日経グッデイ

左党の一分

「飲む前に飲む」切り札! 漢方薬の効果

酒飲みにおなじみ「五苓散」「黄連解毒湯」はどう使えばいい?

 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト

酒席の前などに、二日酔い・悪酔い対策のためにサプリや薬を飲んでいる人は多い。中でも漢方薬を愛用している人は少なくないだろう。だが、そもそも二日酔いのために漢方を飲んでいいのか、飲む前に単発で飲んでいいのか、体質・症状でどう使い分けるのかなど、分からないことが多くある。そこで今回は、北里大学 東洋医学総合研究所の医史学研究部 部長の星野卓之さんに話を聞いた。

飲み会前の“備え”に漢方を愛用している人は少なくないだろう。しかし、種類や効果、服用法など分からないことも多い。(c)marilyn barbone-123RF

 左党であれば、ほとんどの方が持っている「ここぞ!」というときに飲む“特効薬”。二日酔い防止などのために、飲む前や飲んだ後に飲むサプリメントや薬だ。

 飲み会で左党仲間と集まると、必ず始まるのが個々の“特効薬”の渡し合いである。ウコン入りのドリンク剤の人もいれば、肝臓水解物(*1)の人もいる。誰もが自信をもって「コレいいから!」と“特効薬”を押し付けあう様子は、酒を飲まない人にとっては異様な光景に見えるに違いない(なお、自分用に処方された薬を他人に勧めるのはNGです)。

*1 豚などの肝臓に消化酵素を加えて加水分解したもの。アミノ酸やペプチドを含む。

私が「ここぞ!」というときに飲むのは漢方薬

 かくいう私も実は“特効薬”を持っている。それは漢方薬の「五苓散(ゴレイサン)」だ。ツワモノが集まる飲み会の前には必ず飲む。そして、確かな効果を感じている。服用すれば悪酔いしにくいし、お酒を飲んだ後に服用すれば、むくみにくい(私はお酒を飲んだ後はむくみやすいのです)。

 私周囲の左党にも五苓散の愛用者は多い(市販薬・処方薬ともに)。実際、この連載の取材で話を伺った先生の中にも五苓散を愛用していた人がいた。

 これだけお世話になっている五苓散だが、そもそも五苓散はどういう薬で、どういう状況で飲むべき薬なのか、恥ずかしながらよく分かっていない。今現在、酒を飲む前を中心に五苓散を飲んでいるが、果たしてそれでいいのだろうか。また、本当に自分の体質に合っているかどうかも、実はいまいち分かっていない。確かな効果を感じるので間違いなく私に合っているはず、と思っているが…。

 さらに漢方というと、数え切れないほどの薬があると思うが、本当に五苓散がいいのだろうか。風邪薬も体質や症状によって使い分けるくらいなのだから、症状・体質によって使う漢方薬も変わるようにも思う。

 また、私をはじめ多くの左党は「確かに効くけど、そもそも漢方って悪酔い、二日酔いのために飲んでいいの?」「漢方薬はジワジワ効くもので、長く飲み続けるものじゃないの?」という疑問を持っている人も多い。知らないことだらけである。

 これは専門家にきちんと聞かずにはいられない。そこで今回は、漢方専門医による漢方医学的な診察を行う「漢方ドック」を2016年から始めている北里大学 東洋医学総合研究所の医史学研究部 部長 星野卓之さんに話を伺った。

漢方では「酒はクスリ」

 個別の漢方薬の話に入る前に、漢方医学の考え方を再確認しておきたい。今回の主眼はもちろん「お酒(アルコール)」である。そもそも、漢方ではお酒をどう位置づけているのだろうか。ぜひ聞いておきたいところだ。

 「意外かもしれませんが、漢方の世界では“医療にお酒はつきもの”と考えられています。医療の医の旧漢字「醫」を見ると分かるように、酒にも使われている酉という部首が付いていますよね。つまり「酒と薬は一体」、酒には薬効があると考えられてきたのです」(星野さん)

 「実際、中国では昔から薬効のある生薬を漬け込んだ薬酒が使われてきました。日本だと養命酒が有名です。西洋でも、シャルトリューズをはじめ薬草系リキュールがありますよね」と星野さんは話す。

北里大学 東洋医学総合研究所内に展示されている漢方薬の材料となる生薬

 「体に害を及ぼす存在」などと恐ろしい返事が来るかと思いきや、左党にとって、何ともうれしい返事ではないか。そもそも酉という文字は酒が入っていた壺の象形文字が元となっているという。漢方では「酒と薬は一体」と考えられているわけだし、漢方とお酒は相性がよさそうだ。しかし星野さんはこう続ける。

