日経グッデイ

男こそアンチエイジング!

子どもが欲しい? ならば、精子もアンチエイジング!

検査に行く前に自分でできる4つのセルフチェックとは

 伊藤和弘=フリーランスライター

 年を取ると「男らしさ」は失われていく。残念なことだが、いつまでも若い頃の外見・体力・健康は保てない。それを防ぐにはどうすればいいのか? この連載では第一線で活躍する専門家たちに、「男のアンチエイジング」の最先端を解説してもらう。今回のテーマは「男性不妊症」。子どもが欲しいのになかなかできない場合、全体の40~50%は男性側にも原因があることが分かっている。子どもが欲しいのに1年間できない場合は不妊症を疑ったほうがいいそうだ。帝京大学医学部泌尿器科の木村将貴講師に不妊症にならないための対策やセルフチェック方法を解説してもらう。

 子どもが欲しくても、なかなかできない――。不妊症に悩んでいる人は決して少なくない。女性だけでなく、男性側に原因がある場合も多いことは今や常識だ。「全体の40~50%は男性にも不妊の原因があることが分かっている」と、帝京大学医学部泌尿器科の木村将貴講師は指摘する。

 この連載の「精子が老化する男としない男がいる!?」でも触れたように、卵子だけでなく、精子だって老化する。

 女性に比べれば個人差は非常に大きく、中には70代で子どもをつくれる男性もいるが、「一般に男性は40歳を過ぎると精子が老化し、妊娠させにくくなってくる」と木村講師。20~50代のオランダ人男性227人の調査から、年を取るにつれて精子のDNAが壊れていく割合が増えていくことが確認されている(J Androl. 2011 Jan-Feb;32(1):70-6)。

 また、5081人の精液を調べた結果、精子の数は35歳から毎年1.71%ずつ減り、精子の奇形率は41歳から毎年0.84%ずつ増え、44歳から精子の運動率が落ちていくことも分かった(Fertil Steril. 2013 Oct;100(4):952-8)。

 晩婚化がますます進み、最近は40代で結婚する人も決して珍しくない。不妊に悩む夫婦が増えるのも当然だろう。

検査に行く前に自分でチェックしてみよう

 子どもができないこと以外、男性不妊症にこれといった自覚症状はない。「一般に子どもを作ろうと思ってから1年間できなければ不妊症」と木村講師。特に40歳を過ぎていたら早めに医療機関に行って精液検査を受けたほうがいい。

 とはいえ、精液検査はなかなかハードルが高いのも事実だ。そんなシャイな方のため、木村講師に「検査の前にできるチェック法」を聞いてみた。

1.「精索静脈りゅう」はない?
 精索静脈りゅうとは、“左の精巣(睾丸)”の上にできる静脈りゅう。解剖学的な理由から、右の精巣にできることはほとんどないらしい。まずは、左側のタマの上を触ってみよう。「静脈りゅうがあればゴワゴワした血管の束が感じられる」と木村講師は話す。

 男性の15%以上に精索静脈りゅうが見られるが、特に不妊症の男性は割合が高く、35~40%の人にあるという(Urologia. 2014 Jul-Sep;81(3):165-8)。精索静脈りゅうがあると精巣の温度が上がり、活性酸素による酸化ストレスも多くなるため、精巣の機能が落ちてしまうのだ。

2.精巣の大きさは大丈夫?
 子づくりにペニスのサイズは関係ないが、タマのサイズは無視できない。小さい場合、精子を作る力が弱いこともある。木村講師によると、「日本人の精巣のサイズは平均23cc(シーシー)。分かりやすくいえば“ウズラの玉子”より少し大きめ」という。これよりも小さくて、なかなか子どもができないときは検査を受けたほうがいいだろう。

