日経グッデイ

左党の一分

「命の危機」を感じた冬の飲酒後の入浴

恐ろしいヒートショック! 避けるには「ぬるめのシャワー」を

 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト

寒い時期に多発する入浴中の事故死。急激な温度変化によりカラダがダメージを受ける「ヒートショック」が原因だ。この恐ろしいヒートショックをお酒が助長するということをご存じだろうか。実は、11月末の寒い夜、私はヒートショックを自ら体験し「命の危機」を感じた。幸いなことに助かったものの、今思い出しても背筋が寒くなる。そこで今回は、冬場の飲酒後の入浴についてまとめた。

あの時、「私の人生はこれで終わりだ」と思った

 酒を飲んだ後に風呂に入る―。

 「酔っている時ほど風呂に入りたくなる」というのは私だけではないようだ。酔って水を得た左党は気が大きくなっているので、「風呂で汗かいて酒抜くぞ!」とやらかしてしまいがちだ(実際には汗をかいても酒は抜けない)。

冬場の入浴時の事故死が増えている。急激な温度変化によってカラダがダメージを受けるヒートショックが原因だ。さらに飲酒後の入浴にも危険があるという。(©Katarzyna Białasiewicz -123rf)

 実は、11月末の寒い日、「命の危険」を感じる体験をした。そう、酔った状態で風呂に入ったのだ。だが酔っているといっても、前後不覚になるほどではない。記憶も意識もきちんとある状態で、冷えた体を温めようと帰宅早々、44度の湯をはった湯船に浸かった。

 異変を感じたのは湯船に浸かって5分ほどしてから。頭がカーッと熱くなった後、全身が心臓になったかのような激しい動悸が起こった。そして慌てて湯船から出ようとして急に立ち上がった途端、今度はめまいに襲われた。水を飲み、しばらく脱衣所でうずくまっていたら、症状はおさまったが、あの時は本当に「私の人生はこれで終わりだ」と思った。俗に言う「ヒートショック」というやつだ。

 飲酒時の入浴は世間一般的にはNGだといわれている。それは知っていたが、これまでは酷い目にあったことがないためついつい繰り返していた。しかし、11月の一件で、やってはいけないのだと心底痛感させられた。あまりに恐くて、その事件以降しばらくはお酒が飲めなくなったくらいだ。

 だが、入浴後の飲酒はどんな根拠でいけないといわれるのだろうか? そして私自身が体験した激しい動悸やめまいは何が原因だったのだろうか? 『高血圧にならない、負けない生き方』の著者でヒートショックに詳しい横浜労災病院院長の梅村敏さんに詳しい話をうかがった。

ヒートショックの主犯は「急激な血圧の変化」

 「急激な温度変化によってカラダがダメージを受けるのがヒートショックです。ヒートショックには『血圧の変動』が深く関わっています。特に寒い時期の入浴、そして飲酒後の入浴は血圧の変動が激しくなり非常に危険です」(梅村さん)

 ヒートショックの原因は「血圧の変動」だったのか! 確かに急激な血圧の変化はカラダに悪そうだ・・・。だが、寒い時期の入浴や飲酒後の入浴は、血圧にどう影響するのだろうか。

 梅村さんによると、そもそも血圧は気温によって変動するのだという。気温が高いと血圧は下がり、寒くなると上がるのだ。

 「私たちのカラダは気温が低いと、『体温を下げないように』と血管を収縮させ、結果として血圧が上がります。一方で気温が上がると、熱を放出して体温を下げようとして血管は拡張するので血圧は下がります。このため、夏は血圧が低くなり、冬場は血圧が上がるのです」(梅村さん)

入浴時は気温差により血圧はアップダウン

 では、入浴時はどのように血圧が変化するだろうか。梅村さんに、冬場に寒い浴室でお風呂に入った際の、血圧の変化を解説していただいた。

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 このように、寒い時期に入浴すると、書いていてもめまいがするほど、気温差による血圧のアップダウンは激しくなる。これがヒートショックにつながるわけだ。実際に、入浴中の血圧の変化を計測したのが下のグラフである。入浴のプロセスでの血圧の変動が、室温が低いほどより大きくなることが明確に見て取れる。

入浴による血圧の変化
入浴の際は血圧の変化が大きくなるが、室温が低いと血圧の変化は一層大きくなる(Appl Human Sci. 1996;15:19-24.)

