日経グッデイ

ビジネスパーソンに贈る 眠りの超スキル

暑苦しい寝床を快適空間に変える夏の快眠術

枕・マットの工夫で涼を取り、エアコン温度は高めに

 佐田節子=ライター

仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。

夏の快眠は頭・背中・部屋の温湿度調整がカギだ。(©Ferli Achirulli-123RF)

 夏本番。ただでさえ暑くて体力を消耗するのに、夜もぐっすり眠れないとなると、体はすぐにバテてしまう。寝苦しい熱帯夜でも、スーッと眠れる快眠術はないものか。快眠セラピストの三橋美穂さんに聞いてみた。

 眠りと深い関係にあるのが、脳や体の中心部の温度である「深部体温」だ。「深部体温が下がってくると眠気を感じ、睡眠中はさらに深部体温が低下して熟睡状態に入ります。ところが、夏の夜は高温多湿なので、汗が蒸発しにくく、深部体温が下がりにくい。このため、なかなか寝つけなかったり、睡眠が浅く途中で目が覚めたりすることが多くなります」と三橋さん。

 そこで重要なのが、深部体温をうまく下げるための工夫。三橋さんによると、ポイントは大きく3つあると言う。「頭」と「背中」と「部屋」の温湿度調整だ。

頭を“クール枕”で冷やし頭寒足熱に

 まずは頭から―。「頭寒足熱」という言葉があるように、頭は涼しく、足は温かくすると眠りやすくなることを示す実験結果があるという。

 「ある企業の実験では、頭と足元の温度差が4度のときに快適に眠れるという結果が出ています。足元がポカポカしてきて体熱放散が進み、深部体温が低下して、スーッと眠りに入っていけるわけです。通常、布団から出ているのは頭だけですから、自然と頭寒足熱の状態になりますが、夏の場合はそうもいきません。頭も足も布団の外に出ていて、同じように熱を帯びています。寝つきをよくするには、頭を涼しくすることで、足との温度差をつける工夫が必要です」(三橋さん)

 手軽にできるのは、枕にひと工夫することだ。例えば、通気性のよい昔ながらの「そば殻枕」を使ったり、枕用のクールジェルを活用したりするのもいいだろう。また、身近な材料で“クール枕“を作ることもできる。三橋さんが考案したのが、「冷やしアズキ枕」だ。

 「アズキ250gを布製の小袋に入れて、冷凍庫で冷やしておき、就寝時に取り出して、枕の中央部に置きます。そして、その上に後頭部を当てて寝る。ひんやりして火照りが和らぎ、気持ちいいですよ。保冷効果は20~30分続くので、スムーズな入眠の助けになります。イライラしたり、直前まで仕事をしたりしていて眠れないときも、熱を帯びた脳のクールダウンになります」と三橋さん。アズキはもともと枕の材料によく使われていた素材だという。小袋は100円ショップで売っているファスナー付きのメッシュ素材のもの(17cm×13cm程度)でOKだ。

首を温めリラックスモードに

 これに加え、「首温め」もお薦めだ。「首の後ろをホットタオルやホットパックで温めると、自律神経がお休みモードの副交感神経に切り替わり、手足の血行もよくなってリラックスできます。頭は冷やし、首は温める。これを同時に行うと、首が冷えて凝ることもなく、気持ちよく眠りに入っていけます」(三橋さん)。

 ホットタオルは、濡らしたハンドタオルを電子レンジで20~40秒ほど温め、ポリ袋に入れたらでき上がり。もちろん、市販のホットパックを使ってもいい。

 三橋さんがこのような手作り快眠グッズを考案するようになったのは、2011年の東日本大震災がきっかけ。電力不足のなか、できるだけエアコンなどの家電製品を使わずに快眠できる方法はないか―。そんな相談を受け、身近な素材を使った快眠法を考え出したのだという。

蒸し暑い寝床を快適にするシーグラスマット

 次は、「背中」の温湿度調整だ。

 「夏は背中と敷き布団が密着することで温度と湿度が上がり、寝床の中の湿度が80%を超えることもあります。その不快な蒸し暑さが、中途覚醒の原因にもなります。背中を蒸らさないことが、夏の快眠の条件」と三橋さん。

 寝床の中の温度や湿度は「寝床(しんしょう)内気候」と呼ばれる。蒸し暑い夏は汗をたくさんかく。その汗が寝床の湿度を上げ、蒸し風呂のような暑さをもたらす。寝床内気候を調整するには、寝具の工夫が欠かせない。

 まずはお金を使わずにできる対策をお伝えしよう。今使っているシーツにちょっと工夫をするだけで、背中の蒸れを防ぐことが可能だ。三橋さんが考案したのが、“背中段ボール”だ。やり方は至って簡単。A3程度の大きさの段ボールを背中に当たるようにシーツの下に敷くだけだ。

