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「わたしも、がんでした」

社会のしくみが必要

病院編 がんと共に生きる、働く時代がやってきます(10)

 堀田 知光=国立がん研究センター理事長

「がんになった=仕事も、人生ももうおしまい」という時代は終わりました。いま、日本では、働きながら治療をするサポートシステムが整えられようとしています。がんと共に生き、働く時代。それを家族、医療のプロ、職場、地域社会など周囲の人みんなが支える時代がやってくるのです。

 そんな時代にがんになったら、本人は、家族は、周囲は、どう考えどう行動すればいいのでしょうか。まず、がん治療と研究に長年携わってきた立場から、現在おすすめできる具体的な対処法を説明します。

 また、がんになっても生きやすい社会にしていくためには、これから何が必要なのでしょうか。いま、私たちが取り組んでいることを紹介しましょう。

がんになっても生きやすい社会をみんなで作っていきましょう

 ひとりひとりの人生の大切さを尊重し、QOLを考慮するようになったといっても、医療全体では、まだまだその面のサポートは、不十分です。がん研究センターでも、正直に申し上げれば、これまでその部分にはあまり力を注いではきませんでした。私は2012年に理事長に就任してすぐにそのことを自覚し、改革に取り組み始めました。

 そのひとつとして実現したのが2013年4月に行った組織改革です。がん対策情報センターの中に、がんサバイバーシップ支援研究部とがん政策科学研究部という、社会医学的な研究をする部署を設置しました。サバイバーシップとは、がんの経験者、家族、医療関係者など、がんと向き合う人々が共にがんとつきあいながら、その人なりの人生を大切にして生活したり、それを支えていくことです。サバイバーシップを名称に持つ研究機関は、日本でははじめての存在です。

 がん患者さんの抱える経済問題や就労問題の解決を目指すといっても、がん研究センターで個別に就職をあっせんしたりするわけにはいきません。しかし、どこにどんなサポートを受けられるしくみがあるか、どんな専門家に相談すればいいかを紹介することはできます。また、社会の中にサポートするためのどんなしくみを作ればいいか考えて、それが実現するように働きかけていくこともできます。がん研究センターの役割は、がん患者さんをサポートするためのさまざまな社会的問題を明確にして、その解決策を見つけ、広めていくことだと思います。日本全体のがん対策のレベルを向上させるために、私たちはこのようなことに積極的に取り組んでいくつもりです。

がんが元になるあらゆる苦痛から人々を解放したい

 そうやって少子高齢化時代のがん治療をうまく乗り切れば、そのノウハウを成功モデルとして世界に輸出できるかもしれません。私たちの究極の目標は、がんの苦痛から世界の人々を解放することです。病気だけではなく、社会的な意味も含めて、がんが元になるあらゆる苦痛から人々を解放する。それが私たちの究極のビジョンです。

 例えば医療面でも、いろいろできることがあると思います。職場復帰をしやすくするには、投薬の方法や通院・入院のタイミングを、もっと工夫したほうがいいでしょう。夜間や週末に通院で化学療法を受けられれば、働きながら治療を受けやすくなります。

 身体に負担が少なくて、しかも治療効果の高い治療法を開発することも必要です。

 外見をよく見せるためのアドバイスもできます。治療や病気のために毛髪が抜けたり皮膚が変色したりすると、どうしても周りの目を気にして、外出しにくくなります。そこで、私たちは2013年4月から中央病院にアピアランス支援センターを設置しました。なるべく見た目をよくするお手伝いをして、引け目を感じずに外出したり職場に行けるようにサポートしていきます。

 その他にも、産業医と連携して、手順を踏んで重病でも無理なく職場に復帰していくプログラムを考えたり、患者さん自身のセルフマネジメントをサポートするプログラムを充実させたりしていきたいと思います。

 このように、がんと共に生きるために、がんになっても社会の中で生きやすいしくみを作っていくつもりです。

 ただ、ひとつだけ絶対に誤解していただきたくないことがあります。がんと共に生きるのは、がんを治すのをあきらめたからではありません。どうやって治療するか、そもそもがんにならないようにするにはどうするかといったことにも、せいいっぱい力を注いでいきます。

みんなで支え合う社会へ

 これから高齢化はますます進み、働いて社会を支える人材は貴重になります。ときどき通院のために休むくらいで十分に働ける人が仕事に就けないでいるのは、当人だけではなく、社会にとって大きな損失です。社会を支えるという意味では、同じ体験をした者として相談相手になるピアサポートのように支える側に入ることができます。人間を一方的に受け取る側か提供する側かに切り分けず、そのときどきの能力や条件に応じて提供し合うほうが、社会全体として得策ではないでしょうか。

 病気になってもみんなと一緒に暮らせる社会は、健康な人にとっても、生きやすいはずです。いまは健康な人も、いずれは歳を取り、2人に1人はがんになります。弱者を隔離して排除するのではなく、多様性を認めながら、支え合って一緒に暮らせる社会。それこそが、持続可能で成熟した社会だと思います。そういう社会を共に目指していきましょう。

国立がん研究センターがん対策情報センター編
『わたしも、がんでした。 がんと共に生きるための処方箋』 (日経BP社、2013年9月発行)より転載


堀田 知光(ほった ともみつ)さん
国立がん研究センター理事長
堀田 知光(ほった ともみつ)さん 1969年名古屋大学医学部卒業。独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター院長などを歴任後、2012年より現職。厚生労働省「未承認薬使用問題検討会」座長ほかさまざまな政府委員も務め、ドラッグラグ解消やがん登録推進などの課題にも積極的に取り組んでいる。

『わたしも、がんでした。 がんと共に生きるための処方箋』
(国立がん研究センターがん対策情報センター編、日経BP社)好評販売中

 医学の進歩によって、「がん=迫りくる死」ではなくなっています。実はかなり多くの人が、がんと共に社会で暮らしています。しかし、がんと共に生きることや働くことは、日本社会ではまだまだ普通のことと思われていません。がんと共に生きるとは、働くとは実際にはどういうことなのか。それを知っていただくために、本書ではがんに関わる当事者の方々に語っていただきました。──「はじめに」より

>>詳しくはこちら(Amazonのページにジャンプします)

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