 「急激な血圧の変化はカラダへの負担が大きくなります。寒い時期の入浴は、血圧の変動が大きいのでより負担が増します。特に高齢者で普段から高血圧の人は、動脈硬化が進んでいます。つまり血管が痛んでもろくなっているわけです。急激な血圧変動に対応できず、心筋梗塞や脳梗塞、あるいは脳出血などで重篤な症状に陥る危険性が高まります。また、高齢者は、体位の変化(臥位、座位、立位など)に対応し血圧を一定に維持する能力が衰えてくるため、湯船などから立ち上がったとき頭に血が十分に回らず倒れる確率も高まります」(梅村さん)

入浴時の事故死が多いのはやはり寒い季節

 消費者庁が発表しているデータを見ても、寒さの厳しい12月から3月までが入浴時の事故死が多いことがわかる。そうした人のほとんどが65歳以上の高齢者だ。入浴時の事故死はこの10年で1.7倍に増えている。

東京23区における入浴中の事故死の季節変化
(出典:消費者庁 平成29年1月25日News Release)
家庭の浴槽の溺死者のほとんどは65歳以上の高齢者
(出典:消費者庁 平成29年1月25日News Release)

 ううむ、やはり冬場の入浴を甘く見てはいけないようだ。とかく日本人はシャワーで済ませず、肩までしっかり湯船に浸かる人が多いこともあってか、世界的に見てもダントツで入浴時に溺死する人が多い。

 冬季の入浴中の事故に関する実態を調べるために消費者庁が2015年に実施した調査によると、全体の約1割が入浴中にのぼせたり、意識を失ったりして、ヒヤリとした経験があると回答している。そのヒヤリとした具体的な状況は、「浴槽に長く(10分以上)浸かっていた」という回答が多く、浴槽から立ち上がったときにヒヤリとした人が多かった。

 「長く浴槽に浸かっていると血圧が下がります。その状態で突然立ち上がろうとすると、通常は血管が収縮して血圧を保とうとするのですが、高齢になると血圧が維持できなくなり、頭に血が十分に回らず、気を失って倒れるということが起こります。倒れた場所がお湯を張った浴槽だと、溺死につながってしまうのです」(梅村さん)

アルコールは一時的に血圧を下げる

 ここまでの説明で、室温と浴室の寒暖差が大きい冬場の入浴が、いかにカラダの負担になるかがよくわかった。しかし、これはアルコールを飲まない状態でのこと。同じ環境下でアルコールを飲んで入浴するというのは、どれほどの危険性を伴うのだろうか? 梅村さんはこう説明してくれた。

 「飲酒には、“一時的”に血圧を下げる作用があります。アルコールを飲むと、アルコールの代謝生産物のアセトアルデヒドの血中濃度が増えることで、血管が拡張し血圧が下がるのです。この血圧低下に反応し血圧維持のため、交感神経系が活性化し、脈が増加すると考えられます」(梅村さん)

飲酒後は一時的に血圧が下がる
高血圧の人がお酒を飲んでいるとき(通常飲酒時)とお酒を控えたとき(飲酒制限時)の血圧の変動。夜間にお酒を飲んだ後は血圧が低くなる傾向が見られた。一方、日中の血圧は高くなる。(臨床高血圧 2000;6:14.)

 「飲酒時は普段よりも血圧が下がっています。これにより、飲酒後の入浴は、血圧のアップダウンの変化の幅がより大きくなる危険性があります。『飲酒後』+『寒い季節』の入浴はより一層危険です。また、飲酒後は、アルコールによって意識が朦朧としているため、危機管理能力も低下しており、これがさらに危険度を高めてしまうと考えられます」(梅村さん)

 この話を聞いて、筆者が体験したヒートショックの原因が見えてきた。アルコールを飲んで一時的に血圧が下がっている状態で、温かい部屋から、暖房なしの寒い脱衣所で着替え、44度の熱々の湯船に一気に飛び込んだことで血圧が急上昇し、その後湯船に浸かっているうちに急降下したのだろう。そして、血圧が下がっているところで、勢いよく立ち上がったから、めまいがしたのだ。私の場合は運よく溺死に至らず、けがもしなかったが、「もう少し高齢だったら、意識を失いそのまま倒れて溺死されていたかもしれません」と梅村さんは話す。―考えるだけで背筋が寒くなる。

常日頃から飲んでいる人ほど、血圧は高くなる

1日当たりのアルコール摂取量と血圧の関係
アルコールの摂取量が多いほど、血圧は高くなる。なお、ビール大びん1本、ワイン2杯程度がアルコール30mLに相当する。(Circulation.1989;80:609.)

