日経グッデイ

男こそアンチエイジング!

心臓だってウコンでアンチエイジングできる!?

肝機能改善だけではなかった、クルクミンの驚くべき効果

 伊藤和弘=フリーランスライター

 年を取ると「男らしさ」は失われていく。残念なことだが、いつまでも若い頃の外見・体力・健康は保てない。それを防ぐにはどうすればいいのか? この連載では第一線で活躍する専門家たちに、「男のアンチエイジング」の最先端を解説してもらう。
 今回のテーマは「心臓のアンチエイジング」。あるひとつのスパイスに含まれる成分がさまざまな効果を発揮することが分かってきた。それはクルクミン。心不全の進行も抑えるというクルクミンについて、順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学の堀江重郎教授と、静岡県立大学薬学部分子病態学分野の砂川陽一助教に解説してもらう。

 新年会などで酒席が増えるこの季節、ウコンのお世話になっている人も多いだろう。ウコンがアルコールの分解を速めることは医学的に確認されており、悪酔いや二日酔いを防ぐ効果は広く知られるようになった。

 その有効成分はクルクミンという黄色の色素成分。カレーが黄色いのも、ウコンにクルクミンが入っているためだ。その効果は肝機能改善だけではない。驚くべき効果が次々と明らかになり、アンチエイジング医学界で注目を集めている

 まず、がんに対する効果。すい臓がんが改善した(Clin Cancer Res. 2008 Jul 15;14(4):4491-9)など、多くの報告がある。京都医療センター整形外科診療部の中川泰彰部長たちによって、変形性膝関節症に対する効果も報告された。患者に1日180mgの高吸収型クルクミン(セラクルミン)の投与を8週間続けた結果、痛みの強さを示すVASスコアが低下したという(J Orthop Sci. 2014 Nov;19(6):933-9)。

 脳に対する効果も研究が進んでいる。クルクミンは脳内のセロトニンを増やす抗うつ作用がある(Psychopharmacology(Berl).2008 Dec;201(3):435-42)。また、アルツハイマー病は脳にアミロイドβ(ベータ)というたんぱく質がたまることで起こるが、クルクミンはこのアミロイドβがたまりにくくする(J Pharmacol Exp Ther.2008 Jul;326(1):196-208)。実際、毎日ウコンを使ったスパイス料理を食べるインドでは、アルツハイマー病の発症率が米国の4分の1しかない。

 ウコンには鉄が多く含まれているので大量にとると害があるが、クルクミン自体は安全性が高く、少々とりすぎても危険はないとされている。

 なぜクルクミンがこれほど幅広い分野で効果を発揮するのか。最大の理由は「強い抗炎症作用にある」と、順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学の堀江重郎教授は説明する。

「がんやアルツハイマー病をはじめ、多くの病気が炎症から引き起こされる。クルクミンはNF-kBという生理活性物質の働きを抑えることで体内の炎症反応を抑える」

 最近は心臓に対する作用も研究されている。クルクミンによって、心不全が改善する可能性が高いというのだ!

心不全の進行を抑える効果は薬と同じ!?

 心臓病で亡くなる人は想像以上に多い。厚生労働省の平成26年「人口動態統計」によると、心臓病はがんに続いて日本人の死因第2位。年間20万人近い人が亡くなっており、2014年に亡くなった人のうち、実に15.5%を占める(下グラフ参照)。

心臓病で亡くなる人は年間20万人近くいる(平成26年「人口動態統計」より)

 そのベースにあるのが心不全だ。

 ちなみに、心不全というと「心臓が止まること」(心停止)と誤解されることも多いが、そうではない。また、そういう名前の病気があるわけでもない。心不全とは「心臓のポンプ機能が低下し、全身に血液をうまく送り出せなくなった状態」と静岡県立大学薬学部分子病態学分野の砂川陽一助教は定義する。

 心不全には、心筋梗塞などで起こる急性心不全と、心臓弁膜症や心筋症などで起こる慢性心不全がある。慢性の場合はすぐに死ぬことはないが、むくみや息切れが起こるようになり、日常生活に支障を来す。砂川助教によると、「高齢者が心不全を起こすと、そのまま寝たきりになってしまうことも少なくない」という。

 心不全の原因のひとつが、心筋(心臓の筋肉)が厚くなる心肥大だ。心筋細胞の核の中にP300というたんぱく質があり、これが活性化することで心肥大が進む。メカニズムははっきりと分かっていないが、クルクミンにはこのP300の活性化を抑える働きがある(J Biol Chem. 2004 Dec 3;279(49):51163-71)。

 砂川助教たちは高血圧のラットと心筋梗塞のラットにクルクミンをのませ、心不全の進行を抑える効果を確認(J Clin Invest. 2008 Mar;118(3):868-78)。その効果は血圧を下げて心不全を予防する医薬品(エナラプリルマレイン酸塩)に匹敵したという(Cir J. 2010 Aug;75(9):2015-9)。

カレーは辛いほうがいい?

 その後、心肥大の患者を対象にした臨床試験も行われた。患者を2グループに分け、一方に1日60mgのセラクルミン、もう一方にプラセボ(偽薬)を半年間投与した結果、セラクルミンのグループは心臓の固さを示す指標が明らかに改善した。つまり、「心臓の筋肉が柔らかくなった。ポンプ機能が改善することで、心不全が改善する可能性がある」と砂川助教。臨床試験は現在も継続中だという。

 心臓を柔らかくして肥大を抑えるということは、“心臓のアンチエイジング”と呼んでもいいだろう。クルクミンの効果が、またひとつ発見されたわけだ。

 食事からクルクミンをとろうと思ったらカレーライスが最適だろう。クルクミンは吸収されにくいのが欠点だが、「カレーのようにスパイシーなものを食べると血流が良くなって、腸から吸収されやすくなる。なるべく辛いカレーを食べたほうがいい」と堀江教授はアドバイスする。

 体内の炎症を抑え、がんや心不全といった命にかかわる病気を予防してくれる可能性を秘めたクルクミン。飲み会の前後に限らず、辛いカレーやサプリメントで、積極的にクルクミンを補給しよう!

(イラスト/うぬまいちろう)

砂川 陽一(すながわ よういち)さん
静岡県立大学薬学部分子病態学分野 助教
2012年、京都大学大学院医学研究科博士後期課程修了。ポスドクを経て、14年8月より現職。主に心疾患発症時における心筋細胞核内の情報伝達経路や、クルクミンが転写活性化因子の活性を抑えるメカニズムなどを研究している。日本抗加齢医学会員。
堀江 重郎(ほりえ しげお)さん
順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学 教授
1985年、東京大学医学部卒業。東大病院勤務後、米国テキサス州で医師免許取得。2003年、帝京大学医学部泌尿器科学主任教授に就任。12年より現職。日本抗加齢医学会副理事長。日本メンズヘルス医学会理事長。主な著書に『ホルモン力が人生を変える』(小学館101新書)、『ヤル気が出る! 最強の男性医療』(文春新書)など。

日経トレンディネット2016年4月4日付け記事からの転載です。