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しつこい疲れは副腎疲労? 副腎を元気にする食事法

とりたい食材、避けたい食材

 渡辺満樹子=フリーライター

 何をしても疲れが取れない、気力や体力が出ない。でも、健康診断の数値に異常はない……。そんな人は、ストレス過多による「副腎疲労」の可能性もある。副腎疲労の専門家である本間良子院長・龍介副院長夫妻は「食生活を少し変えることで副腎が元気になり、症状が回復することも珍しくない」と言う。本間夫妻も実践する、副腎を元気にする食事法について聞いた。

長引く疲れ。でも原因が分からない。そんなときは副腎疲労の可能性もある(c)Shojiro Ishihara-123rf

 取材当日、午前の診察を終えて明るい笑顔で撮影現場に現れた本間良子院長・龍介副院長夫妻。そのはつらつとした姿からは想像できないが、龍介副院長は学生時代からつい6年ほど前まで、時折原因不明の疲労感や気分の落ち込みに悩まされ、ベッドから起き上がれないほどの状態になることも何度かあったという。

本間良子院長(左)と、かつての不調をみじんも感じさせない龍介副院長(右) (写真:村田わかな)
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 いくつもの病院に通って、検査を受けたが、数値に異常はなし。うつ病と診断されたこともあったが、抗うつ剤はまったく効かず、症状は悪化するばかり……。そんなどん底の状態の中で知ったのが、米国人医師、ジェームズ・L・ウィルソン博士が治療・研究に携わる「副腎疲労(=アドレナル・ファティーグ)」だった。

 その著書には、ストレスの強い仕事や生活習慣、偏った食習慣など、様々なストレスの積み重ねが副腎疲労の原因になることが多いと書かれてあり、夫妻は、龍介副院長の状態はまさにこれにあたると確信したという。その後、治療により、症状は徐々に回復。副腎疲労に苦しんだ経験を生かし、本間夫妻は2005年、川崎市に日本初の副腎疲労外来があるスクエアクリニックを開業した。

副腎疲労は「万病のもと」

副腎は脊椎の近く、ちょうど一番下の肋骨の真下あたりに左右に1つずつある(イラスト Akiko Takagi)
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 副腎とは、左右の腎臓の上部にあるホルモン分泌器官。ストレスに対処するホルモン「コルチゾール」をはじめ、生命の維持に欠かせない様々なホルモンを分泌する器官だ。

 「ここでいうストレスには、精神的なストレスだけでなく、大気汚染や食品の添加物、気温の変化、食生活の変化、持病や感染症など、体内で炎症を起こす恐れのあるもの全てが含まれます。ストレスが多く、コルチゾールが過剰に分泌される状態が続くと、副腎が疲れて必要なときに十分な量を分泌できなくなり、ストレスと闘えなくなる。この状態を『副腎疲労(アドレナル・ファティーグ)』と呼びます。正式な病名ではなく、欧米や日本のような先進国でもまだ多くの医師が認識していない病気ですが、副腎疲労になると、炎症を抑えられず疲労感や様々な不調が出やすくなります」(良子院長)

 例えば、副腎から分泌されるコルチゾールは血糖値や血圧のコントロール、免疫機能や神経系のサポートをつかさどるため、副腎疲労を起こして分泌がうまくいかなくなると、生活習慣病やうつ症状、花粉症などのアレルギー症状、橋本病やバセドウ病などの自己免疫疾患を発症することもあるという。

 また副腎は、やる気を高めて生理作用をコントロールするアドレナリンやドーパミン、性ホルモンなども分泌するため、副腎の不調は性欲の後退、女性ではPMS(月経前症候群)や更年期障害などの症状にもつながるという。「米国の抗加齢医学会では副腎疲労は『万病のもと』といわれ、甲状腺の病気や感染症、喘息、うつ病、糖尿病、高血圧など様々な疾患を治療するにあたり、まず副腎疲労の治療を優先的に行うよう指導しています。副腎を疲れさせないようにすることは、体のベースを整え、パフォーマンスを高めることにつながると考えられています」(龍介副院長)

食生活の改善がカギ

 では、副腎を疲れさせないようにするにはどうすればよいのか?「副腎から分泌されるホルモンの材料となるのは『食べ物』。そのため、副腎に良い食べ物を選んでとると同時に、負担がかかるものは避けることが大切です」と龍介副院長。以下に、副腎ケアのために積極的にとりたい食材と、避けたい食材を紹介する。

