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突然発生する急性大動脈解離、救命は時間との闘い

高血圧のある人は要注意

 大西淳子=医学ジャーナリスト

 2017年7月6日に舞台から転落し、亡くなった俳優の中嶋しゅうさんの死因が急性大動脈解離だったことが、所属事務所の発表で明らかになりました。

 同じ循環器の病気である心筋梗塞や狭心症に比べて、大動脈解離の発生率は低いのですが、加藤茶さん、石原裕次郎さんはこの病気を発症しながら生還し、塩屋俊さん(俳優)、大滝詠一さん(ミュージシャン)、立松和平さん(作家)らは残念ながら亡くなった、といった報道が記憶のどこかに残ってはいないでしょうか。

 2015年5月18日には、タレントの大木凡人さんが、同年1月に大動脈解離を発症して緊急手術を受けたことを公表しました。「胸部に突然発生した強烈な痛みに気絶しそうになりながら119番に電話し、大がかりな手術を受けて生還した」という話に、他人ごとではないと恐ろしくなった方もおありでしょう。

 急性大動脈解離は、前兆といえる症状がほとんどない上に、発症すれば短時間のうちに死亡するリスクが高い、やっかいな病気です。いったん発症したら、治療を受けられる施設に、できるだけ早く「生きて」到着しなければなりません。

【大動脈とは】
心臓から全身に血液を送り出す、最も太い血管

 大動脈は、酸素を多く含んだ動脈血を心臓から全身に送り出す、体内で最も太い血管です(下図)。心臓から出る上行大動脈の付け根から分岐した冠動脈は、心臓の筋肉に血液を送ります。首に向かって延びる上行大動脈は、鎖骨より若干下の位置で弓なりに曲がって(弓部大動脈)、下行します(下行大動脈)。弓部大動脈から3本の血管が分岐して、頭部と両腕に血液を送ります。下行大動脈からは胸部の臓器や背骨(胸椎)などに血液を送る血管が分岐しています。背骨のすぐ前側を下行する大動脈は、やがて横隔膜にあいている穴を通って腹部に至り(腹部大動脈)、腹部の臓器や下肢に血液を供給します。腹部大動脈の直径は20~25mm、胸部大動脈の直径は約25~30mmもあります。

大動脈の模式図
(C)Alex Antonio Ramirez Arias -123rf(図の左側)
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【大動脈解離とは】
血管の内側に傷ができ、壁の中に血液が流れ込む

 太いホースのような大動脈の壁は、内膜・中膜・外膜の3層構造になっています。内膜のどこかに傷ができ、そこから血液が中膜部分を裂くようにして流れ込んだ状態を解離といいます。解離が生じると、最初の穴より下流にもう1つ穴があいて内膜と外膜の間に血液の流れができたり、出ていく場所のない血液がその場で固まったりします。

 解離が始まるとほとんどの人が、それまでに経験がないほどの激痛を感じます。解離部分が広がるにつれて、痛む範囲が、たとえば胸から背中へ、さらに腰へと移動することもあります。解離が止まれば痛みは消えますが、引き続いて、命に関わるような深刻な合併症が発生する危険性があります。痛みが強いことは広く知られていますが、症状を感じない患者も5%強存在するという報告があります。

 解離部分の直径が拡大して瘤が形成された場合には、これを解離性大動脈瘤と呼びます。

 大動脈解離がなぜ、どのようにして発生するのかについては、いまだ不明な点が少なくありません。

【大動脈解離の合併症】心臓の動きを急速に妨げることも

 解離領域の大動脈の壁は、外膜だけで維持されています。そこに血圧がかかると、外膜が破れて出血することがあります。大動脈の分岐部分やその近辺に解離がおこると、分岐血管が狭くなったり詰まったりして、そこから先に血液が流れにくくなり、心筋梗塞脳梗塞が発生します。解離が心臓との接続部分まで広がると、急性心不全になる可能性があります。