 「ダンボールは硬いので、背中が敷き布団にペタッと密着せず、通気性を確保できます。ただし、体重が重いと、あまり効果はないかもしれませんが」と三橋さん。段ボールは、腰の上から肩甲骨のあたりに当たるように敷く。人によってはゴワゴワ感が気になるかもしれないが、まずは試してみよう。

 ただし、何度か使ううちに段ボールがへたってくる。そこで、段ボールよりもさらにいいのが、水草を織って作った「シーグラスマット」だという。バスマットなどによく使われるものだ。これを同様にシーツの下に敷く。「100円ショップでも売っていますよ」(三橋さん)。

 加えて、冷感素材のシーツや敷きパッド、イグサの寝ゴザ、竹シーツなど、最近は涼しい寝具がいろいろ出回っているから、それらを利用すればさらに快適だという。ただし、「敷きパッドは、表面は麻などの涼しい素材でできていても、中綿にポリエステル素材が使われているものがある」(三橋さん)。これだと熱がこもりやすいので、購入の際は気をつけたい。

「抱き枕」で横向きに寝て通気を確保

 背中を涼しく保つには、「抱き枕」もお薦めだ。横向きになるので、背中が大きく開放され、通気がよくなる。「脇や股のあたりにも隙間ができるので、涼しく感じられます。また普通、横向きで寝る時は体の下側に圧力が集中しますが、抱き枕を使うと、腕や足などの体圧が枕に分散され、ラクに寝られます」と三橋さん。

 もともと抱き枕は、夏の涼をとるために工夫されたもので、東南アジアの竹製のものが起源と言われる。まさに夏こそ抱き枕、というわけだ。

 これも家にあるもので代用が可能だという。薄めの布団や冬用の敷きパッドを、二つ折りにしてからくるくる丸め、10cm程度の厚みになるようにして、3か所ほど紐で縛れば、“即席抱き枕”が完成。冬用の敷きパッドを使う場合は、フワフワした温かい側を内側にする。いつも使っている枕はそのまま使い、それに加えて抱き枕を使うといい。

抱き枕を使うと横向きになって通気がよくなる
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写真提供:ロフテー(製品名:ボディピロー)

エアコンの温度は就寝の前と後で変える

 最後は、「部屋」の温湿度調整だ。「エアコンをうまく使って、眠りやすい環境を作りましょう。前述の頭や背中を涼しくする工夫をしておけば、エアコンの設定温度をそれほど下げずにすむはずです」(三橋さん)。

 エアコンは、「寝る前」「寝る時」の2段階で使い方を変える。まずは寝る1時間ほど前に、25℃程度のかなり低い設定で部屋を十分に冷やしておく。日中の暑さで、寝室の壁などには熱がこもっている。この熱をしっかり取り除いておくためだ。

 そして就寝時には、少し汗ばむが目覚めない程度の温度(26~29℃くらい)に。タイマーを1~3時間設定しておいてもいい。「熱帯夜なら、28度程度の高めの温度で一晩中つけ続けた方が途中で目覚めず、熟睡できます」と三橋さん。

 扇風機もぜひ活用したい。体に直接風が当たらないよう、天井や壁に向けて回すのがコツだ。部屋全体の空気を緩やかに動かすことで、小さな気流が生じる。この小さな風が皮膚の上を通るときに、汗を蒸発させ、熱を奪い取ってくれる。「うちわであおぐ程度の微風で十分。リズム風などの設定にすると、より自然な状態に近くなります」(三橋さん)。扇風機との両刀使いで、エアコンの設定温度も高めにできる。

 なお、夏は夫婦で“エアコン・バトル”が生じやすい。男性は暑がりなので設定温度を低くしたいが、それでは女性にとっては寒くなる。「つけて」「消して」のバトルが始まる。どうしたらいいのか。

 「暑いと眠れないですが、寒い場合は寝具やパジャマなどで調整ができます。だから、これは暑がりの人に合わせるしかないですね。いっそのこと、夏の間だけ、別々の部屋で寝るという手もありますよ」と三橋さんはアドバイスする。

 暑い夏も工夫次第でぐっすり眠ることは可能。早速、今晩から快眠テクを役立ててほしい。

快眠セラピスト・睡眠環境プランナー
三橋美穂(みはし みほ)さん
快眠セラピスト・睡眠環境プランナー 寝具メーカーの研究開発部長を経て、2003年に独立。睡眠に関わる講演や執筆、コンサルティング、快眠グッズのプロデュースなどに携わる。1万人の枕のフィッティング経験を持つ。睡眠の実践的なアドバイスと手軽にできる快眠メソッドに定評がある。日本睡眠学会正会員、日本睡眠環境学会正会員、一般社団法人日本睡眠教育機構「睡眠健康指導士上級」。近著に『驚くほど眠りの質がよくなる睡眠メソッド100』(かんき出版)がある。
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