副腎ケアのために積極的にとりたい食材

1 良質なたんぱく質・脂質
オメガ3系脂肪酸を含むイワシ、アジなどの青魚は積極的に食べたい(c) daniel vincek-123rf

 副腎に良い食べ物として積極的にとりたいのは、ホルモンや組織の材料となる「良質なたんぱく質」と「良質な脂質」だ。

 本間夫妻は、たんぱく質として、肉なら鶏や豚、できればグラスフェッド(牧草飼育)の牛肉を選択。魚なら食物連鎖で重金属を蓄積しやすいマグロなどの大型魚以外のものを選び、焼く・炒めるなどシンプルに調理して食べているという。特に、体に良いオメガ3系(n-3系)脂肪酸を含むアジやイワシ、サンマなどの青魚を使った料理は本間家の定番メニュー。龍介副院長の得意料理だというオイルサーディンや海鮮サラダ、焼き魚、カルパッチョなどレパートリーも幅広い。

 「副腎疲労がベースにある人は腸の消化・吸収が悪く、また本来なら朝に多く分泌されるはずのコルチゾールがうまく分泌できないので、朝に思うように元気が出ない人が多い。ホルモンの材料となるたんぱく質は三大栄養素の中でも特に消化・吸収されにくいので、朝はもちろん、昼も夜もと3食とって不足しないようにするといいでしょう」(龍介副院長)

 また、良質な脂質としては、上に挙げた青魚のほか、やはりオメガ3系脂肪酸の一種であるαリノレン酸が含まれるアマニ油やえごま油がお勧め。「ドレッシングなど非加熱で食べるときには、主にオメガ3系オイルがいいですが、熱に弱く酸化しやすい。加熱料理には熱に強い中鎖脂肪酸が豊富なココナツオイル、あるいはオリーブオイルがいいでしょう」(良子院長)

2 香味野菜、ハーブ、スパイス、野菜
野菜は様々な色のものを食べよう(c)serezniy-123rf

 肝臓は重金属などの有害物質を解毒する器官だが、「現代人は様々なストレスで肝臓が疲れているため、肝臓で解毒できなかった毒素は各臓器に広がって炎症を起こし、これが副腎の負担になります。そのため、解毒作用があるといわれるニンニクや玉ネギ、ショウガ、パクチーなどの香味野菜やハーブ、スパイスなどをたっぷりとりましょう」と龍介副院長。

 本間夫妻によれば、野菜は色とりどりの種類を選んで食べるのがポイントだ。「色素や香り、苦味などに含まれるフィトケミカルには、抗酸化作用や抗アレルギー作用があり、肝機能の保護、血糖値の調整などに役立つとされる」(龍介副院長)ため。なるべく多くの色をとることで様々な効果が得られるという。

3 ビタミンB群とミネラル

 ホルモンの生産過程で大量に消費されるビタミンB群は、副腎疲労の人が不足しやすい栄養素。「これらを含む玄米や豚肉、卵、貝類や海藻類を多めにとりましょう。特にビタミンBの一種である葉酸は、造血作用のほか、新しい細胞をつくるのに重要な成分なので、貝類やうなぎ、緑黄色野菜を積極的にとるといいでしょう」(良子院長)

 同じく、副腎が疲れている人が不足しやすいのがミネラル類だ。「副腎疲労の人は腸に不調を抱えていることが多いため、腸でのミネラルの吸収がうまくいかずに不足しやすい。副腎の正常な働きに欠かせないナトリウムやカリウム、新陳代謝を良くして免疫を調整する亜鉛、ホルモン代謝に必要な酵素を助けるマグネシウム、イライラ解消に良いカルシウムなど、どれも必要な栄養素。海に生息するミネラル豊富な貝類、海藻類を食卓に取り入れるとよいでしょう」(龍介副院長)

4 1日1.5~2リットルの水

 水分を上手にとれば、デトックス効果も高まる。そこで本間夫妻も、1日1.5~2リットルの水分をこまめに分けてとるようにしている。飲み物は水や麦茶、ミネラルを加えたドリンクなどが定番だ。

 「私は粉末状のマルチミネラルのサプリを水に溶かして飲んだり、気温や湿度の変化が激しく特に疲れやすい春先から初夏にかけては、ナトリウムやミネラルを含む天然塩や岩塩を持ち歩き、水に加えて飲んでいます」(龍介副院長)

副腎ケアのため、なるべく避けたい食材

1 グルテン、カゼイン

 龍介副院長によると、副腎ケアのためには体内の炎症を減らすことが大切。そして、腸の粘膜の炎症の引き金になりやすい食品成分の代表的なものが、グルテンやカゼインだという。

 グルテンは小麦や大麦、ライ麦などに含まれ、カゼインは乳製品に含まれる。副腎疲労の患者にはグルテンやカゼインに過敏な人が多く、そうした人がこれらの成分をとると小腸の粘膜が炎症を起こすことがある。その場合、グルテンやカゼインを避ける「グルテンフリー」「カゼインフリー」といった食事法を実践することで、体の炎症を減らし、副腎への負担を軽くできるという。

