日経グッデイ

左党の一分

このまま飲み続けたら薄毛になる!?

ネットに流布する「アルコールは薄毛の原因になる」は本当か

 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト

アルコールは薄毛の原因になる――。ネットを検索すると、こういった情報が多数ヒットする。酒好き男子で、気にしている人は少なくないだろう。だが、本当にお酒は薄毛につながるのだろうか。むしろ、少量の飲酒ならプラスになるといったことはないのだろうか。そこで今回は、お酒と薄毛の関係を、薄毛治療の専門家であるメンズヘルスクリニック東京 院長の小林一広さんに話を聞いた。

酒飲みは薄毛の人が多い?

 私の周囲の左党には薄毛の人が多い。

ネットで調べると、「アルコールは薄毛の原因になる」といった情報が多数見つかる。これは本当なのだろうか? (c)PaylessImages -123rf

 こんなことを書くとものすごい勢いで袋叩きにあいそうだが、我が夫を含め、私の周囲の左党を観察すると、よく酒を飲む人の頭髪はフサフサというよりもヒラヒラという形容詞が似合う人が多いように思う。もちろん酒豪でありながらフサフサの人もいるから、私の周りだけ“たまたま”そうなのかもしれないが…。

 そして、酒量に比例して毛量が少なくなるのでは…という疑念も拭いきれない。そもそも、私自身、女性ながら、ここ数年、抜け毛が増えたし、毛量がかなり少なくなったように感じている。私も含めて周囲は年齢が50を超えている人が多いのだから、加齢による薄毛の比率が高くなるのはある意味当然なのかもしれないが、やっぱりお酒が深く関係しているのではなかろうかと、かねがね気になっていた。

 実際、ネットで「アルコール 薄毛」などとキーワードを入れて検索してみると、「アルコールは薄毛の原因になる」という記事が数多くヒットする。「アルコールが体内で分解する際に生成されるアセトアルデヒドが影響している」とか、「過度な飲酒はよくない」などと不安を駆り立てるワードがいくつも書いてあるではないか。

 こうした記事を読んで、「このまま酒をガブガブ飲み続けたら、近いうちに(サザエさんに登場する)“波平さん”みたいになるのでは?」と不安に思っている方もいらっしゃると思う。抜け毛が増えている私にとっても人ごとではない。これは真実を突き止めねばなるまい。

 そこで今回は、男性の薄毛治療の専門家で、『病はケから』(幻冬舎)などの著書も手がけているメンズヘルスクリニック東京 院長の小林一広さんにお話を伺った。

薄毛に医学的定義は存在しない

 まずは、ズバリ聞いてみた。小林先生、飲酒は薄毛の原因になるのでしょうか?

 「現時点での研究報告などから考えても、お酒が薄毛の直接の原因になることはないと考えていいでしょう」と小林さん。

 おお! ここまではっきり断言していただけるとは! 酒が薄毛の原因では…と心配されていた左党の方は、ひとまず安心したのではないだろうか?

 「お酒の飲み過ぎで薄毛になるとしたら、アルコール依存症の方はみんな薄毛ということになりますよね? 実際はそうではありません。飲酒を過度に気にする必要はありません。ただし、後述するように、髪の健康を保つには、心身の健康を保つことが大事ですから、もちろん飲み過ぎは避けてください」(小林さん)

 小林さんによると、そもそも薄毛に医学的定義は存在しないのだという。「薄毛や抜け毛で悩む人は1200万人以上いるといわれていますが、『1日の抜け毛が何本以上なら、将来薄毛リスクが高くなる』といったガイドラインは存在しないのです」(小林さん)

 現時点では、遺伝的要素が強い「男性型脱毛症」(AGA)のメカニズムについては、医学的に確認されているという。「AGAとは男性特有の脱毛症で、薄毛・脱毛に悩む男性の約8割が該当するといわれています。AGAの罹患率は、20代で10%、30代で20%、40代で30%、50代以降で40数%と、加齢とともに高くなっていきます」(小林さん)

