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働くオンナの保健室

ストレッチと抗炎症薬で直す 四十肩・五十肩

イライラ、うつうつや更年期不調が背景にある人も

 

なんとなく肩が痛いと思ううちに痛みがだんだん強くなり、やがて肩全体が硬くなって、腕が十分に動かせなくなる「四十肩・五十肩」。自然に治る病気ではありますが、放置すると数年にわたって症状が続くことも珍しくありません。早く治すには肩の状態に合った治療やケアをすること。そのポイントを紹介します。

【四十肩・五十肩のメカニズム】
関節包に炎症。痛みがだんだん強まり肩が上げにくくなる

図1◎ 四十肩・五十肩とは「関節包」に炎症が起き、関節の動きが悪くなった状態
肩関節は、肩甲骨の浅いくぼみに上腕骨がはまる形になっている。四十肩・五十肩では、肩関節を包む袋状の組織である関節包に炎症が起き、肥厚・線維化して硬くなっている。
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 「四十肩・五十肩」は、骨や筋肉などにケガや構造上の異常がないにもかかわらず、肩が痛んで、肩関節の可動域、つまり動かせる範囲が狭まった状態だ。

 江戸時代から報告があり、「女性の場合、髪を結ったり帯を結んだりすることができなくなる病気として知られた」と日本医科大学千葉北総病院整形外科の橋口宏部長は話す。

 原因はいまだ不明だが、「女性の場合、ヒステリーが背景にある人がいる」と橋口部長。ヒステリーというと、怒りを爆発させる場面を思い浮かべるかもしれないが、この場合はむしろ逆。抑え込んだ怒りや不満が体の痛みとして表現されたもの。本人は落ち込んでいて笑顔がないという。また、冷えやほてりなどの更年期不調を併せ持つ女性も少なくないようだ。

 基本的には自然に治る良性の病気だが「放置すると数年にわたり症状が続くリスクがある。肩が痛むほかの病気と区別するためにも、まずは整形外科を受診して」と橋口部長は薦める。

 症状は通常、肩の痛みから始まる。「後ろの物や高いところの物を取ろうとして肩を大きく動かしたとき、痛みに気づく人が多い。そのうち徐々に痛みが強くなり、じっとしていても痛い、夜、痛みで目が覚めるという状態になる」と東北大学病院リハビリテーション部の理学療法士、村木孝行さんは話す。

 痛みは肩関節を包む袋状の組織である関節包の炎症が引き起こすと考えられている。炎症はやがて治まるが、関節包は線維化して厚くなり、柔軟性を失う。その結果、肩関節が硬くなり(拘縮:こうしゅく)、すべての方向への可動域が狭まる。「視界の範囲には、たいてい手が届くので生活はそれほど困らないが、腕は頭の上まで挙げられなくなり、体の外側や背中側にも回せなくなる」と橋口部長。

四十肩・五十肩が治るまで
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 早く治すコツは、炎症をできるだけ早く鎮める、拘縮をストレッチで改善する―という2つ。「セルフケアをしっかりやれば、数カ月で良くなることが多い」(橋口部長)。治れば、同じ側に再発することはまずないという。

以下に当てはまる場合、四十肩・五十肩かも
四十肩・五十肩は、急に起こってきた肩の痛みと、肩関節を動かせる範囲がすべての方向で狭まるのが特徴。左右いずれかの肩に生じ、両側に起きることはまずない。症状の持続期間は数カ月から数年と個人差が大きい。
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こんな人は四十肩・五十肩のリスクが高い!
  • デスクワーク中心の仕事だ
  • 糖尿病、脂質異常症、甲状腺の病気がある

 デスクワークの職業の人に多く、肉体労働の人にはまれ。糖尿病や甲状腺の病気、脂質異常症もリスクになるが、これらの病気があって起きた肩の症状は「二次性の肩関節周囲炎」とされ、通常の四十肩・五十肩とは区別される。

