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性行為で感染!「アメーバ赤痢」が急増中

年間1000人以上、無症状のまま感染を広げるケースも

 大西淳子=医学ジャーナリスト

 「赤痢(せきり)」と聞くと、発展途上国を旅行した人がかかる下痢、とイメージする人が多いかもしれません。

 赤痢とは、下痢に血液や粘液が混ざって赤っぽく見える便のことで、この状態の便が出る病気が赤痢と呼ばれます。赤痢は、下痢、腹痛、血便などを主症状とする大腸の感染症ですが、実は「細菌性赤痢」「アメーバ赤痢」の2種類があり、病原体が異なります。

 細菌性赤痢の病原体は「赤痢菌」で、主に衛生環境の悪い発展途上国を訪れた人が、水や食品などを介して感染します。一方、アメーバ赤痢の病原体は、「赤痢アメーバ」という原虫で、水や食品を介した感染もありますが、先進国での主な感染経路は性行為です。感染者の肛門付近に付着したアメーバが口に入ることで感染します。近年、このアメーバ赤痢の国内での感染が増加しています(図)。

(国立感染症研究所感染症疫学センター 感染症発生動向調査事業年報2014、感染症発生動向調査週報〔IDWR〕速報データ2015年第52週、53週合併号より)
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毎年1000人以上の患者、9割が男性だが女性も増加

 全世界で病原性のアメーバ赤痢に感染している患者は約5000万人、死亡者数は毎年4~7万人といわれています。先進国で感染率が高いのは、男性同性愛者や知的障害者施設の入所者といわれています。男性同性愛者でアメーバ赤痢に感染している患者は、梅毒やHIV、B型肝炎、性器ヘルペスなどの他の性感染症にもかかっている可能性が高いことが知られています。

 日本では、2013年以降、毎年1000人を超える患者が報告されており、2016年も、第23週(6/6~6/12)までの累計で519人に達しています。うち7~8割は国内での感染です。近年、特に心配なのは、異性間の性行為でアメーバ赤痢に感染する男女が増えている点です。

アメーバ赤痢の主な症状は下痢や粘血便だが、8~9割は無症状。(© Marcinski -123rf)

 2010~2011年の報告数と2012~2013年の報告数を比較した報告(*1)によると、いずれも男性患者が全体の9割近くを占めているものの、女性の報告数は増加傾向にあり、男性の増加率は17.9%、女性の増加率は26.7%でした。

 無症状なのに診断された感染者の数が8.7%から15.4%へと約2倍になっていますが、ここには、大腸内視鏡検査で偶然見つかった患者が含まれています。

 感染経路は男女ともに性行為感染が多く、男性では同性間と異性間の性的接触による感染が、同程度~異性間でやや多く生じていました。女性は大半が異性間の接触によるもので、性行為による感染の割合は26.0%から37.3%に増加していました。

 また、2003年ごろから、国内の性風俗産業で働く女性のアメーバ赤痢患者が見つかるようになり(*2)、さらに増加しているようです(*3)。提供するサービスの多様化が原因と考えられています。

 感染しても症状を経験しない人や、症状があっても軽いために医療機関を受診しない人が多いアメーバ赤痢の感染者は、報告されている数をはるかに上回ると考えられます。わずかではありますが、死亡する患者も毎年出ています。アメーバ赤痢感染者が妊娠すると症状が悪化することも知られており(*4)、女性だけでなくパートナーである男性も、感染予防を心がける必要があります。

もっと詳しく:アメーバ赤痢とは

 原因:アメーバ赤痢の原因は、赤痢アメーバという原虫です。感染した人の便の中に排泄される赤痢アメーバに汚染された水や氷、野菜や果物、肉類を生で食べると感染します。性行為では、肛門周辺にいたアメーバが、手指を介して、または肛門に対する口腔性交により口の中に入ると感染します。

 症状:潜伏期は2~3週間とされていますが、数カ月から数年におよぶこともあります。また、症状が現れるのは、感染した人の10~20%にとどまるため、症状がないままに感染している人が多いことが問題です。

 腸管に現れる主な症状は下痢粘血便ですが、重症化することはまれです。症状は数週程度の周期で現れたり消えたりを繰り返しますが、全身状態に影響はなく、患者は通常の社会生活を送ることができます。治療を受けなければ、赤痢アメーバが体内に長く留まる可能性があります。

*1 アメーバ赤痢報告数の増加、2010~2013年. 国立感染症研究所病原微生物検出情報(IASR) Vol. 35 p. 223-224: 2014年9月号.
*2 東京都立駒込病院での赤痢アメーバ症例. IASR. Vol.24 p81.
*3 アメーバ赤痢 2003~2006. Vol.28 p103-104.
*4 感染症の話 アメーバ赤痢. 感染症発生動向調査週報(IDWR). 2002年第30週号(2002年7月22日~7月28日).
もっと詳しく:アメーバ赤痢とは(続き)

 患者は多くが、痔や大腸がんを疑って医療機関を受診します。なかには潰瘍性大腸炎と誤診されて、何年も投薬治療を受ける患者もいます。アメ-バ赤痢はステロイド剤を投与すると悪化するため、潰瘍性大腸炎として治療されている患者に、生命にかかわる腸穿孔(腸に穴があいた状態)が生じることもあります。

 腸管以外に現れる症状の代表は、アメーバ性の肝膿瘍で、肝臓に膿の固まりができます。腸管症状がないまま肝膿瘍が大きくなる場合もあります。

 治療メトロニダゾールという薬が非常に有効です。しかし、発見が遅れ、肝膿瘍が進行すると、治療は難しくなります。国内でも年間に数人がアメーバ赤痢によって死亡しています。

 予防:ワクチンや予防薬はありません。発展途上国では水や食べ物に注意することが重要です。国内では、一般的な性感染症予防策である、不特定多数との行為を避ける、性風俗産業の利用を控える、コンドームを使用する、体を清潔に保つ、そして、肛門への口腔性交を避けることが大切です。

●参考文献
・厚生労働省検疫所 FORTH 感染症についての情報 アメーバ赤痢
・感染症の話 アメーバ赤痢. 感染症発生動向調査週報(IDWR). 2002年第30週号(2002年7月22日~7月28日).