毛髪の構造
髪の毛は、皮膚の中にある「毛根」と皮膚から外に出ている「毛幹」に分けられる。毛根のいちばん下の毛球の先端部にある毛乳頭が毛細血管から栄養を取り込み、毛母細胞が細胞分裂を繰り返しながら増殖することで毛は成長する。(図版:増田真一)

 「AGA原因として、近年注目されているのがジヒドロテストステロン(DHT)という物質です。DHTは、代表的な男性ホルモンであるテストステロンから、5α-リダクターゼという還元酵素によって生成されます。このDHTが髪の毛に作用すると、毛母細胞(髪の毛を成長させる細胞)の成長が抑制されてしまうのです。そして毛髪の成長期が短くなることで、髪が太くなる前に抜けてしまい、細く短い髪が多くなることで薄毛が目立つようになります。このAGAは、遺伝的要素が非常に大きいといわれています」(小林さん)

 加齢とともにテストステロンの分泌量は減るが、DHTの分泌量は増えていく。これによって中高年になるとAGAが増えていくわけだ。

 「しかし、すべてが遺伝とは言い切れない面もあります。実際、遺伝的条件が同じ一卵性双生児でも、異なる生活環境下で過ごすうちに、薄毛の進行度合いに違いが見られることがあります」(小林さん)

 なるほど、遺伝的要素が大きいとはいえ、生活習慣にも配慮する必要があるわけだ。では、どんな生活習慣がよくないのだろうか。

肥満の人は注意!

 メンズヘルスクリニック東京の小山太郎医師らは、1873人の日本人男性を対象に、家族歴、喫煙の有無、飲酒の有無、血圧、肥満度、および血液検査の各種データなどとAGAの関係を解析、2012年の「第16回 ヨーロッパ毛髪研究学会」(European Hair Research Society)で結果を発表している。

 「その結果、現時点で唯一AGAとの関連性が確認できたのがBMI(Body Mass Index)、つまり肥満度です。BMIの数値が25以上の人はAGAになる率が高くなることが確認できました。つまり、肥満の人は薄毛になりやすい傾向があったわけです。この研究では、喫煙、高血圧、飲酒といった他の要因との因果関係は確認できませんでした」(小林さん)

 ううむ、この結果からも、肥満の人は食事・運動などの生活習慣を改め、痩せる必要がありそうだ。とはいえ、飲酒と薄毛の間に直接の因果関係が確認できていないわけで、酒飲みとしては少しホッとした。

 しかし、ストレスになるより酒を飲んだほうがいいからといって、好きなだけ飲んでいいかといったらそうではない。問題は「酒量」である。

心身ともに健康でいることが何より大事

 小林さんは、「つまるところ『心身ともに健康でいること』が髪の健康につながるのです。ですから、お酒を我慢することが、その人のストレスになるくらいなら、飲んだほうがずっといいと言えます」と話す。

 「ですが、度を越えて飲んでしまうのは逆効果です。過度な飲酒は、髪の毛はもちろん、体のさまざまなところに悪影響を及ぼします。というと、どのくらいまで飲んでいいかが気になると思いますが、一般に適量といわれる純アルコール量(*1)に換算して20g程度を目安にするといいでしょう。日本酒なら1合、ワインならグラス2杯程度です。アルコールの代謝には個人差がかなりありますので一概には言えませんが、この程度であれば頭皮への血流がよくなるなど髪にとってプラスに働く面もあると考えてもよいかもしれません」(小林さん)

*1 「飲んだ量(ml)」×「アルコール度数(10%なら0.1)」×「0.8」で計算できる。

 確かに自分の意志に反して飲むのを我慢すると、ストレスからか、やたら甘いものを食べたりしてしまう。お酒は適量までなら飲んでいいと聞いてホッとした。ただし、飲み過ぎはNGだ。

