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「わたしも、がんでした」

できるだけ誰かのために

本人編 悩んでいるのは自分だけじゃない(8)

 杉浦 克昭(ピーコ)=ファッション評論家・シャンソン歌手・タレント

ピーコこと杉浦克昭さん。ファッション評論家、タレント、シャンソン歌手といくつもの「顔」を持ち、メディアで活躍するピーコさんは1989年、眼のがんにかかりました。当時44歳。まさに働き盛りのピーコさんの左目を襲ったのは、30万人にひとりという悪性腫瘍。ショービジネスの世界で最前線に立っていたピーコさんは、決断を迫られます。仕事とがん治療とをどう両立させるのか。自分の未来に「がん」が立ちふさがったとき、何が救いとなるのか。働き盛りのみなさんにこそ、読んでほしい。がんと向き合い、がんと共に生き、働き、がんと決別したピーコさんの言葉です。

 がんを体験することにより、おのずと価値観や考え方が変わることがあります。がん体験を前向きにとらえられれば、失うもの以上に得られるものも大きいはずです。
 ピーコさんは、がんを体験して、考え方が変わります。そして、自分が支えられたおかえしに、誰かのために少しでもできることをやっていこうと決意します。
 

 わたし自身は、がんを経験したことで、新しい出会い、新しい友人が増えました。それまで嫌いだったひとが、がんになったわたしを本気で心配してくれていることがわかって、なんだ、わたしが心を開いていなかっただけだったのか、ということに気がつかされることもありました。

 がん治療から還ってきたら、「一緒にいて気持ちがいい」って言ってもらえることが多くなったのにもびっくりしました。

 それは、がんをきっかけに、わたしの考えが変わり、そして同時に行動が変わったからだと思うんですね。がんにかかる前の私は、それは自分勝手で刹那的に生きていました。気持ちよければいい。楽しければいい。欲しいものがすぐ手に入ればいい。でも、がんにかかって、がんから還ってきて、ふと気がついたら、まず物欲のようなものがきれいさっぱりなくなっていた。それから、ひとを許せるようになった。怒らなくなった。寛容になった。

 なんだかかつての自分とは正反対。なぜだろう。いろいろな理由はあるけれど、がんの経験を通して、自分がいかにたくさんのひとに支えられているのか、すごく思い知ったというのが大きいんだと思います。

 だったら、自分も誰かにかえしてあげなくっちゃ。そんな気持ちがある。少しでいいから、自分が受けた恩を、別の形でかえしてあげたい。永六輔さんをはじめ、わたしは仕事の上でも、ずいぶんと年上のひとたちに助けられ、ひっぱりあげられてきました。がんになってわかったのは、仕事だけじゃなく、人生においても、いろいろなひとが助けてくれていたんだなあ、ということ。じゃあ、わたしになにができるんだろう。

 術後5年が経過して、転移の心配がほぼなくなったとき。佐伯先生は、わたしにこう言ってくださいました。

 「医療関係者や患者さんたちの集まり、そういうところで、もしあなたのがん体験を話すよう、お願いされたら、ぜひ引き受けてください。あなたの言葉が救いになるひとがたくさんいるはずですから。お願いします」

 自分ではわからないけれど、佐伯先生がそうおっしゃるんだから、少しは役に立つのかもしれない。だから今でもわたしは、機会をいただければ、こうして自分の経験をお話ししています。

マイノリティーの方たちの力になりたい

 もともとわたしはオカマでしょ? だからマイノリティーの立場というのには共感できました。病人も含めて、社会的な弱者、マイノリティーの方たちの力になれることは、なるべくお手伝いしたい、という思いも、自分ががんになったらはっきり自覚できるようになりました。

 阪神淡路大震災を機に発足し、災害時の障害者支援を目的とした「ゆめ風基金」のお手伝い。こちらはもう18年間続けています。東日本大震災でも、友人がいる縁で釜石市や福島市のひとたちのお手伝いを続けています。

 小さな力にしかなれないかもしれない。でも、小さな行動ひとつでひとりでも救いになるきっかけをわたせるのであれば、可能な限り、からだを動かして、こうしたお手伝いは続けていきたいですね。

国立がん研究センターがん対策情報センター編
『わたしも、がんでした。 がんと共に生きるための処方箋』 (日経BP社、2013年9月発行)より転載。


杉浦 克昭(ピーコ)さん
ファッション評論家・シャンソン歌手・タレント
杉浦 克昭(ピーコ)さん 文化服装学院研専卒業後、1980年おすぎとともに《おすぎとピーコ》としてTBS「久米宏の土曜ワイドラジオTOKYO」に出演し、デビュー。44歳で30万人にひとりという悪性腫瘍で左目を摘出する。がんをきっかけにシャンソンを始め、2004年1月にはシャンソン歌手としてCDデビューを果たす。ファッション・ジャーナリストとして服飾評論はもとより、さまざまな分野に活動の場を広げている。

『わたしも、がんでした。 がんと共に生きるための処方箋』
(国立がん研究センターがん対策情報センター編、日経BP社)好評販売中

 医学の進歩によって、「がん=迫りくる死」ではなくなっています。実はかなり多くの人が、がんと共に社会で暮らしています。しかし、がんと共に生きることや働くことは、日本社会ではまだまだ普通のことと思われていません。がんと共に生きるとは、働くとは実際にはどういうことなのか。それを知っていただくために、本書ではがんに関わる当事者の方々に語っていただきました。──「はじめに」より

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