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酒を断つには、趣味も人間関係もリセットするしかない

飲むべきか、飲まざるべきか、それが問題(2)

 崎谷実穂=ライター/編集者

お酒を飲む人にとって他人事ではないけれども実態はよくわからない「アルコール依存症」。いったん依存症になると、断酒するのはとても難しいと言われています。「元アル中」コラムニストで『上を向いてアルコール』の著者・小田嶋隆さんは、どうやって依存症から抜け出せたのか。酒ジャーナリストで『酒好き医師が教える最高の飲み方』の著者・葉石かおりさん、同書の監修者である肝臓専門医の浅部伸一さんと語り合います。

第1回

アルコール依存症の人は、頑なに依存症だと認めない

第2回

酒を断つには、趣味も人間関係もリセットするしかない

第3回

酒は百薬の長、ではなかった。それでも飲むなら


飲酒をコントロールできないことが問題

葉石かおり(以下、葉石):アルコール依存症かどうか判定するには、飲酒習慣のスクリーニングテストを受けます。こちらはWHO(世界保健機関)のスクリーニングテスト「AUDIT」の質問項目です。こうした質問の答えを点数化するんです。

厚生労働省のe-ヘルスネットより作成。酒量は「日本酒1合=2.2ドリンク」「ビール大瓶1本=2.5ドリンク」「ウイスキー水割りダブル1杯=2ドリンク」などと換算する。

小田嶋隆(以下、小田嶋):スクリーニングテストっていくつかありますよね。私は久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(※現在は新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト)というテストで、すごい高ポイントをたたき出したことがありますよ。自慢できることじゃないですけどね(笑)。

 この質問を見ると、アルコール依存症は、頻度や酒量だけが判断基準になっているわけではないということがわかります。

小田嶋隆(おだじま・たかし)
1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

葉石:普通は、毎日飲むとか、毎回ボトル1本あけるとか、そういうことがアルコール依存症の判断基準になると思いがちですよね。

小田嶋:そうではなく、その人が飲める最高量を1カ月のうちどれだけ飲んでいるか、お酒を飲むことで問題行動を起こしているか、ということがポイントになっているんです。

浅部伸一(以下、浅部):飲酒をコントロールできているかどうか、ということが重視されていますよね。「飲酒のために前夜の出来事を思い出せないことがどれくらいあるか」「飲酒であなた自身や他の誰かがけがをしたことがあるか」といった質問は、許容量を超えて飲んでしまうことがあるかを確認しているのだと思います。

小田嶋:私はかつて依存症だったので、ちょっとわからないんですけど、日本酒だったら1合が適量とかいうアドバイスってありますよね。でもすでに1合飲んでいる人間に、それ以上飲むことをやめさせるのは不可能じゃないですか?

葉石:あの、本に書いておいてなんですが、私もそう思います(笑)。1合飲んだら、続けて2合、3合と飲んで、もうゴールデンコースですよね。

小田嶋:無敵ですよ。ビールなんていくら飲んでも物足りないから、延々と飲んでいるうちに、気づいたらぶっ倒れている。アルコール依存者に適量という概念はないんです。だから、こういうアドバイスって、依存者には役に立たないなと思うんですよね。

葉石かおり(はいし・かおり)
1966年東京都練馬区生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業。ラジオレポーター、女性週刊誌の記者を経てエッセイスト・酒ジャーナリストに。全国の日本酒蔵、本格焼酎・泡盛蔵を巡り、各メディアにコラム、コメントを寄せる。2015年に一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーションを設立。

葉石:それを言ってしまうとどうしようもないのですが……。依存症でない方にはなんとか気をつけていただきたいところです。小田嶋さんは、アルコール依存症をどのように治療していかれたんですか?

小田嶋:まずは症状である不眠を治すために、睡眠導入剤が処方され、あとは精神安定剤が出ました。また、精神安定剤を飲むと気持ちが落ちてしまう人がいるらしく、それを防ぐための抗うつ剤ももらいました。アルコール依存症の人がアルコールを抜くと、不眠と抑うつに悩まされるんですよ。いわゆる禁断症状ですね。それを、薬でまずは抑えてしまう。あるいは、依存先を乗り換える、という言い方ができるかもしれません。で、2、3カ月はそれで乗り切るんです。

酒なしでは、野球もロックも楽しめない

葉石:『酒好き医師が教える最高の飲み方』を書くために、アルコール依存症専門の病院をいくつか取材したのですが、そのなかでは「抗酒剤」を出すというところもありました。

浅部:抗酒剤は何種類かあるのですが、古典的な抗酒剤はアルコールが代謝されないようにブロックする、というものですね。いわゆる「下戸」のような状態に強制的にして、少量飲むだけで気持ちが悪くなるようにしてしまう。

 でもこの薬は、とても使い方が難しいんですよ。抗酒剤を飲んだ上で、ぐびっと飲酒してしまうと、急性アルコール中毒と同じ状態になってしまいます。治療のために抗酒剤を飲んでいたのに、昔の仲間に会って「お前、飲めるだろう」と勧められて飲んでしまうというケースがあり、それで亡くなってしまった人もいます。

小田嶋:酒飲みって、仲間が酒をやめるのをすごく嫌がるんですよね。ダイエットしている女の子に、友達が「えー、ぜんぜん大丈夫だよ。ケーキ食べようよ」とか言うようなものです。私もやめた当時は、「何言ってんだ、飲めるだろ」と勧められたことはありましたね。

葉石:今も、飲もうというお誘いはありますか?