意識して摂取したいタンパク質や亜鉛

 次に、髪の健康を保つために、酒量以外の食生活では、何をどう気をつけたらいいのだろう? 前述のように、太りすぎは悪影響を及ぼす可能性があるので、肥満や肥満気味の人は、食べる量を減らすなどしてダイエットしたほうがよさそうだが、個別の食材はどうすればいいのだろうか。左党としては、おつまみ選びの参考にもしたいところである。

 これについて小林さんは、「育毛効果が期待できる成分についての報告もありますが、基本的に『これさえ食べれば薄毛が予防できる』というものはありません」と話す。

 ただし、髪が健康に育つために欠かせない栄養素が不足しないように、意識して食べてほしい食材・栄養素はいくつかあるという。まず小林さんが挙げたのがタンパク質だ。

 「肝臓はアルコールを代謝する際、タンパク質を多く必要とします。特に重要なのは髪の主成分であるケラチン(タンパク質)です。ケラチンは、18種類のアミノ酸から構成されていますが、中でも大切なのがメチオニンです。メチオニンは体の中で生成されない必須アミノ酸なので、食材から摂取するしかありません。それらを多く含むのが魚介でいえばマグロ赤身、シラス、肉類は鶏胸肉、豚ロース、植物性タンパク質なら納豆、豆腐などです」(小林さん)

 「ダイエットしている人は、カロリーを気にして魚介類や肉類を控えるケースがありますが、それでは健康な髪の毛は生えてきません。毎食タンパク源を1種類は取り入れてください」(小林さん)

亜鉛は肉類に多く含まれている。生牡蠣も豊富だ。(c)Valeriy Lebedev -123rf

 この食材からおつまみを考えると、マグロ納豆、シラスおろし、鶏胸肉のハムなどが挙がる。腹持ちのいいタンパク質をしっかり食べておけば、「飲んだ後の糖質で〆」のゴールデンコースを選択する確率が低くなるので、BMIの数値がアップするのを防ぐことができそうだ。

 小林さんはミネラル分についても意識するといいと言う。「クリニックでも推奨しているのが亜鉛です。亜鉛は細胞の新陳代謝に不可欠な物質で、200種類を超える酵素の働きをコントロールしています。特筆すべきはジヒドロテストステロン(DHT)を生成する5α-リダクターゼという還元酵素の分泌を抑制する働きがあるということです」(小林さん)

 「亜鉛は発毛には欠かせないミネラルですが、日本人の亜鉛摂取量は十分とは言えません。亜鉛はタタミイワシ、生牡蠣、ビーフジャーキー、パルメザンチーズなどに多く含まれていますので意識してとるようにしましょう」(小林さん)

 おお、全部、そのままおつまみになりそうな食材ばかりではないか。亜鉛を多く含む食品を下にまとめたので参考にしてほしい。亜鉛というと牡蠣を想像する人も多いと思うが、肉類にも多く含まれている。もちろん、サプリメントで補充するという手もありだろう。

亜鉛の食事摂取基準(mg/日)
男性18~29歳男性30~69歳女性18~69歳
推奨量10mg10mg8mg
『日本人の食事摂取基準2015年版』より
亜鉛を多く含む食品
魚介類カキ2個(正味40g)5.3mg
ホタテ貝1個(正味80g)2.2mg
イイダコ1ぱい(45g)1.4mg
ズワイガニ(水煮缶詰)1/2缶(60g)2.8mg
カラスミ1/4腹(25g)2.3mg
肉類豚レバー80g5.5mg
牛肩肉(赤肉部分)角切り3切れ(90g)5.1mg
牛もも肉(赤肉部分)薄切り3枚(90g)4.6mg
その他玄米ごはん1膳(150g)1.2mg
納豆1パック(50g)1.0mg
『栄養素の通になる第2版』より

