日経グッデイ

トピックス

医師が語る「冬のマラソンで起きがちなトラブル」と予防策

天気が良くて走りやすい日ほど要注意?

 伊藤和弘=フリーランスライター

1月から2月にかけて、多くの市民マラソンが開催される。夏に比べて走りやすいのは間違いないが、一方で体のトラブルも起こりやすい。脱水やハンガーノックなど、「冬のマラソン」で起こりやすいトラブルとその予防法を覚えておこう。

気温が低い冬は、低体温症、脱水、ハンガーノックが起こりやすい。それらを防ぐには?写真はイメージ=(c)maridav-123rf

 2月は「マラソンの季節」。青梅マラソン、京都マラソン、東京マラソンなど、知名度の高い市民マラソン大会が目白押しとなっている。気温が高い夏に走るよりも肉体的負担が少なく、安全で走りやすいが、くれぐれも油断は禁物。逆に寒い季節ならではのトラブルもある。

 「気温が低い冬は熱中症が起こりにくい代わりに、低体温症脱水ハンガーノック(長時間の激しい運動の最中に、極度の低血糖状態に陥ること)が起こりやすい。特に小雨まじりや風があって寒い日は、低体温症などを起こしやすくなります。では天気が良くて暖かく走りやすい日は安心かというとそんなことはなく、そんなときこそ記録を狙おうと無理をする人が多いせいか、心肺停止を起こすケースが少なくありません」と話すのは、千葉マリンマラソンなど多くのスポーツ大会でサポートドクターを務めている稲毛病院(千葉市稲毛区)整形外科・健康支援科部長の佐藤務さんだ。

危険な「低体温症」とは?

 低体温症とは通常は37℃前後ある深部体温(体の中心部の温度)が35℃以下に下がった状態。臓器の機能や、意識レベルが低下し、もちろんランニングのパフォーマンスも著しく低下させる。深部体温30℃以下になると不整脈が生じ、筋肉は硬直して、呼吸機能が低下。それ以下で生死に関わる。「睡眠薬や鎮静剤、のどの薬を服用している人のほか、過度の飲酒、過激なダイエットや食事制限、低血糖、糖尿病や甲状腺などの内分泌疾患は低体温症を招きやすい」(佐藤さん)という。

 ハンガーノックとは長時間の激しい運動によって血糖値が極端に下がった結果、体が動かなくなり、意識がもうろうとすること。体温の維持に糖を消費する冬は、夏よりもハンガーノックが起こりやすくなるという。

 こうしたトラブルを防ぐには、どんなことに気を付ければいいのだろうか。

30分に1回は水分と糖の補給を

 「あらかじめ体調を整えておき、大会の前日はお酒を控えてしっかり睡眠を取り、きちんと朝食を食べることが大前提。さらに、2時間以上運動するような場合は、走る前はもちろん、走っている途中でも水分や糖分の補給をすることが必要です」(佐藤さん)

 よく言われるように、脱水やハンガーノックは具合が悪くなってからの補給では手遅れ。のどが渇いていなくても、体調が良くても、早め早めに水分と糖を補給することを心がけよう。佐藤さんは「30分に1回」などと時間を決めて一定の間隔で補給することを勧める。

30分に一度は水分を補給しよう。写真はイメージ=(c)Sura Nualpradid-123rf

 水分補給用のドリンクとして佐藤さんがお勧めするのは、スポーツドリンクだ。スポーツドリンクには糖分が含まれているため「太りやすい」と避ける人もいるが、「糖分が入っているのは、そのほうが体内への水分の吸収率が高まるため」(佐藤さん)だ。ただし、糖の補給という意味では、スポーツドリンクだけでは足りない。エナジージェルや、バナナ、おにぎり、チョコレート、ようかんなど、しっかり糖の入った食品をとろう。

 多くの市民マラソン大会では、4~5キロメートルおきに給水所がある。飲み物に加えて、あんパンやバナナなどが用意されていることも多い。脱水やハンガーノックを防ぐため、給水所では必ず何か口に入れることを心がけてほしい。

塩分もとらないと脱水が進む

 さらに、ミネラルの補給も忘れてはいけない。

 「汗をかくことで大量のナトリウムが失われます。そのような状態で水だけを飲むと、血液中のナトリウム濃度が低くなることで利尿作用が起こり、結果的に血管内脱水が進んでしまうのです」と佐藤さんは注意する。

 発汗によって血液中のナトリウムが極端に減ると、吐き気や頭痛、さらに脳浮腫や心停止を起こすこともある。また、発汗によって筋肉の収縮に必要なナトリウム、カルシウム、マグネシウムが失われると、走っている途中に筋肉がつるリスクも高くなる。

フジッコは神戸マラソンで塩昆布をランナーに配布している(写真 フジッコ提供)

 ミネラルを補給する手段としては、塩分補給タブレットや塩あめなどが定番だが、佐藤さんが最近注目しているのは塩昆布だ。「発汗で失われる様々なミネラルが含まれているのが魅力。そのまま食べてもいいし、細かく切っておにぎりに混ぜてもいい」(佐藤さん)。いずれにしても、あらかじめウエストポーチなどに入れておき、水分や糖質と同じく「30分に一度」を目安に補給するといいだろう。

 海外で100マイル(161キロメートル)のマラソン大会に出場した376人を対象にした調査によると、完走者の6.6%が低ナトリウム血症を起こしていた。ナトリウムの血中濃度はナトリウムのサプリメントの摂取率と直接的な関係があったという(Med Sci Sports Exerc. 2015 Sep;47(9):1781-7.)。

現代の食生活はビタミンとミネラルが不足しがち

 マラソン大会に出ようと思ったら、大会の前後だけではなく、毎日の食生活にも注意しなければならない。

 現代人の食生活は、どうしてもビタミンやミネラルが不足しがち。特にダイエットをしている人は、食べる量を減らすことで、カロリーだけではなく、ビタミンやミネラルまで減らしてしまう人が多い。「それを補うため、最低限必要なビタミンとミネラルが入ったマルチビタミンミネラルのサプリメントを大会の前はもちろん、日ごろからとったほうがいい」と佐藤さんはアドバイスする。

 佐藤さんによると、運動で糖や脂肪を燃やすにはビタミンB群が必要だ。その中の一つ、ナイアシン(ビタミンB3)は、足りなくなると必須アミノ酸のトリプトファンからも作られる。しかしトリプトファンは脳に入りセロトニンやメラトニンの原料にもなる重要なアミノ酸。そのためナイアシンの摂取量が足りないと、トリプトファンが使われることで運動後に脳内のセロトニンやメラトニンの量が減り、メンタルの維持や睡眠にも悪影響が出てくる可能性もあるという。

 普段から健康的な食事と睡眠を心がけ、走っている途中もこまめに水分、糖、ミネラルを補給する。そして、「体調が悪いときは決して無理をしないこと」と佐藤さん。

 健康のために始めた運動で健康を損ねては本末転倒だろう。記録や達成感も重要だがまずは命を大切に、安全にマラソンを楽しんでほしい。

佐藤 務(さとう つとむ)さん
稲毛病院 整形外科・健康支援科部長
佐藤 務(さとう つとむ)さん 1991年、宮崎医科大学卒業。95年から稲毛病院整形外科で勤務。97年にビタミン栄養療法外来を、2000年に健康支援科を創設した。日本サプリメント評議会評議員。マラソン大会のサポートドクターも務める。著書に『心と体を強くする!サプリメント活用法』(日東書院)、『50代からのサプリメント・バイブル』(講談社)など。