3.きちんと精巣が陰のうに納まっている?
 停留精巣といって、精巣が腹部にとどまっている人がいる。陰のう(袋)の中に、しっかりタマが2個入っているか確認しよう。

 温度が高いと精子を作る力が落ちるので、精巣は体の表面から離れて、わざわざ外にぶら下がっている。「そのため、精巣の温度は体温より3度くらい低い。極度の肥満で陰のうが肉に埋もれた場合も、同じく機能が落ちてしまう」と木村講師は話す。

4.精管はついている?
 精管とは精巣で作られた精子を外に運ぶ管のこと。ちなみに、この精管を人工的に切断する不妊手術がパイプカットだ。ごくまれに、生まれつき精管がない人がいる。「通常は精巣の内側に直径2~3mmくらいの細いヒモがついている」と木村講師。少し分かりにくいが、入浴時などに触って確認してみるといいだろう。

 以上のチェックをしていずれかに該当した場合、男性不妊症の可能性が高い。子どもが欲しいのなら改めて精液検査を受けに行こう。このうち、精索静脈りゅうと停留精巣は手術による治療が可能だ。

 ちなみに木村講師が勤める帝京大学医学部附属病院(東京都板橋区)では、精索静脈りゅうに対して「低位結さつ術」という手術を行っている。「1時間半くらいで終わるし、手術当日に退院できる」と木村講師。詳しくは同病院泌尿器科のホームページを見てほしい。術後3カ月で精子のDNAの質が改善したという報告もある(Syst Biol Reprod Med. 2012 Oct;58(5):274-7)。

「ためすぎ」は逆効果

 精子の老化には活性酸素が大きく影響している。活性酸素は全身の老化の原因にもなっているが、特に精子は活性酸素によって酸化されやすい。木村講師たちの調査から、「精液の抗酸化力が強い人ほど精子の運動率が高い」ことが分かった(下グラフ参照)。「精子のアンチエイジング」には、活性酸素を抑えることが重要になる。

提供:帝京大学医学部附属病院泌尿器科、木村将貴講師
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 まずは規則正しい生活を心がけ、ストレスをためないこと。睡眠時間が7時間を切ると精子の質が悪くなるというデータがある。また、「夜勤が多い人は精液の所見が悪いことが多い」と木村講師は話す。

 最悪なのはタバコだ。この連載でも繰り返し触れてきたように、タバコは大量の活性酸素を発生させ、老化を促進する。子どもが欲しければ、まずは禁煙してほしい。

 ビタミンCやEなど、抗酸化作用が強い栄養素をサプリメントで補うのもいいだろう。

 「特にコエンザイムQ10は精子に含まれるミトコンドリアの活性酸素を消してくれるため、帝京大学病院でも積極的に活用している」と木村講師。27~39歳の男性不妊症患者55人を対象にした研究で、1日200mgのコエンザイムQ10を6ヵ月のむと、精子の運動率が高まることが確認されている(Fertil Steril. 2009 May;91(5):1785-92)。

 精子を作るのに必要な亜鉛やセレンのサプリメントもいい。食品では、牡蠣、レバー、アサリ、ニンニクなどに多く含まれている。

 もうひとつ、精液を「ためすぎない」こともポイントだ。

 禁欲生活を長く続けていると精液が濃くなって良さそうな気もするが、精子の寿命は3日程度。ずっとためておくと、精液中に死んだ精子が増えてしまう。「精子の運動率も悪くなるので、週に1~2回は出したほうがいい」と木村講師はアドバイスする。

 個人差が大きいとはいえ、子づくりのタイムリミットは男性にだってある。子どもが欲しい人は、本気で「精子のアンチエイジング」を心がけてもらいたい。

(イラスト/うぬまいちろう)

木村将貴さん
帝京大学医学部泌尿器科 講師
2002年、弘前大学医学部卒業。北里大学医学部泌尿器科助教、米デューク大学メディカルセンター泌尿器外科フェロー、東邦大学大森病院リプロダクションセンター客員講師などを経て、2014年より現職。日本泌尿器科学会専門医。日本性機能学会評議員。日本抗加齢医学会員。
日経トレンディネット2016年2月18日付け記事からの転載です。