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男性生殖器の病気:前立腺の病気

前立腺肥大症

ぜんりつせんひだいしょう、Benign prostatic hyperplasia

野口 和美

どんな病気か

 前立腺は膀胱(ぼうこう)の下部、尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)の奥にあり(図2)、クルミ大(約15g)の臓器で、男性生殖器官のひとつです。ほぼ中央を尿道が貫いています。前立腺部の尿道には精巣から精子を運んでくる精管が開いています。

 射精の際には、精管、精嚢(せいのう)、前立腺からの液体が混ざり合った精液が、まず前立腺部尿道に流れ出してきます。次いで膀胱側へ精液が逆流しないように膀胱頸部および前立腺部尿道が閉じ、尿道から外尿道口に向けて、精液が射出されます。

 前立腺肥大症は前立腺の内側の部分が腫大(しゅだい)(前立腺腺腫(ぜんりつせんせんしゅ))する病気です。前立腺腺腫は数十gのことが多いのですが、なかには100gを超す大きなものもあります。前立腺が腫大すると尿道が圧迫されて尿道抵抗が高まり、尿の勢いが悪くなります。また閉塞に伴う膀胱機能の変化により、排尿困難以外に頻尿、尿意切迫感、夜間頻尿などのいわゆる刺激症状も出現します。最悪の場合には尿がまったく出なくなってしまいます。この病態を尿閉(にょうへい)と呼びます。

原因は何か

 60歳以上の人に多くみられる疾患です。30~40代ではまずみられません。

 私たちの調査では、50~65歳の男性の約15%、65~80歳の男性の約25%が中等症以上の臨床症状を伴う前立腺肥大症の患者さんであることが想定されています。男性ホルモンの存在と加齢が前立腺肥大症の発生と進行に影響していることは疑いの余地のないところです。しかしながら、いくつかの仮説はありますが原因の詳細は明らかではありません。

症状の現れ方

 ①第1病期(膀胱刺激期(ぼうこうしげきき))

 尿道の奥や会陰部(えいんぶ)の不快感、夜間の排尿が2回を超える頻尿(ひんにょう)、尿意を感じるとがまんができない尿意切迫感、尿が出始めるまでに時間がかかる、尿線が細く、尿が出終わるまでに時間がかかるなどの症状がみられる時期をいいます。

 ②第2病期(残尿発生期(ざんにょうはっせいき))

 前立腺腺腫が大きくなり排尿困難の程度が増すと、膀胱にたまった尿を排出しきれなくなり、残ってしまいます。これを残尿と呼びます。残尿があると細菌感染が起こりやすくなり、また膀胱内に結石ができやすくなります。出血(血尿)することもあります。過度の飲酒や冷え、長時間座りっぱなしでいること、などにより突然尿が出なくなってしまう(尿閉)ことがあります。

 ③第3病期(完全尿閉期(かんぜんにょうへいき))

 さらに前立腺腺腫が大きくなると、膀胱排尿筋(ぼうこうはいにょうきん)の収縮作用では尿の排泄ができなくなってしまいます。膀胱は常に高度に拡張して残尿量が300~400ml以上になり、膀胱内圧に負けて尿が絶えず少量ずつもれ出してしまうようになります。このようになると腎臓からの尿の流れも妨げられて、腎機能障害を起こしてきます。

 このように前立腺肥大症では尿の勢いが悪くなることに伴い、さまざまな症状が現れます。1992年に米国泌尿器科学会で提唱された国際前立腺症状スコア(表1)に基づき、いろいろな自覚症状をアンケート形式で患者さんに聞いて点数化し、病気の重症度を評価します。

検査と診断

 前立腺がんの除外診断

 50歳以上の人で排尿障害を訴える患者さんでは、まず前立腺がんの除外診断が大切です。血液中の前立腺腫瘍マーカー(PSA)の値を測定することが重要です。肛門から指を入れて、経直腸的に前立腺を触診することもがんの鑑別診断に大切な検査です。

 ②前立腺肥大症の評価

 a.基本的評価

 全般的な健康状態の評価に加えて、脳梗塞(のうこうそく)、脳出血(のうしゅっけつ)、脊髄(せきずい)疾患や糖尿病など、排尿障害を来す合併症や既往症の有無、副作用として排尿障害を引き起こす薬剤(コラム)の服用がないかどうかを確認します。尿検査と腎機能検査を行います。

 b.前立腺肥大症の重症度の判定

 ・国際前立腺症状スコア(IPSS)…7種類の自覚症状の強弱をそれぞれ点数化したものです。ひとつの症状につき6段階(0~5点)に点数化されています。合計点で評価します。最も症状の強い人は35点になります(表1)。

 ・QOLスコア…患者さんがどれほど日常生活に困っているかを7段階(0~6点)の点数により評価します(表1)。

 ・最大尿流量率…排尿時の尿線の勢いを調べる検査です。記録器械に接続された小用便器に排尿してもらうだけで、1秒間に最大何mlの尿が排出されたか記録されます。

 ・残尿量…排尿後にどのくらいの量の尿が排泄されずに残っているか、超音波で検査します。

 ・前立腺容積…前立腺が腫大しているか否かを超音波検査で調べます。前立腺の腫大が認められない場合は、膀胱の排尿機能の異常や尿道狭窄(にょうどうきょうさく)などの鑑別診断を行います。

