炎といった近年問題となっている腸の疾患が腸の奥でよく発生するのも、腸の奥の環境悪化が関係していると見ています。スーパー大麦に含まれるレジスタントスターチは、大腸の奥まで届いて機能性を発揮する注目の“食物繊維”です」(松井さん)

 研究会の名前にもなっている「腸の奥」とは、大腸の奥の「下行結腸」「S状結腸」「直腸」のことを指す。大腸はお腹の右脇腹下から上に向かって「上行結腸」があり、そこから左に向かって「横行結腸」がある。さらに左脇腹から肛門にかけてが「腸の奥」にあたる。

 スーパー大麦の特徴は、そのバリエーション豊かな“食物繊維”にある。豊富に含まれるフルクタン(水溶性多糖類)、β-グルカン(水溶性食物繊維)は、いずれも腸の有用菌のエサとなり、腸内環境改善を促す。

 さらに、第三の食物繊維とも言われる「レジスタントスターチ」は、スーパー大麦で特徴的に多く含まれる成分。レジスタントスターチは不溶性の消化されにくいデンプンで、腸内細菌によって発酵される特徴を持つ。スーパー大麦の場合は胚乳に含まれるこのデンプンが、水溶性食物繊維に守られ、さらにその外側を細胞壁が守るという構造のために、消化酵素の影響を受けにくく、腸の奥まで到達する性質を持っている。

 これら広義の“食物繊維”は、「それぞれ分子量が異なり、分子量が最も小さいフルクタンが最初に腸内細菌に食べられ、その次にβ-グルカンが、そして最後に分子量の大きいレジスタントスターチが腸の奥にすみ着いている腸内細菌に食べられる、というふうに腸のそれぞれで発酵する場所が異なるのです。つまり、スーパー大麦をとると、腸の奥にまで食物繊維が届き、発酵を促すと考えられます」と松井さんは説明する。

スーパー大麦で「短鎖脂肪酸」が増える!

 腸内で発酵する性質を持つこれらの“食物繊維”を腸内細菌が食べると、腸内環境を改善する「短鎖脂肪酸」を生み出す、という効果が近年注目されている。短鎖脂肪酸のうち、「酪酸」は大腸の上皮細胞のエネルギーを作り、「プロピオン酸」は肝臓でエネルギー消費を高める。「短鎖脂肪酸は、腸粘膜の健康を維持し、腸のバリア機能を高め、大腸の発がん物質である有害な毒素の産生を抑えるなど、全身の健康に関わる働きをすることが分かってきました」と松井さん。

 松井さんらが昨年国内で行った研究がある。スーパー大麦を1日12g食べることができるよう設計されたショートバーとクッキーを、20歳から65歳の男女18人が4週間食べるという試験によって、以下のような結果が確認されたという。



  • 排便回数が増加、排便量も増加
  • 腸内の有用菌が産生する「短鎖脂肪酸」である「プロピオン酸」「酪酸」が有意に増加
  • 腸内細菌叢(そう)を解析すると、「酪酸」を産生するバクテロイデスの比率が増加、有用菌のビフィズス菌の比率が増加、血糖値改善に関与するプレボテラの比率が増加

 松井さんは、「1日12gのスーパー大麦を目安として継続してとることで、短鎖脂肪酸が増えます。さらには、腸の有用菌を増やし、腸内細菌叢(腸内フローラ)を改善することが期待できます」と話す。

スーパー大麦が「太りにくい腸内細菌叢」を作る

 腸内細菌叢はメタボリックシンドロームなどの生活習慣病とも密接に関係していることも知られている。実際、腸内環境が肥満になるかどうかを左右する可能性があるという。

 岡山大学大学院環境生命科学研究科教授の森田英利さんは、肥満と腸内細菌叢の関係について着目している研究者の一人。森田さんは、米国で行われた肥満と腸内細菌叢に関する研究で興味深い結果が出ていると話す。

 「米国ワシントン大学のジェフリー・ゴードン博士らが、『肥満マウス』の糞便を『健常な無菌マウス』に食べさせたところ、2週間という短い期間で肥満マウスに変わってしまいました。さらに、一方が肥満で、もう一方がやせている一卵性双生児の糞便を、それぞれ無菌マウスに食べさせた後に同居させたところ、肥満者、痩身者の糞便を食べたいずれのマウスもやせました。同居する中で、肥満腸内細菌叢に足りない痩身者の腸内細菌が、肥満者の腸内細菌叢に入り込み、肥満改善効果をもたらす短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌が増えていることが確認されました(Nature.2009;457(7228):480-4.、Science. 2013;341(6150): 1241214.)。つまり、腸内細菌叢の細菌構成次第で体形(肥満度)が決まる、という可能性があるのです」(森田さん)

 森田さんは、「スーパー大麦を1日12g摂取することによる腸内フローラの変化、体重への影響」を調べる試験を、30~50代の5人の肥満傾向の女性を対象に行った(食事への介入はせず発酵食品の摂取のみ制限)。

