日経グッデイ

男こそアンチエイジング!

“夏ごもり老化”はプラス10分歩きで解消できる?

毎日の生活の中に“ほんの少しの運動習慣”を取り入れよう!

 伊藤和弘=フリーランスライター

 年を取ると「男らしさ」は失われていく。残念なことだが、いつまでも若い頃の外見・体力・健康は保てない。それを防ぐにはどうすればいいのか? この連載では第一線で活躍する専門家たちに、「男のアンチエイジング」の最先端を解説してもらう。今回は、「暑いから」とこの夏あまり外に出なかった人は「老化」がはやまってしまうかもしれないという怖い話。“夏ごもり老化”に警鐘を鳴らす健康院クリニック(東京都中央区)の細井孝之副院長に解消方法について解説してもらう。

 夏になると暑くて食欲もわかず、たくさん汗をかくのでやせる――というのは昔の話。オフィスでも家庭でもエアコン常備が当たり前の現代では、外がいくら猛暑でも、屋内にいる分には快適に過ごせる。活動量が減るのに食べる量は減らないから、むしろ夏に太ってしまう人も珍しくない。

 「20歳を過ぎると、男性ホルモンや成長ホルモンの分泌が減り、日常の活動量も減っていくため、運動の習慣がない人はほぼ年1%ずつ筋肉が落ちていく。特に夏は外に出るのがおっくうになり、涼しい室内にこもる結果、筋肉の減り方が大きくなる。私はこれを“夏ごもり老化”と呼んでいる」と細井副院長は話す。

 筋肉が減ると基礎代謝が落ちて、食べる量が同じだと体脂肪も増えていく。これは一種の老化現象。夏に動かなくなることで、その老化がさらに加速するのが“夏ごもり老化”というわけだ。

 筋肉の減少はバカにできない。高齢になって立ったり歩いたりする機能が低下した状態を「ロコモティブシンドローム」(運動器症候群)と呼ぶが、これはメタボ、認知症と並んで「要介護をもたらす三大要因」のひとつとされる。筋肉不足で転倒して骨折し、そのまま寝たきり状態になってしまう高齢者も多い

 放っておくと減ってしまう筋肉の減少を抑えるには、“運動”するしかない

運動しないと、筋肉が減るだけでなく、骨密度も下がっていく

 細井副院長によると「運動しないと筋肉が減るだけでなく、関節も硬くなるし、骨密度も下がっていく」という。一方、閉経して骨密度が下がった女性たちを対象にした調査からは、運動によって大腿骨や腰椎の骨密度が上がることも確認されている(Cochrane Database Syst Rev. 2011 Jul 6;(7):CD000333)。

 運動は筋肉の減少を抑え、肥満を防ぐだけではない。筋肉に刺激を与えると男性ホルモンの分泌が高まる。また、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、がん、認知症など、多くの発症リスクを下げることが確認されている。

 とはいえ、運動の習慣を持たなかった人が“運動を続ける”のは、“禁煙”以上に難しいのは読者諸兄もよくご存じの通り。一念発起してジョギングを始めたりスポーツクラブに入ったりしても、三日坊主で終わってしまう人が後を絶たない。

 長続きしない最大の原因は、いきなりハードルを上げすぎることだろう。

 かつて「有酸素運動は30分以上続けないと意味がない」などと言われた。しかし、筋肉に刺激を与えるという点で考えればそんなことはない。最近のスポーツ医学では、「運動は少しだけでも効果がある」ことが明らかになっている。

 WHO(世界保健機関)では「週150分以上の運動」を推奨している。米国の国立がん研究所が約66万人のデータを分析したところ、「週150分に満たないが運動の習慣はある」人も、まったく運動しない人に比べると死亡リスクが20%低かった(JAMA Intern Med. 2015 Jun;175(6):959-67)。

 18~100歳の5万5137人を15年間追跡した疫学調査から、「1日わずか5分のランニング」でも、まったく運動しない人に比べて死亡リスクが3割も下がることが確認されている(J Am Coll Cardiol. 2014 Aug 5;64(5):472-81)。

日常生活に10分の散歩を加えるだけでOK!?

 あえて特別な運動をしなくても、「歩く」だけでもいい。4757人を日中の活動量によって4グループに分けて調べた結果、動かない時間が長くなるほど、ウエストが太くなり、コレステロール値や心疾患リスクが高くなっていた(Eur Heart J. 2011 Mar;32(5):590-7)。米ミズーリ大学の研究から、「1日1万歩歩くと血管内皮機能が改善し、動脈硬化の予防につながる」ことも分かっている。

 2013年から始まった厚生労働省の「健康日本21(第2次)」では、平均的な摂取カロリーをもとに、成人男性の1日の目標歩数を「9000歩」としている。これは有酸素運動のウオーキング(早歩き)ではなく、日常的な歩行だ。

 時速4km、歩幅70cmという普通のペースで歩いた場合、約10分で1000歩になる。つまり、90分歩けば9000歩というわけだ。

 そう聞くと、「毎日1時間半なんて無理!」と思う人もいるだろう。しかし、ちょっと待ってほしい。これはあくまで1日の合計歩数。ウォーキングのような早歩きでもない。

 2013年に行われた「平成25年国民健康・栄養調査」によると、30~50代男性の1日の平均歩数は8025歩だった(30代8274歩、40代8216歩、50代7586歩)。あくまで平均値だけど、みなさん意外とたくさん歩いてるじゃないですか! 目標歩数の9000歩まではあと1000歩。つまり、「あと10分」だけ歩けばいい計算になる。

「平成25年国民健康・栄養調査」より引用
[画像のクリックで拡大表示]

 筋トレや本格的な有酸素運動を続けるのは大変だが、「10分の散歩」なら時間的にも精神的にもずいぶんハードルは低い。今まで運動の習慣がなかった人は、まずここから始めてみてはどうだろう。

(イラスト/うぬまいちろう)

細井孝之さん
健康院クリニック(東京都中央区) 副院長
1981年、千葉大学医学部卒業。米バンダービルト大学研究員、東京大学医学部老年病学講師、東京都老人医療センター内分泌科部長、国立長寿医療研究センター臨床研究推進部長などを経て、2013年より現職。予防医療研究所所長。日本骨粗鬆症学会理事。著書に『老化か?病気か?それが問題だ。』(マガジンハウス)など。
日経トレンディネット2015年9月11日付け記事からの転載です。