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高齢者の「熱中症」はなぜ多い? 脱水の予防策は?

熱中症・脱水予防のために知っておきたいこと(2)

 伊藤和弘=フリーランスライター

 気温や湿度が上がり、熱中症が多発する季節になってきた。そこで、環境省主催の「平成29年度熱中症対策シンポジウム」より、ビジネスパーソンに役立ちそうな3講演の内容を一つずつ紹介しよう。第2回はケアーズ代表取締役、白十字訪問看護ステーション統括所長の秋山正子さんによる「熱中症・脱水予防講座」。高齢者向けの内容だが、ビジネスパーソンは高齢の親が熱中症にならないようにするための注意点として役立ててほしい。

高齢者は体内の水分が少ないため、脱水症状を起こしやすい(c)Katarzyna Bialasiewicz-123rf

 約20人の看護師が在籍するケアーズ白十字訪問看護ステーションは、東京の新宿区と千代田区で訪問看護を行っている。2011年、住人の53.6%が高齢者という新宿区の団地・戸山ハイツに、医療・健康の相談ができる「暮らしの保健室」を開設。毎年夏になると高齢者向けに「熱中症予防講座」を開いている。そこでどんな話をしているのか、が本講演の内容だった。

熱中症で亡くなる人は高齢者が圧倒的に多い

 1968年から95年にかけての「熱中症による年齢階級別死亡者数」を見ると、熱中症で亡くなる人は70歳以上の高齢者が圧倒的に多い。高齢者には、まずその事実をしっかり認識してもらうという。

 熱中症の発生状況には「スポーツ」「労働」「日常生活」がある。スポーツや労働で熱中症になるのは炎天下で男性に多いが、高齢になると日常生活で起こしやすくなる。この場合、男女差はあまりなく、ずっと屋内にいながら熱中症になってしまう人も少なくない。

「熱中症保健指導マニュアル2008」より
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 2008年夏の東京消防庁管内における熱中症による救急搬送人数と気温の関係を見ると、前日に比べて気温が急に高くなると熱中症患者が増えている。「これは体が暑さに慣れていないため。急に暑くなった日はくれぐれも注意して、意識して水を飲むように指導しています」と秋山さんは話す。

高齢者は脱水を起こしやすい

 高齢者は体内の水分が少ない。体内の水分の割合は赤ん坊が70~80%、成人が約60%に対し、高齢者は約50%に減ってしまう。もともと持っている水分が少ないため、高温・多湿などの環境要因のほか、発汗・下痢などによってすぐに脱水症状を起こす。

 水は生命を保つ上で、酸素の次に重要な物質だ。栄養素や酸素を運ぶ、老廃物を排せつする、体の様々な機能を維持する、といった役割に加え、体温を調節する働きもある。そのため脱水が起こると熱中症になりやすくなる。

 特に認知症の人は脱水を起こしやすい。

 「認知症になると、自律神経の働きが悪くなって脱水を起こしやすくなることもありますし、判断力が衰えているため脱水症状を自覚できません。お茶の入った湯飲みを持っていても、持っているだけでまったく飲んでいないこともあります。周囲の人が注意してあげることが必要です」(秋山さん)

 実際、こんなことがあった。5月の連休明けで急に暑くなった頃、団地で一人暮らしをしている90代の女性が、テレビのリモコンが見つからないと「暮らしの保健室」を訪ねてきた。彼女は軽い認知症があるが、少し支援すれば日常生活は送れていた。同じ悩みで3回もやってきたので不審に思って自宅を訪ねてみたところ、窓が閉めきってある上、なんと暖房がついていたという。

 「暑いのでエアコンをつけたけれど、冬に使った暖房になったままだったのでしょう」と秋山さんは推測する。

 さらに高齢者では、エアコンを使わない、防犯のために窓を開けない、夜間トイレに起きないように水を控える、といった習慣を持っている人も多い。そのため、室内で熱中症になるリスクが高くなる。

 高齢者に多い高血圧や糖尿病といった生活習慣病も脱水を促進することがある。「心疾患や腎臓病で水を控えるように言われている人もいます。でも夏場と冬場では飲んでいい水の量も変わってくるはずなので、主治医に確認してください、という話をしています」と秋山さん。

汗をかく夏は塩分の補給も忘れずに

 熱中症が疑われたら、まずは涼しい場所へ運び、衣類を緩める。さらに体に水をかけたり、濡れタオルを当てたりして体を冷やす。特に太い血管がある首、わきの下、足の付け根などを冷やすと全身を冷やすのに効果的。これらの部位にハンカチに包んだ保冷剤を当てるなどするといいだろう。

 汗をかくと、水分だけではなく、塩分も失われる。そこで水だけを大量に飲むと、利尿作用によってさらに塩分が失われるという悪循環に。暑い夏には、水分とともに塩分の補給も忘れてはいけない

汗をかく夏は塩分補給も忘れずに(c)ratchanida thippayos-123rf

 市販されている経口補水液には塩分が含まれている。スポーツドリンクに比べると糖質が少なく、塩分が多いのが特徴だ。

 経口補水液は自分で作ることもできる。500ミリリットルの水に、20グラムの砂糖と1.5グラムの塩を加えればいい。「暮らしの保健室」の熱中症予防講座では実際にその場で作り、参加者に味を確認してもらっているという。

 布団に入る前後、入浴の前後、運動中と運動の前後には必ず水分をとるようにしよう。「また、お酒を飲んだ後も水を飲むようにしてください。ビールは利尿作用があるので、水の代わりにはなりません」と秋山さんは注意する。

 食事にも水分が含まれている。暑いと食欲がなくなりがちだが、脱水を防ぐためには食事をきちんととることも大切だ。

 エアコンを適切に使うことに加え、熱中症を防ぐには夏に起こしやすい脱水を防ぐことがポイント。こまめに水と塩分をとり、脱水を起こさないことを心がけてほしい。

秋山正子(あきやま まさこ)さん
ケアーズ代表取締役、白十字訪問看護ステーション統括所長
秋山正子(あきやま まさこ)さん 1973年、聖路加看護大学卒業。産婦人科の看護師となる。2001年、ケアーズ白十字訪問看護ステーション設立。11年、「暮らしの保健室」開設。16年、がん相談施設「マギーズ東京」設立。白十字在宅ボランティアの会理事長。東京女子医科大学非常勤講師。教えて!「かくれ脱水」委員会委員。