小田嶋:いえ、もうありませんね。というのも、酒飲みがお酒をやめるには、人間関係そのものをリセットしないといけないから。アル中にまで到達した人って、飲む人間としか付き合ってないんですよ。だから、飲まなくなると人間関係も切れてしまう。

 そもそも生活のすべてがアルコールに紐付いていたので、全部いったんやめなければいけない。例えば、私はちびちび飲みながら野球を見るのが好きでした。でも、酒をやめたらそれまでずっと見ていた野球がつまんなくなってしまった。酒無しで野球を見たときの、野球選手のバカさ加減たるや。いい大人があんな服着て、ダラダラ何やってるんだろう、と思ってしまったんですよね。

葉石:ひどい言いようですね(笑)。でも野球って、スタジアムでもみんなビールとおつまみ片手に、ダラダラ見てますよね。

小田嶋:そうなんですよ、野球ってアメリカではナショナルパスタイム(国民的娯楽)と言われたりしますけど、要はスポーツと言うより暇つぶしなんですよね。酒を飲まなくなってからはサッカー観戦をするようになりました。サッカーのほうが、飲む暇ないんですよ。

 あと音楽も、かつてはレゲエとか60年代ロックを聞いていたんですけど、酒無しで聞いたらなんだか白々しく聞こえてしまって。そこで嫌いだったジャズを、一から勉強しました。最初は無理やり聞いていたんですが、最終的には好きになりましたね。こうやって意識的にそれまでの習慣を変えて、生活を再構築していくんです。

浅部伸一(あさべ・しんいち)
1990年、東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院、虎の門病院消化器科等に勤務。国立がん研究センターなどを経て、アメリカ・サンディエゴのスクリプス研究所に留学。帰国後、2010年より自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科に勤務。現在はアッヴィ合同会社所属。専門は肝臓病学、ウイルス学。好きな飲料は、ワイン、日本酒、ビール。

葉石:そこには途方もない苦労があるんですね。

200円でとんでくるかわいいやつと、どうやって別れるか

葉石かおり著、浅部伸一監修『酒好き医師が教える最高の飲み方

小田嶋:酒を飲んでつぶしていた時間が激しく余るようになるのも、問題です。やることがないと、酒に走ってしまいがちなので。そこで、医者に勧められたアルコホーリクス・アノニマス、通称AAという断酒の自助グループの集会に週に2、3回いくようにしました。

葉石:小田嶋さんの著書『上を向いてアルコール』にも書かれていましたね。その集会では何をやるんですか?

小田嶋:みんなで神代植物公園に行き、花を見たりしましたね。いい大人が何やっているんだ、という感じですが(笑)。あとは、一人ずつ順番に、酒でどんなふうに身を持ち崩したかとか、今考えていることなどを話す。それがお互いの戒めになるんです。

葉石:時間をつぶすために、運動はしなかったんですか?

小田嶋:試みたんですけど、失敗しました。やっぱりお酒で体もぼろぼろになってるから、いきなり運動できないんですよね。

浅部:ほとんど食べないで飲み続けていた人は、筋力も落ちていますしね。ちゃんと食べることから始めないと。

小田嶋:お酒をやめて1、2年で8キロくらい体重が増えたんですけど、それでやっと標準体型になったという感じでした。顔も、酒を飲んでいたときは黒ずんでカサカサだった。それがなくなって、会う人会う人に、若返ったって言われましたよ。

葉石:話をお伺いしていると、アルコール依存症から抜け出すというのは、ただお酒をやめればいいというものではないんですね。

生活習慣は、依存でなりたっている

小田嶋:生活習慣というものは、何かしらの依存でなりたっているんですよね。その依存していたものがなくなる、というのは、すごく大きな喪失感があることなんです。

2018年5月11日に東京・下北沢の書店「B&B」にて開催された鼎談を記事にしました。

葉石:その喪失感を乗り越えなければいけない。

小田嶋隆著『上を向いてアルコール

小田嶋:例えば、ある女性と5年付き合っていたけれど、別れてしまったとする。その5年間で、どこか行くなら一緒に行ったり、夜は電話したりと、習慣になっていたことがいろいろあるわけですよね。それがいきなり全部なくなってしまうと、どうしていいかわからない。だからもうそんなに好きじゃなくても、つい電話してしまったりするわけです。

 生身の女性が相手なら、「もう電話してこないで!」って言われたり、そもそも電話に出てもらえなかったりする。そうして、だんだん彼女がいない状態に慣れることができます。ところが酒は、いったん別れても、飲もうと思ったらたった200円で、いつでもとんできてくれるんですよ! そんなやつと、どうやって別れられますか。

葉石:200円で気分も良くしてくれるし(笑)。これ以上のパートナーはいない、と。

小田嶋:本当は最低価格をビール1本2000円とか、ウイスキー1本2万円とかにしたほうがいいんでしょうね(笑)

第3回に続く)

(写真:鈴木愛子)