 「しかしいくら薬効があったとしても“過ぎたら毒”。これは漢方に限ったことではないでしょう」(星野さん)。やはり「飲み過ぎはよくない」というのはいずこも同じのようだ。

 では、酒を飲み過ぎて“毒”となったときに、漢方ではどう対処するのだろうか。先生に、悪酔い、二日酔いに対処するための漢方の対処法を聞いてみた。

 「漢方では一般に、悪酔い・二日酔い対策には五苓散、黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)が使われます。酒飲みの間では一般に、この2つがいいと言われていますが、その通りです。いずれも私も使っていて、場合によっては時間差で五苓散と黄連解毒湯の両方を飲むこともあります」と星野さんは教えてくれた。

 「これらの漢方を“飲む前”に飲んでいただいてもいいですし、飲んだ後や翌朝に調子が悪くなったときに飲んでいただいても構いません。漢方というと『長く飲み続けないと薬効を得られない(1回だけ飲んでもダメ)』と考える人が多いのですが、悪酔いや二日酔いといった一過性の症状の場合、慢性的に飲む必要はなく、単発でも十分に効果が得られます」(星野さん)

 取材現場に「おー!」という歓声が上がる。星野さんもかなりいける口のようだし、ドクターが使っているとなればお墨付きをいただいたも同然。単発で飲んでも効果があるというのもうれしいではないか。私のこれまでの実体験は、単なる思い込みではなかったわけだ。

 漢方での酒対策の基本は、五苓散と黄連解毒湯だということは分かった。では、それぞれどういう漢方薬で、どんな薬効があるのだろうか。星野さんに、その使い分け方と効能を聞いてみた。

五苓散は“水毒”に効果がある

 「五苓散は、沢瀉(タクシャ)、猪苓(チョレイ)、茯苓(ブクリョウ)、白朮(ビャクジュツ)、桂皮(ケイヒ)の5つの生薬から成る漢方薬で、慢性的な頭痛にも処方されます。五苓散はむくみ、口渇、下痢、嘔吐、排尿困難といった“水毒”に効果があります。これらの症状は、『口は渇いているのに、足はむくんでいる』といった、体の中の水分分布の偏在からくるものです。五苓散は体内の水の流れを整え、体内でバラバラになった水分の分布を均等にする効果があるのです」(星野さん)

五苓散(ゴレイサン)を構成する5つの生薬
※北里大学 東洋医学総合研究所所蔵の生薬
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 むくみ、口渇、下痢、嘔吐、排尿困難…、まさに二日酔いの朝にありがちな症状ではないか。筆者も実際に五苓散を使っているが、特にむくみに効果があると感じている。飲み過ぎた翌日に五苓散を飲むと、むくみが解消し、口の渇きも徐々に治まっていく一方で、やたらトイレが近くなる。五苓散によって体内の水分バランスが整っていくのだろう。

 星野さんは、「五苓散は体質をあまり選ばず、多くの人に飲んでいただける漢方薬です。二日酔いでも、水毒が原因となる軽めの症状のときに適した漢方薬です」と話す。また、五苓散は漢方で“霍乱(かくらん)病”に分類されるノロウイルスをはじめとする感染症の際に処方することもあるそうだ。

黄連解毒湯は“解毒剤”として働く

 ではもう一つの黄連解毒湯はどうなのだろう?

 「五苓散と並んで、二日酔い・悪酔い対策に使われるのが黄連解毒湯です。この漢方薬は、黄連(オウレン)、黄芩(オウゴン)、黄柏(オウバク)、山梔子(サンシシ)の4つの生薬から成っています。黄連解毒湯は“酒毒を消す”、つまり解毒剤的な役割をしてくれます」(星野さん)

黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)を構成する4つの生薬
※北里大学 東洋医学総合研究所所蔵の生薬
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 「黄連解毒湯は、熱による炎症を抑えるのに用いられる薬です。一般的には解熱、のぼせ、赤ら顔、アトピー性皮膚炎などの改善のために処方されます。胃腸などの消化器系の炎症を抑えますので、二日酔いによる胃の不快感、それに頭痛などの緩和にも役立ちます。飲み過ぎ全般に効果的です」(星野さん)

 星野さんによると、黄連解毒湯は、お酒を飲んで赤くなる、体が熱くなるタイプの方に向いているという。「飲むとすぐ顔が赤くなっちゃって…」と嘆くアルコールに弱い人、アルコールに弱いが仕方なく酒席に付き合わなくてはいけないときに効果を発揮してくれそうである。