30代なのに肩が痛い?
それは肩関節がゆるいせいでずれた「弛緩肩(しかんかた)」です
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 四十肩・五十肩にはまだ早い30代で肩が痛くなったら「弛緩肩(しかんかた)」の可能性がある。「もともと関節に軟らかさ、ゆるさがあるために、物を持った拍子などに肩関節が前後にずれ、肩が抜けたような感じになって痛む」と橋口部長。四十肩・五十肩と思い込み、抗炎症薬を飲んでも治らず発見される場合が多いという。

 「弛緩肩」には、例えば右のような腕を上下に動かして肩甲骨を動かす運動が指導される。「ゆるい肩の人は普段あまり肩甲骨を使っていない。それが動かせるようになると、すぐに肩関節のストレスが減って痛みがなくなる。はずれにくくなる効果も」と村木さん。腕はある程度挙がるのに肩が痛いという人は「弛緩肩」の可能性があるので、整形外科へ。

【炎症期の治療】
痛みが強い「炎症期」は抗炎症薬の服用か注射を。漢方薬もよく効く

 治療は「炎症期」と「拘縮期」で異なる。「痛みの強い炎症期は、薬で痛みを緩和することが重要。そうすれば肩を動かしやすくなる」と橋口部長。

 痛みを鎮める薬はたくさんある。一般にまず用いられるのは、非ステロイド性消炎鎮痛薬と筋弛緩薬の飲み薬を併用する方法だ。さらに消炎鎮痛効果のある外用薬が加わることも。

抗炎症薬(ステロイド)は痛みによる機能低下に、運動は可動域の改善に効く
肩の痛みが4週間から6カ月続く78人を、「ステロイド薬注射+運動療法を行う群」「ステロイド薬注射のみ群」「運動のみ群」「偽薬を注射する群(何もしない群)」の4つに分けた。6週間後、肩の痛みによる障害度の低下にはステロイド薬、肩関節の可動域改善には運動が効くことが分かった。(データ:Rheumatology;44,529-535,2005)
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 「痛みが強い人には、最初から患部にステロイド薬を注射することもある」と橋口部長。

 夜間痛で眠れない人には催眠鎮静薬筋緊張や不安が強い人には筋弛緩作用を持つ抗不安薬なども用いられる。これらの薬で効果が得られない場合は、脳に作用して痛みを緩和するアセトアミノフェンと麻薬成分のトラマドールを配合した疼痛治療薬も選択肢になるという。

 女性の場合、漢方薬も選択肢の1つだ。「いくつもの生薬からできているので、1つの薬で色々な症状に対応できる。鎮痛薬を飲むと胃腸障害が出る人や、冷え、むくみ、肩こりなどの不定愁訴を同時に持っている人には特にお薦め」と橋口部長。体の状態に合った薬を選ぶと、切れ味よく効くという。

 代表的な薬は二朮湯(にじゅつとう)だ。6カ月以上痛みが続いた患者13人に二朮湯を飲んでもらった研究では、全員の痛みが改善した。研究を行った愛知医科大学医学部学際的痛みセンターの新井健一准教授は「保険適用で処方できるので、担当医に処方をリクエストしてみて」と薦める。

四十肩・五十肩に効く主な漢方薬

 代表的な漢方薬は4つ。症状と体質に合わせて処方される。いずれも健康保険が適用される。

  • 麻杏よく甘湯(まきょうよくかんとう)

     余分な水分を取り除くヨクイニン、発汗作用をもつマオウなどからなる薬。比較的体力のある人の炎症期から拘縮期に用いられる。

  • 芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)

     こむらがえりの特効薬として知られる。四十肩・五十肩では特に夜間痛の緩和を目的に、就寝前だけ飲むよう指示されることが多い。

  • 二朮湯(にじゅつとう)

     効能はずばり「五十肩」。体を温め水分代謝を向上させて痛みを改善する。寒冷刺激で痛みがひどくなる、ぽっちゃりタイプに合う。

  • 桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)

     鎮痛作用と体を温める作用が高い薬。比較的体力のない冷え性の人に処方されることが多い。胃腸虚弱で鎮痛薬が飲めない人にも。

 一方、運動療法はこの時期、まだ早い。「強めのストレッチを行うと、逆に痛みが強くなる」(村木さん)からだ。むしろ痛みが出ない範囲で、筋肉をしっかり動かしながら日常生活の動きを行うことが重要という。

