日経グッデイ

おとなのカラダゼミナール

風邪で熱が高いのに、ぞくぞく震えるのはなぜ?

震えは命を守る体の最終手段だった

 佐田節子=ライター

聞きたかったけど、聞けなかった…。知ってるようで、知らなかった…。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。

震えで体温を上げ、病原体から身を守る。(©Brett Lamb-123rf)

 背中の辺りがぞくぞくして、「あ、風邪かな」と思っていたら、みるみる熱が上がり、体もガタガタ震えてきた…。風邪やインフルエンザにかかって、こんな経験をしたことのある人も多いだろう。風邪に寒気や発熱はつきものだが、この現象、なんだか不思議だと思わないだろうか。

 本来、体がふるえるのは、寒いから。それなのに風邪やインフルエンザのときは、発熱して体温が高くなっているのに体が震える。“熱い”と“震える”が同居しているのだ。これはどういうことなのか。

 「筋肉を震わせることで熱を作り、体温を上げているのです。そもそも風邪やインフルエンザにかかって熱が出るのは、体内に侵入してきた病原体を増殖させないようにする生体の防御反応。体温が平熱に近い37度くらいだと病原体が増殖しやすいのですが、それよりも2度ほど上がると増殖速度が低下します。また、病原体を攻撃する免疫細胞の中には、体温が上がることでより活発に働くようになるものもあります」。そう話すのは、京都大学生命科学系キャリアパス形成ユニット准教授の中村和弘氏だ。

 中村氏によると、体温を上げる仕組み(熱産生)には大きく3段階あり、震えによる熱産生は“最終手段”なのだという。たとえば風邪を引いたとき、第1に起こる反応は「熱を逃がさない」こと。体の中で熱を運んでいるのは血液なので、まずは皮膚のすぐ下の血管を収縮させて、血流を低下させる。いわば、体をエコモードに切り替えて、熱が放散するのを防ぐわけだ。

風邪の発熱の程度と震えの関係
症状悪寒微熱高熱
・寒気を感じる
・顔色が悪くなる
・熱っぽい
・明らかに寒いと感じる
・ガタガタ震える
・高熱でとにかくつらい
体温37度前後37~38度程度38度以上
体内で起こっていること皮膚血管を収縮させ、血流を低下させて、体温の低下を防ぐ褐色脂肪を燃焼させて、体温を上げる骨格筋をブルブルと震わせて、さらに体温を上げる

 こうなると皮膚の血流が少なくなるため、顔が青白くなり、寒気を感じるようになる。風邪の引き初めの「なんだか背中の辺りが寒い」という段階だ。「普段は寒いとは感じないような温度でも、寒いと感じるようになります。なぜそうなるのかメカニズムはまだわかっていませんが、寒いと感じさせることで『体を温めよう』という行動を促し、体温を上げようとしているのだと考えられます」(中村氏)。

 この第1の方法でも十分に体温を上げられないとなると、体は次なる手に打って出る。体内にある脂肪を燃やして熱を作ろうとするのだ。脂肪といっても、肥満の原因になる脂肪(白色脂肪組織)ではなく、熱を作り出す働きのある「褐色脂肪組織」がその対象となる。「子供の頃は褐色脂肪組織が多いので、冬でも薄着で平気だったり、風邪を引くとすぐに高熱が出たりします。ただ、この褐色脂肪組織は年齢とともに減少し、熱を作る能力も低下します。年を取ると風邪を引いても子供の頃のように高熱にならないのはそのためです」と中村氏は話す。

震えにより行動を犠牲にして体温を上げる

 さて、この第2段階でもまだ体温上昇が不十分と見なすと、体はいよいよ最終段階の「震えによる熱産生」へと入る。第1段階である皮膚血管の収縮と、第2段階の褐色脂肪組織の燃焼は、自律神経の一つである交感神経によってコントロールされていたが、震えを起こすのは運動神経だ。まさに運動をするかのように、骨格筋をブルブルと震わせて、熱を作り出す。

 風邪の引き始めはぞくぞくする程度だった寒気が、がたがた震える状態にまでひどくなり、同時に熱がぐんぐん上がってくる。寒いのに、熱っぽい。「とにかくつらい」という風邪のクライマックスに突入する。体内では、体温上昇とともに、免疫細胞による病原体との死闘が繰り広げられている。

 震えは体温を上げる最後の手段だが、これは命を守る最終手段でもあると中村氏は言う。「震えは、運動神経と骨格筋を使って熱を作り出す行為です。これは別の言い方をすると、自分の行動を犠牲にしてでも、体温を上げようとしている状態。運動神経と骨格筋を震えに使っていますから、他の行動がとれない。手が震えてしまって、上手く字が書けないという経験は誰にでもあるでしょう。動物なら、天敵に狙われても逃げられない状態です。そんなリスクと引き換えに、震えによる熱産生を行っているのです」。

 たかが風邪と思いがちだが、風邪を引いてがたがた震えが止まらないような状態は、私たちが思っている以上に体にとっては危機的な状況と言える。そして、そこで命を守る仕事をしているのが、体の震えなのだ。なお、このような震えの仕組みをすべて取り仕切っているのは、脳にある体温調節の司令塔である。この働きについては次回で紹介しよう。

中村和弘(なかむら かずひろ)さん
京都大学生命科学系キャリアパス形成ユニット准教授
中村和弘(なかむら かずひろ)さん 1997年、京都大学薬学部卒業。2002年、同大学大学院薬学研究科博士後期課程修了。薬学博士。専門は生理学、神経科学、自律神経学。米国オレゴン健康科学大学博士研究員、京都大学生命科学系キャリアパス形成ユニット講師などを経て、2014年から現職。体温調節や感染性発熱、ストレス反応などの自律生理機能にかかわる脳内メカニズムの研究に携わる。寒冷時や発熱時の「ふるえ」がどのような脳神経回路の仕組みから生じるかを世界で初めて解明し、注目されている。