 梅村さんによると、特に筆者のようなアルコール常飲者は注意が必要で、さらには「定期的に血圧チェックを欠かさないほうがいい」という。それにはこんな理由があった。

 「アルコールと血圧の関係性は深く、常日頃から飲んでいる人ほど高くなる傾向にあります。1日あたりのアルコール摂取量に比例して血圧が高くなります。これは人種や酒類に関係なく共通して言えることです」(梅村さん)

 先ほど、飲んだ後に血圧が下がると説明したのは、飲酒直後の一時的なもの。日々お酒を多く飲み続けると、恒常的な高血圧につながるのだ。

 さらに梅村さんは、こう畳みかける。「現在、国内の4300万人が高血圧といわれています。そもそも血圧は年齢とともに上昇する傾向にありますが、仕事上のストレスが多い50代男性は一気に高血圧が増えます。アルコール常飲者は今は高血圧ではなくても、今後高血圧になる可能性が特に高いのです」(梅村さん)

 確かに思い返すと、私の周辺の左党の多くは高血圧を抱えている。酒豪ほどその傾向が高く、50歳を超えたあたりから増えているように思う。左党の場合、今は正常値でも安心できないのだ。

どうしても入浴したいときはどうすればいい?

 飲酒後の、特に寒い時期の入浴の危険性を知ってもなお、「それでもその日のうちにさっぱりしたい」と思う人は少なくないはず。何かいい方法はないものだろうか? 梅村さんに聞いてみた。

 「さっぱりしたいという気持ちはわかりますが、入浴するのはアルコールが代謝され、アルコールの影響がなくなった後にしてください。体重60kgの成人男性の場合、1単位(純アルコール20g=ビール中びん1本、日本酒1合、焼酎0.6合)のアルコールが体内から消えるまでに約3~4時間かかるといわれています(詳しくはアルコール健康医学協会のページを参照)。

 「アルコールの代謝能力は人によって差があるのであくまで目安ですが、最低3~4時間は空けるようにしてください。お酒を飲んで顔が赤くなる人はアルコール代謝能力が弱い人なので、もっと時間を空けるようにしてください。もちろん、酒量が増えればそれだけアルコールが体内に残る時間も長くなりますので注意が必要です」(梅村さん)

 梅村さんは、入浴まで十分に時間をあけた上に、さらに以下の4つの点を注意してほしいと話す。このほか、食後すぐの入浴や、睡眠薬・精神安定剤などを服用した後の入浴も避けるようにする。

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できればぬるめのシャワーにする

 それでもなお、お風呂に入りたそうな私の顔を見て、梅村さんは別な一手を提案してくれた。それは「シャワー」だ。ヒートショックのリスクを減らすには、「ぬるめのシャワーにするといい」という。

 「ぬるめのシャワーであれば、湯船に浸かるよりカラダの負担が少なくなります。そして万が一、倒れたとしても溺死することはまずありません。気を失って倒れた際に怖いのは溺死です。日本は湯船につかる習慣があるため、他国に比べて圧倒的に湯船での溺死者が多いのです」(梅村さん)

 そうだった! 海外では一般的なシャワーという選択肢があるのだった。「汗をかいてアルコールを抜く」という間違った考えから、恥ずかしながら、湯船という考えしか頭になかった。確かにシャワーなら、倒れても打撲程度で、死に至る可能性は湯船に浸かるよりずっと低そうだ。今後、飲酒後はシャワーを選択するようにしよう。もちろん、脱衣所や浴室を暖めて温度差をできるだけなくすのはシャワーでも同じ。湯温も“ぬるめ”だ。

         ◇        ◇        ◇

 飲酒後の、特に冬場の入浴には注意を払わなければならないことはよくわかった。個人的にはちょっと物足りないが、お酒を飲んだ後はシャワーにしよう。しかし、ヒートショックとお酒の関係を聞きに来たら、常飲者が高血圧になる可能性があることがわかるとは何とも驚きの展開である。やっぱりよくないのは飲みすぎだ。「適量」(純アルコール換算で20グラム=日本酒なら1合程度)に勝るものはない。50歳を超えたら、普段から自分の血圧を測り、変化がないかを常にチェックすることもまた大事。そして高めとわかったら酒量をセーブしよう。自分のカラダを守れるのは最終的に自分でしかないのだから。

梅村 敏(うめむら さとし)さん
横浜労災病院院長、横浜市立大学名誉教授
梅村 敏(うめむら さとし)さん 1975年横浜市立大学医学部卒業後、米国クレイトン大学医学部高血圧研究所・助教授を経て、1998年横浜市立大学内科学第二講座・教授、2008年同大医学部長、2010年病院長、2012年より横浜市立大学学術院・医学群長を歴任。2016年4月より現職。著書に『高血圧にならない、負けない生き方(日本屈指の名医が教える「健康に生きる」シリーズ)』(2015年、サンマーク出版)ほか多数。
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