 肩まわりをゆるめるマッサージも行おう。「炎症期は痛みに対する無意識の防御反応として、肩や背中の筋肉が緊張する。そのせいで肩全体がカチカチに凝って痛んでくるが、それを緩和できる」と村木さん。

 肩の付け根から胸に広がる大胸筋肩甲骨を動かす背中の筋肉肩から上腕に伸びる筋肉がそのターゲット。背中はボールのついた肩たたきなどでもんでもいいが、それ以外はその部位の力が抜けるように優しくさするか、軽く圧そう。

肩まわりの筋緊張をほぐすセルフマッサージ

 温まると筋緊張がゆるんで楽になるので、マッサージはできるだけお風呂で行おう。力を入れてもむと逆に筋緊張が高まるので、力が抜けるように優しく行うのがポイントだ。

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【拘縮期の治療&セルフケア】
痛みが治まってきた「拘縮期」は徐々に関節包を伸ばして早く治す

 夜に痛みが出ることがあったとしても、何もしていないときはほとんど痛まない、腕をいっぱいに伸ばしたときだけ痛いという状態になったら、「拘縮期」に入ったサインととらえ、ストレッチを始めよう。

 ストレッチは硬くなった関節包を徐々に伸ばし、肩の動きを改善するための治療だ。医療機関に通院している場合も、3~6カ月を目安に継続して行うよう指導される。

 「筋肉はゴムのように伸びやすいが、関節包はいわば綿布のように伸縮が少ない。そのため、1回のストレッチで伸びるのは関節の角度で1~2度ほどだが、続けることで徐々に効果が出てくる」と村木さん。

 村木さんが薦めるストレッチは、上腕を内側にねじる「内旋」、外側にねじる「外旋」、腕を上げる「挙上」の3つ

 内旋は関節包の後ろ側を伸ばし、外旋は前側全体、挙上は下側を伸ばす。そのため、3種類すべてを行えば、可動域の制限が出ているほぼ全方向をカバーできる。

 実際に行う際は、内旋→外旋→挙上の順で、力を抜いてリラックスした状態で行う。

 腕が下がった状態からいきなり挙上すると、ある角度で痛みや引っかかりを感じ、それ以上腕が上がらないインピンジメントと呼ばれる現象が起こることがある。しかし、あおむけになり、ひじにクッションを当てて高くし、肩甲骨を30~45度挙げた状態で、まず内旋と外旋を行えば、関節包が下のほうまでぴんと伸びるので、腕が挙げやすくなるという。

 「挙上したとき、骨と骨がぶつかって痛みが出た場合はうまくストレッチできていないサイン。この場合は無理せず、リラックスしてできる範囲でやってほしい」と村木さん。

 お風呂上がりや寝る前にベッドで、3種類を各3~5回を目安に始め、伸ばす強度を徐々に上げていこう。余裕のある人は朝・昼・晩と3回やってもいい。ただし、翌日痛みを引きずらない程度にとどめて。痛みを引きずるようなら、治まるまでいったん中止しよう。

肩関節の3方向ストレッチ

 いずれも、伸ばしたところで20秒キープ。ゆっくり元に戻して3~5回繰り返す。

  • 上腕を内側にねじる 内旋

     患側(痛くなったほう)のひじをクッションで少し高くし、わきを30~45度開いた状態で手首を持ち、腕をお腹に押しつけていく。

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  • 上腕を外側にねじる 外旋

     「内旋」と同様にクッションを使う。自力では外側に開けないので、傘など棒状の物を使い、健康な側の力を使い患側の腕を外側に回旋する。

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  • 腕を挙げる 挙上

     健康な手で患側の手首を持ち、持ち上げるように伸ばしていく。肩甲骨の先から上腕にかけて骨がぶつかる痛みが出たら無理をしない。

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(取材・文:小林真美子/イラスト:いいあい、三弓素青/写真:佐々木俊/モデル:津山祐子)

(出典:日経ヘルス2015年9月号/記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)