 これら5つの項目から前立腺肥大症の重症度を判定します(表2)。

治療の方法

 前立腺がんとの区別が最も大切なことです。がんの可能性が否定されれば、前立腺肥大症に対していろいろな治療法があります。症状の程度とそれによってどのくらい患者さんが困っているかにより治療方法が決定されます。日常生活上、困っていなければ治療の必要はありません。すなわち治療しないで経過を観察するのも選択肢のひとつです。

 ①手術

 手術には大きく分けて2つの方法があります。下腹部を切開して腫大した前立腺腺腫を摘出する方法(開腹手術)と、尿道から内視鏡を挿入して前立腺腺腫を切除する方法(TUR‐P、TUEB)があります。TUR‐Pは前立腺をかんなで削るように少しずつ内視鏡で切除します。TUEBは前立腺腺腫を一塊として内視鏡で剥離摘出します。前立腺肥大症のために、繰り返す尿閉、膀胱結石の形成、出血を繰り返す、治療困難な尿路感染、腎機能障害のいずれかを認める場合は手術をすすめます。開腹手術は大きな前立腺腺腫に対して選択されます。

 手術により最大尿流量率は2~3倍になり、最も治療効果が期待できる治療法です。

 <レーザー手術>

 レーザー手術は術中の出血が少なく、入院期間が短い、低侵襲(ていしんしゅう)な手術として考案されました。レーザー手術には、レーザー照射により前立腺腺腫を凝固壊死あるいは蒸散させる方法(ILCP、HoLAP、PVP、など)と、レーザーを用いて前立腺腺腫を摘出する方法(HoLEP)とがあります。いずれも内視鏡で行います。凝固あるいは蒸散させる方法では、出血が少なく入院期間が短いという利点はありますが、大きな前立腺腺腫には不向きです。HoLEPは手術の項に記載したTUEBをレーザーを使って行う治療です。

 ②薬物療法

 前立腺部の尿道の圧迫を緩(ゆる)める作用をもったα1ブロッカーと、腫大した前立腺を縮小させるアンチアンドロゲン薬と5α還元酵素阻害薬、植物製剤、漢方薬があります。

 α1ブロッカーはもともと降圧薬として使われていた薬剤から開発されました。効果がすみやかに発現しますが、立ちくらみ、射精障害などの副作用があります。アンチアンドロゲン薬は効果発現までに1~2カ月かかります。男性ホルモン値を若干低下させる作用があり、インポテンツなどの副作用があります。5α還元酵素阻害薬は男性ホルモンの活性化を阻害する薬剤で、性欲減少、勃起障害の副作用があります。しかし、いずれも安全性の高い薬剤です。

 植物製剤、漢方薬は切れ味は今ひとつですが、副作用の心配はほとんどありません。

 ③その他の治療法

 a.尿道ステント

 心臓や肺の合併症のため麻酔をかけることが危険な患者さんのために、狭くなっている前立腺部尿道に筒状の形状記憶合金のメッシュ(ステント)を置いて、尿の通り道を確保する方法です。簡単に留置できますが、結石の形成、感染、出血などの合併症をみることがあります。

 b.導尿(どうにょう)

 尿閉となって手術をすすめられたがどうしても手術はいやという方や、手術が危険で不可能という場合には、やむを得ずカテーテルという管を尿道から膀胱に通します。常時カテーテルを留置する方法と、間欠的自己導尿(かんけつてきじこどうにょう)といって尿意をもよおした時に自分で(あるいは介護者により)管を通して導尿する方法とがあります。

病気に気づいたらどうする

 場合によっては治療せずに経過観察でもよい病気です。自分のどのような症状をどの程度よくしてもらいたいのか、主治医とよく相談して治療方法を決めてください。しかし、まったく同じ症状でも前立腺がんのことがあるので、前立腺がんの除外診断だけは泌尿器科で受けておいてください。

 なお、日常生活上の注意点は次の7点です。

 ・排尿をがまんしないように。

 ・便秘をしないように。

 ・適度な運動を。

 ・適度な水分を。

 ・過度のアルコールはひかえる。

 ・刺激の強い食事はひかえる。

 ・新しい薬をのむ時は医師に相談する。

図2 前立腺の位置
表1 前立腺肥大症の重症度判定( 1 )
表2 前立腺肥大症の重症度判定( 2 )
排尿障害を来す薬剤

 副作用として排尿障害を来す可能性のある薬剤を以下に示します。前立腺肥大症の人が他の疾患で新たに薬の処方を受ける場合には、前立腺肥大症であることを伝えて排尿障害を起こさない薬剤を処方してもらってください。

 ・感冒薬(市販されているかぜ薬のほとんどに排尿障害がみられます)

 ・抗ヒスタミン薬(鼻炎や皮膚炎などアレルギー疾患に対して処方されます)

 ・パーキンソン病治療薬

 ・抗うつ薬などの向精神薬

 ・頻尿、尿失禁治療薬

 ・消化管の鎮痙(ちんけい)薬(胃腸の痛み止めです。消化管の検査の前にも使います。下痢止め、吐き気止めとして処方されることもあります)

 ・精神安定薬、睡眠薬

 ・抗不整脈薬

 ・気管支拡張薬(気管支喘息(ぜんそく)の治療で処方されます)

野口和美

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