 試験期間が2週間と短期間だったこともあり、BMIは減少幅が0.12~0.23とわずかであったものの、5人のうち3人のBMIが減少した。

 さらに注目すべきは、腸内細菌叢の変化だ。「1人を除き、4人においては腸内細菌の中でも抗肥満作用を示す可能性が高い腸内細菌が増える傾向が見られました」と森田さん。

スーパー大麦2週間摂取で抗肥満効果に貢献する腸内細菌が増えた
抗肥満作用が期待される腸内細菌の変化率を合計(バクテロイデーテス門、ビフィドバクテリウム属、フィーカリバクテリウム属)。5人中、4人の抗肥満腸内細菌が増加傾向となった。(森田英利(岡山大学大学院環境生命科学研究科教授)と帝人の共同研究)
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 腸内細菌の抗肥満作用のメカニズムについて、森田さんはこう説明する。「バクテロイデーテス門に分類される腸内細菌の中には、短鎖脂肪酸の中でも酢酸、酪酸を産生します。ビフィドバクテリウム属は、いわゆるビフィズス菌で、日本人に特徴的に多く、酢酸を作ります。フィーカリバクテリウム属は、酪酸を作ります」

 「これら短鎖脂肪酸の中でも、酪酸は、腸管ホルモンのGLP-1とペプチドYYという消化管ホルモンの分泌を促すことが分かっています。GLP-1は、インスリン分泌を促し、血糖値を上がりにくくします。一方、ペプチドYYは脳の視床下部に作用して、食欲を抑えます。これらの働きによって肥満を改善できるのではないかと考えられます。さらに長期にわたって摂取すると、より抗肥満効果が高まる可能性があります」(森田さん)

スーパー大麦で睡眠改善?

 さらに、森田さんは、スーパー大麦による睡眠改善効果についての研究結果も発表した。「大麦と睡眠」というと一見関係なさそうに思えるが、森田さんによると、この研究を行った背景には、「スーパー大麦を食べると安眠できるようになった」という消費者からの声が複数寄せられたことが発端となったという。

 森田さんらは、睡眠に悩みを感じている女性21人に、スーパー大麦を1日12gとれるよう設計したショートバーを4週間摂取してもらった。その結果、「睡眠の質」「睡眠困難」「中途覚醒」「日中の眠気」が有意に改善したという(グラフ)。

スーパー大麦の4週間摂取で睡眠が改善
睡眠に悩みのある女性21人(平均年齢36歳)がスーパー大麦を1日12gとれるショートバーを4週間摂取した。「ピッツバーグ睡眠質問項目スコア表」によって、摂取前後の睡眠に関するスコアを比較した(人数は最終的に18人)。その結果、「睡眠の質」「睡眠困難」「中途覚醒」「日中の眠気」が有意に改善した。(薬理と治療. 2017;45(8):1351-1357.)※なお、「中途覚醒」「日中の眠気」は、1点:1週間に3回以上、2点:1週間に1~2回、3点:1週間に1回未満、4点:なし
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 森田さんは、この睡眠改善効果について、腸内細菌叢の視点から分析する。

 「腸内でのセロトニン(睡眠と関係する物質)の合成や制御に、腸内細菌の中でもクロストリジウム属の4菌種が関わるという海外の報告があります。この報告をもとに、4菌種に該当する腸内細菌叢を足すと、スーパー大麦を食べた4週目にこれらの菌種が1.6倍と増加傾向になり、摂取終了から4週間後には低下することが分かりました。スーパー大麦をとっていた期間の腸内細菌叢の変化が、睡眠改善になんらかの影響を与えているかもしれません」(森田さん)

 これまでと同じように食べているのに太りやすくなった。なかなか寝付けず、目覚めがすっきりせず、日中眠い――。このような問題に悩んでいる人は少なくないだろう。普段の主食を変えてみることで、これらを改善できるなら、試す価値はありそうだ。

松井輝明(まつい てるあき)さん
帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科教授
松井輝明(まつい てるあき)さん 日本大学医学部卒業。医学博士。日本大学板橋病院消化器外来医長、日本大学医学部講師、准教授を経て2013年より現職。2001年厚生労働省薬事食品衛生審議会専門委員、2003年内閣府食品安全委員会専門委員。消化器一般、機能性食品の臨床応用を専門に研究する。
森田英利(もりた ひでとし)さん
岡山大学大学院環境生命科学研究科教授
森田英利(もりた ひでとし)さん 岡山大学大学院自然科学研究科博士課程修了。米国ミネソタ州立大学ポスドク、麻布大学獣医学部教授などを経て2015年から現職。腸内細菌学会広報委員、日本乳酸菌学会評議員。腸内細菌、腸内細菌叢、プロバイオティクスを専門に研究する。