 このほか、小林さんによると、「ビタミンB群、ビタミンCもとってください」と話す。ビタミンB2は頭皮の健康を守ってくれる存在で、不足すると頭皮が荒れてフケやかゆみの原因になるという。ビタミンB6はアミノ酸の代謝を助け、亜鉛の働きをサポートする。また、ビタミンCは、タンパク質の合成に欠かせず、さらに亜鉛の吸収率をアップさせる。

 ビタミンB2は、レバー、卵、大豆、乳製品などに、ビタミンB6はカツオ、マグロ、イワシなどに、そしてビタミンCはブロッコリー、パプリカ、レモンなどに多く含まれているので、特に留意してとるといいだろう。もっとも、これら代表的な食材を見ると、いずれも特殊なものはなく、すぐに入手できるものなので、意識さえすれば日常にすぐ取り入れられそうだ。

 なお、昔から「昆布やワカメなどの海藻がいい」などとよくいわれる。これはどうなのだろうか。「確かに、海藻にはビタミンやミネラルが豊富に含まれているので、適度に摂取することはお勧めですが、これらを大量にとったからといって薄毛を防げるわけではなく、逆にとりすぎると甲状腺機能障害を呈してしまいます」(小林さん)

朝シャンと夜シャンのどちらがいい?

 また「日々のシャンプーも大切なケアの一つ」と小林さん。

深酒した夜は、髪を洗わずに寝てしまう人も多いのでは? (c)Inspirestock International - Exclusive Contributor -123rf

 「濡らす前にマッサージして角質を浮かせ、アミノ酸系のシャンプーの泡で洗うといいでしょう。洗う際は指の腹を使って丁寧に。きれいに流したら、しっかりとドライヤーで乾かしましょう」(小林さん)

 また、さまざまな研究から、頭皮マッサージも薄毛対策効果が期待できるのだと小林さんは話す。「細胞の再生において刺激を加えると、細胞分裂が促進されるなど効果があることは分かっていますが、どの方向に、どのくらいの力を加えればいいかなど、細かいことはまだ解明されていないのが現状です」(小林さん)

 深酒した夜は、アルコールによる酔いが原因で、ヘアスプレーやワックスが大量についたまま、泥酔して、髪を洗わずに寝てしまう人も多いと思う。実際、私もこういった経験が多くあり、かねがね気になっていた。

 これについて小林さんは、「程度にもよると思いますが、酔っぱらって髪の毛を洗わないことが多かったとしても、それが直接すぐに薄毛に結び付くかといったらそうではありません」と話す。

「よく朝シャンと夜シャンのどちらがいいかということを聞かれますが、どちらが薄毛の予防に効果的かという医学的エビデンスは存在しません」(小林さん)

 なるほど、そうだったのか。ネットの「夜シャンが薄毛にはいい」などという記事を鵜呑みにして、「薄毛になるまい」と酔っても必死でシャンプーしていた自分がちょっと情けない…。

        ◇        ◇         ◇

 今回の取材で、薄毛の原因やその防止策を躍起になって聞こうとする私たちを諭すように、小林さんは、毛髪のことだけを考えるのではなく、体全体の健康を第一に考えることが何より大事なのだと繰り返し話してくれた。そして、薄毛対策においては、メンタル面、つまりストレスの影響がとても大きいのだという。

 「薄毛を気にされている人にとっては非常に難しいことですが、必要以上に気にしないでストレスをためないことが薄毛予防にはいいと言えるのです」(小林さん)

 飲酒については「適量」という縛りはあるけれど、ドクターのお墨付きがもらえたのはありがたい。これで安心して酒を飲むことができそうだ。

小林一広(こばやし かずひろ)さん
メンズヘルスクリニック東京 院長
小林一広(こばやし かずひろ)さん 1962年生まれ。北里大学医学部卒業後、同大学病院でメンタルヘルスケア中心の医療に従事。1999年に頭髪治療専門の城西クリニックを開院。精神科医として心身両面からの頭髪治療に力を注ぐ。2014年にメンズヘルスクリニック東京に名称を変更。著書に『病はケから』(幻冬舎)。
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