みぞおちのつかえ、吐き気に半夏瀉心湯

 星野さんによると、黄連、黄芩が入っている漢方薬は“芩連剤”(ゴンレンザイ)と呼び、解毒薬になるのだという。この2つが入った漢方薬に半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)があるが、これも飲み過ぎによる諸症状に効くという。半夏瀉心湯は黄連(オウレン)、黄芩(オウゴン)、半夏(ハンゲ)、乾姜(カンキョウ)、人参(ニンジン)、甘草(カンゾウ)、大棗(タイソウ)の7つの生薬から成る漢方薬だ。

 「半夏瀉心湯は、逆流性食道炎、慢性的な吐き気、下痢などの症状で処方します。この薬は、飲み過ぎ、食べ過ぎによって、食べたものが胃から食道に逆流して心窩部(みぞおち)がつかえた感じがする、吐き気がするといったやや症状が重いときに効果的です。また、二日酔いで下痢が絡んだときにも有効です」(星野さん)

 おお、これは飲み過ぎた翌日、「やっちまった」と後悔するほど飲んだときによさそうだ。なお、五苓散も下痢に有効と先ほど説明したが、星野さんによると、大まかに「水毒による軽めの下痢なら五苓散」「症状が重い熱性の下痢には半夏瀉心湯」がいいと話す。

 黄連解毒湯と半夏瀉心湯はすぐにでも薬箱に常備したいくらいだが、星野さんは「芩連剤に分類されるこの2つは、体質により向き不向きがあります。芩連剤は『体の熱を冷ます』『炎症を鎮める』効果が強いので、寒がり、冷え性の方には向きません。また、人によっては微熱が出たり、慢性的な倦怠感といった副作用が出ることもあります。問題が起こることは多くはありませんが、医師に相談することをお勧めします」(星野さん)

 漢方薬には普通に薬局で市販されているものもあり、これらは診断なしで購入できる。ネットで検索すると黄連解毒湯、半夏瀉心湯ともに通販で手軽に買えるが、最初に試す際は、やはり医師に相談するほうがよさそうだ。

 また、市販の漢方薬と病院で処方される漢方薬とは、(一部例外もあるが)量に違いがあるのだと星野さんは話す。

 「市販の漢方薬のように診断なしで買えるものは、一般的に処方薬の約3分の2の量しか入っていません。つまり処方薬よりも効き目が弱い傾向にあります。また処方薬に比べ割高なので、かかりつけの医師に相談して処方してもらったほうが経済的です」(星野さん)

 「かかりつけの医師がいない場合は、漢方内科のある病院を受診し、普段から飲んでいる薬や、自身の体質を考慮した上で、自身に合った漢方薬を処方してもらうことをお勧めします」(星野さん)。体質に関係してくる上に、処方薬のほうが安くて、効果が高いとなればなおさらである。

漢方薬はメーカーにより違いがある?

 処方薬といえば筆者は今、某有名メーカーの五苓散をかかりつけ医に処方してもらっている。しかし人によっては、同じ漢方薬でも違うメーカーのものでないと「効果が得られない」と言う人もいる。メーカーにより効果のばらつきはあるのだろうか?

 「メーカーによって生薬を仕入れる産地や、栽培方法が異なることがあります。名前が同じだからといって、効果が同じとは限りません。もし効果が薄いと思ったら、メーカーを変えるという手もあります」(星野さん)

         ◇        ◇        ◇

 星野さんの話を聞いて、これまで漢方について感じていたモヤモヤが一挙に解消した。最後に、星野さんは1つ注意してほしいことがあると話す。

 「漢方薬を事前に飲むことで、“酔わない”気になる、酔いが回るのが遅くなるという人がいます。そして酔うまで飲むから、飲み過ぎてしまうことがあるので注意しましょう」(星野さん)

 自分のことを言われたようでドキッ…。いくら漢方に効果があるといっても限度がある。飲み過ぎないに越したことはない。

星野 卓之(ほしの たかゆき)さん
北里大学 東洋医学総合研究所 医史学研究部 部長
星野 卓之(ほしの たかゆき)さん 1996年、自治医科大学医学部卒業。2009年、北里大学大学院医療系研究科(東洋医学)博士課程修了、同年より北里大学 東洋医学総合研究所 漢方鍼灸治療センター 漢方診療部勤務。2016年より現職。日本東洋医学会専門医・指導医・代議員、日本内科学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本医史学会代議員。
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