【大動脈解離の診断】主にCTスキャンが用いられる

 診断には、大動脈全体を評価でき、緊急時に短時間で検査可能なCTスキャンが主に用いられます。

【大動脈解離の治療】上行大動脈に発生した場合は緊急手術

 大動脈解離が発生した位置によって、命に関わるのかどうか、すぐに手術が必要か否かは異なります。また、発症後2週間の急性期(発症後の48時間を超急性期と呼ぶこともあります)と、それ以降の慢性期では、治療の選択肢が異なります。

解離が発生した位置に基づく分類とそれぞれの特徴
スタンフォードA型スタンフォードB型
解離が発生する範囲上行大動脈を含む下行大動脈以下
発症割合*62.3%37.7%
病院到着前の死亡に占める割合**
(解離型不明が26%)
67%7%
院内死亡(入院患者の死亡率)*34.9%14.9%
入院患者の発症から1カ月以内の死亡率(手術なしの場合)*24時間以内;20%
48時間以内;30%
1週間以内;40%
1カ月以内;50%
1カ月以内;10%以下
急性期(発症から2週間)の治療原則としてただちに手術(人工血管に置換など)合併症がなければ、内科的な治療(強力な血圧管理、安静など)
慢性期の治療症状が安定していれば内科的治療
再発予防・血圧の厳格な管理
・激しい運動、相手とぶつかり合うようなスポーツ、重いものを持つといった行為を避ける
・定期的にCT検査を受けて大動脈の直径を計測
*急性大動脈解離の国際多施設共同登録試験(IRAD)の報告. Peter G. Hagan, et al. The International Registry of Acute Aortic Dissection (IRAD): New Insights Into an Old Disease. JAMA. 2000;283(7):897-903.
** 村井達哉. 大動脈解離と突然死-東京都監察医務院における1,320剖検例の統計的研究-.日法医誌. 1988;42:564–577.

【発生率と死亡率】高齢者、冬場に多い

 日本国内のいくつかの地域で調査が行われ、年間発生率は10万人あたり3人前後であることが示されています。動脈解離の発症のピークは70代で、発症者の男女比は、中年期には男性が女性の2~3倍ですが、高齢になるほど差は縮まります。発症者は冬場に多く、夏場には少ない傾向があります。時間的には日中、特に6~12時に多いと報告されています。

 日本で行われた調査では、急性大動脈解離を発症した患者の61%が病院到着前に死亡していました。また、急性大動脈解離によって死亡した患者の87%は、心臓に近い上行大動脈からの出血によって心臓の動きが妨げられた(心タンポナーデ)ために亡くなっていました。

 なお、国内で大動脈解離患者に対して行われた手術の件数は、2004年は約4000件弱でしたが、2008年は約5000件で、徐々に増加しています。

【大動脈解離の危険因子】患者の7割以上が高血圧

 この病気の直接の原因ははっきりと分かっていませんが、危険因子と考えられているのは、高血圧(急性大動脈解離を起こした人の70~90%が高血圧です)、血管の病気(血管の壁を弱くする先天的または後天的な病気があります)、妊娠(ホルモン濃度の変化が大動脈壁にも変化を起こします)、外傷(交通事故で、胸をハンドルで強打した場合などに発生する可能性があります)、先天的な大動脈弁と大動脈壁の異常、などです。

 予防には日常の血圧管理が非常に重要と考えられています。なお、遺伝的な病気に起因する大動脈解離の場合には、近親者にも同じ病気が発生する可能性があります。心当たりがあれば医師に相談し、CT検査などを受けるとよいでしょう。

参考文献
・田辺正樹, 中野赳. “疫学”. 特集:大動脈解離の論点―大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2006年)を踏まえて. 脈管学. 2008;48:13-18.
・日本循環器学会「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011 年改訂版)」
この記事は2015年6月4日に公開した記事をアップデートしたものです。