 ただ、グルテンフリーやカゼインフリーについては、多くの場合、小麦や乳製品など特定の食品をばっさり抜くことになるため、栄養バランスの偏りを招きやすいとの指摘もある。自己判断で行うのではなく、必ず医師の指導のもと行う必要がある(グルテンフリーについては『「グルテンフリー・ダイエット」とは? 減量法でも健康法でもない?』もご覧ください)。

2 カフェイン

 最近は健康にいいと注目を集めているコーヒーだが、カフェインには副腎を刺激してコルチゾールの分泌を促す働きがあるため、とり過ぎは副腎の負担になる。本間夫妻はカフェイン入りのコーヒーは避け、肝臓に負担をかけるアルコールも週末に1~2杯程度に控えているという。

 「健康な人は朝にコルチゾールが最も多く分泌されますが、副腎疲労の患者の場合、コルチゾールを分泌する力が弱っているため、朝からずっとコーヒーが手放せない人が多い。カフェインをとると一時的に元気になるからです。でも、効果が切れるとコルチゾールの出が悪くなり、逆に疲労感にさいなまれてしまいます。どうしてもコーヒーを飲みたければ量を減らしたり、1杯をお湯で薄くして分けて飲むといいでしょう」(龍介副院長)

3 血糖値を急上昇させる甘い菓子など
甘い菓子は血糖値を急上昇させるので極力控えたい(c) Alexei Logvinovich-123rf

 おなかが減ったら間食はしてもOK。ただし、急激に血糖値を上げる甘いお菓子や炭水化物を間食にとることは極力控えたほうがいいそうだ。また、副腎が疲れていると消化・吸収機能が低下するため、一度にたくさん食べずに少しずつ分けて食べるのがお勧めだという。

 「血糖値が急上昇すると血中のインスリンが急激に増える。すると血糖を安定させるため、副腎ではコルチゾールのほか、アドレナリンやノルアドレナリンなどのホルモンが大量に消費され、副腎疲労を進行させてしまう。またお菓子や炭水化物をとると、リラックス効果のあるセロトニンが分泌される。副腎疲労の人は感情が落ち込んでいるので、お菓子を食べると幸福感を感じやすく癖になりやすい。空腹を感じたら、果物やナッツなど血糖値が上がりにくいものをつまむといいし、どうしてもの場合は、和菓子ならOKです」(龍介副院長)

4 添加物や化学合成物質

 農薬使用や遺伝子組み換えのもの、添加物、化学合成物質などを含む食べ物は、副腎に負担をかける恐れがあるため避けている、という本間夫妻。ソーセージ、ハムなどの加工食品、ジャンクフード、スナック菓子なども控えているという。

すべての人に当てはまる正解の食べ物はない

 以上、副腎ケアのための食品選びについて教えてもらったが、「すべての人に当てはまる正解の食材はないことも、知っておいてください」と本間夫妻は強調する。

 「例えば、胃腸が弱くて便秘や下痢を繰り返している人は、たんぱく質は控えめにしたほうがいいし、逆に消化器官が丈夫な人なら、朝から肉という選択肢もあります。我が家でも、夫と子どもは朝から肉や雑穀米を食べますが、私は炭水化物をとると低血糖症を起こしやすいので、朝はシラスをのせた冷や奴にサラダ、果物といった内容。ご飯を食べないようにしています。世の中で良いといわれているものや、ある人にとって良いものが、自分にも良いとは限りません。盲信せずに自分の体調や体質に合わせてとることが大切です」(良子院長)

 もう一つ、「がんばり過ぎず、何事も60点を目指すこと」も大事なポイントだと本間夫妻は話す。

 「日本人はきちょうめんで真面目、がんばり過ぎの人が多い。副腎疲労研究の第一人者であるウィルソン博士も、『サムライ魂は副腎疲労そのものだ』と言っていましたが、完璧主義も度を過ぎると心身の負担になります。がんばり過ぎで体をこわして薬を買うよりも、シンプルな生活を心がけるほうがいい。副腎ケアにしても、世の中には良いとされる食品や、薬やサプリが溢れていますが、まずはあれもこれもと『足す』のではなく、余計なものを『引く』生活を意識してみてほしい」と龍介副院長は提案する。

本間良子(ほんま りょうこ)さん
スクエアクリニック(川崎市)院長
本間良子(ほんま りょうこ)さん 聖マリアンナ医科大学医学部卒業。同大学病院総合診療内科入局。日本抗加齢医学会専門医、米国抗加齢医学会フェロー、日本医師会認定産業医、日本内科学会会員。専門は、内科、皮膚科。共著に『自分で治す! 副腎疲労』(洋泉社)など多数。
本間龍介(ほんま りゅうすけ)さん
スクエアクリニック副院長
本間龍介(ほんま りゅうすけ)さん 聖マリアンナ医科大学医学部卒業。同大学院医学研究科修了。日本抗加齢医学会専門医・評議員、米国抗加齢医学会フェロー。日本医師会認定産業医、日本内科学会会員。