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「わたしも、がんでした」

ひとりで生きているわけじゃない

本人編 悩んでいるのは自分だけじゃない(6)

 杉浦 克昭(ピーコ)=ファッション評論家・シャンソン歌手・タレント

ピーコこと杉浦克昭さん。ファッション評論家、タレント、シャンソン歌手といくつもの「顔」を持ち、メディアで活躍するピーコさんは1989年、眼のがんにかかりました。当時44歳。まさに働き盛りのピーコさんの左目を襲ったのは、30万人にひとりという悪性腫瘍。ショービジネスの世界で最前線に立っていたピーコさんは、決断を迫られます。仕事とがん治療とをどう両立させるのか。自分の未来に「がん」が立ちふさがったとき、何が救いとなるのか。働き盛りのみなさんにこそ、読んでほしい。がんと向き合い、がんと共に生き、働き、がんと決別したピーコさんの言葉です。

 がんがこれだけ身近な疾患になっても、まだ自分とは関係ないと思っているひとが多いのも事実です。がん患者はもう特別な存在ではなく、「普通」にいるのです。そしてがんにかかることで、周りのひとたちのありがたみにあらためて気づかされます。
 退院後も、抗がん剤の副作用などピーコさんは次々とつらい思いをします。しかし、友人に助けられ、自分が大勢に支えられていると気づきます。
 

 手術は終わりました。がんからはどうやら逃れられました。

 術後には念のために抗がん剤治療を行います。退院後の8月の終わりに治療を受けたときは、血管が腫れてちょっと痛かった以外は特になんの副作用もなかったんです。ところが、9月の終わり、突然、髪の毛が抜け始めました。枕元に髪の毛がたくさん落ちている。櫛(くし)を通すと、力なく髪の毛が残る。残る毛もどんどん細っていく。毎朝、鏡と向き合うのが怖くなりました。髪の抜けた顔がまるでオランウータンみたいだから。その上、手もしびれている。

 退院して2週間で仕事に復帰して、テレビの出演から講演会までめじろ押しでした。いまさら、引っ込むわけにはいかない。だから人前やカメラの前に出るたびに、少ない髪をヘアメイクでふくらましてもらっていました。悲しかった。おかしな話ですけど、がんを宣告されたとき以上に悲しかった。

 ああ、このまま、ひとにも会いたくなくなるような容姿になってしまうのかしら、と毎日毎日ふさぎ込んでいました。いっそのこと死にたい…、と一瞬思ったりもしました。

 では、どうやってこの悲しみに対峙(たいじ)していたかというと、すごく悲しい映画を見たり、すごく悲しい本を読んだり、すごく悲しい歌を聞いたり。そう、ショック療法のように、自然と悲しみに徹底的にひたることにしたんです。なぜかそのほうが落ち着けた。

 でも、ある日、抗がん剤の副作用が消えたんでしょうね、髪の毛が再び生えてきました。そのときのうれしさといったら! ちょうど12月のクリスマスの頃でした。

わたしのことを気に掛けてくれる人たちがいる

 心の痛みは、髪が生えてきて収まりましたけれど、収まらなかったのはお金の痛みです。

 その痛みをもたらしたのは義眼でした。義眼ってとっても値が張るんです。作るまで相場を知りませんでした。しかも、どんどん作り替えなければいけない。眼球を摘出したあとの傷が治癒していく過程で眼窩(がんか)の形がどんどん変わるからです。最初のうちは年に20個くらいの義眼を次々とつけかえる必要がある。そんな義眼ひとつ作るのに30万円くらいかかります。保険はまったくききません。20個も作ったら、高級車が買えるくらいの出費です。ほんとうに大きな出費でした。

 幸いなことに、永六輔さんや石井好子さん、淀川長治さん、黒柳徹子さんらが中心になって、わたしに義眼をプレゼントしようという会を結成し、一口一万円で300人もの方が寄付してくださいました。寄付してくださった方々のリストを見てびっくりしました。わたしがそれまで表面には出さなかったけれど嫌っていたひとまでもがお金を出してくれていたのです。

国立がん研究センターがん対策情報センター編
『わたしも、がんでした。 がんと共に生きるための処方箋』 (日経BP社、2013年9月発行)より転載。


杉浦 克昭(ピーコ)さん
ファッション評論家・シャンソン歌手・タレント
杉浦 克昭(ピーコ)さん 文化服装学院研専卒業後、1980年おすぎとともに《おすぎとピーコ》としてTBS「久米宏の土曜ワイドラジオTOKYO」に出演し、デビュー。44歳で30万人にひとりという悪性腫瘍で左目を摘出する。がんをきっかけにシャンソンを始め、2004年1月にはシャンソン歌手としてCDデビューを果たす。ファッション・ジャーナリストとして服飾評論はもとより、さまざまな分野に活動の場を広げている。

『わたしも、がんでした。 がんと共に生きるための処方箋』
(国立がん研究センターがん対策情報センター編、日経BP社)好評販売中

 医学の進歩によって、「がん=迫りくる死」ではなくなっています。実はかなり多くの人が、がんと共に社会で暮らしています。しかし、がんと共に生きることや働くことは、日本社会ではまだまだ普通のことと思われていません。がんと共に生きるとは、働くとは実際にはどういうことなのか。それを知っていただくために、本書ではがんに関わる当事者の方々に語っていただきました。──「はじめに」より

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