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食道・胃・腸・肛門の病気:肛門の病気

肛門がん

こうもんがん、Anal cancer

山名 哲郎

どんな病気か

 肛門の入り口から約3㎝にわたる管状の部分(肛門管)に生じるがんを総称して、肛門がんといいます。大腸がん(結腸がん、直腸がん)に比べると、その頻度はまれです(大腸がんの約4%)。

 組織型からみると、肛門がんの大部分は扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん(図30)ですが、肛門管の上皮は多様な上皮組織が存在するため、腺がん、類基底細胞(るいきていさいぼう)がん、悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)(コラム)、パジェット病(ページェット病)(コラム)、ボーエン病(コラム)など、さまざまなタイプのがんが発生します。

 がんの発育形式は、肛門管のなかから発生した管内型と、肛門管の外から発生した管外型に分類されます。

 一般的に、肛門がんは60~70歳に最も多く発生します。肛門管の上部にできるがんは比較的女性に多く、肛門縁(こうもんえん)にできるがんは男性に多くみられます。

原因は何か

 肛門がんが発症する原因は、大腸がんやほかのがんと同様、まだよく解明されていません。一部の肛門上皮内がんや扁平上皮がんは、ヒトパピローマウイルスの感染と関連して発症することが知られており、なかでもHIV(ヒト免疫不全ウイルス)陽性者や男性同性愛者は、発症のリスクが大きいといわれています。

 また、大きな尖圭(せんけい)コンジローマや長期間にわたる複雑痔瘻(ふくざつじろう)(コラム)に合併して、肛門がんが発生することもまれにあります。

症状の現れ方

 主な症状は、しこり、かゆみ、出血、疼痛、粘液分泌、便通異常(便秘便失禁)などです。時にこれらの肛門の症状がなく、鼠径部(そけいぶ)のリンパ節のはれがみられることもあります。

 これらの症状は、最初は軽度であっても、徐々に進行していくのが肛門がんの特徴です。

検査と診断

 検査は、まず肛門部の診察を行います。肛門管内の病変は、指診で比較的硬い腫瘤(しゅりゅう)(しこり)として触れ、肛門鏡を使用した診察では腫瘤や潰瘍をみることができます。

 肛門縁の病変は、左右の臀部(でんぶ)を広げた状態でよく観察すると、腫瘤や潰瘍、また紅斑(こうはん)や潰瘍を伴う湿疹、丘疹(きゅうしん)や鱗屑(りんせつ)などの皮膚病変がみられます。

 このように肛門診察で、痔疾患や通常の肛囲湿疹(こういしっしん)と異なる外観を示した病変がみられ肛門がんが疑われる場合は、組織の一部を採取する検査(生検)を行い、顕微鏡的に組織を調べて診断を確定します。

 肛門が高度に狭窄(きょうさく)していたり、強い痛みがある場合には、腰椎麻酔(ようついますい)をして生検を行うこともあります。

 画像検査としてはCT、MRI、肛門管超音波検査などが行われ、局所の病変の広がりや転移病変の有無を調べます。

治療の方法

 ●扁平上皮がん

 扁平上皮がんの治療方針は、がんが小さく肛門括約筋まで浸潤(しんじゅん)していない場合は、局所切除により完治が見込めます。

 がんが肛門括約筋まで浸潤している場合、以前は永久的人工肛門造設を伴う直腸切断術が行われていました。しかし、扁平上皮がんは放射線感受性が強く(効果がある)、フルオロウラシル(5‐FU)やマイトマイシンなどの抗がん薬と併用した放射線療法(30~60グレイ)が非常に有効であるため、現在では抗がん薬を併用した放射線療法で肛門を残す治療が推奨されています。

 この治療の予後は5年生存率が70%を超え、合併症も少なく肛門の括約筋機能も残ります。照射後、がんが消失し、生検でがん細胞が残っていなければ、治療終了となります。

 がんが残っている場合には、直腸切断術などの根治的切除を行いますが、残った部分が非常に小さい場合は、再度化学放射療法を行い、永久的人工肛門を造設しなくてもよい場合もあります。

 ●その他

 パジェット病ボーエン病は、がんの発育がゆっくりで悪性度も低いため、上皮内だけに存在しているものは広範囲局所切除を行えば、予後は良好です(コラム)。

 腺がんや粘液がんに対しては、直腸がんに準じた外科的治療(直腸切断術、局所切除術など)を行います。一般に大きさが2㎝以下でリンパ節転移を伴わなければ、予後は比較的良好です。

 悪性黒色腫は、直腸切断術または局所切除術を行いますが、ほかの臓器へ転移しやすく進行も早いため、極めて予後不良です(コラム)。

病気に気づいたらどうする

 肛門部の症状がある時は、自己判断をせずに肛門科または外科を受診することが大切です。痔や湿疹だろうと自分で思い込み、市販薬で治療していると病気が進行してしまうことがあります。

 日ごろの生活では、肛門部の清浄の際にしこりや痛みがないかどうか、注意しておくとよいでしょう。

図30 肛門がん(扁平上皮がん)
悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)

 悪性黒色腫は、皮膚の色素細胞(メラノサイト)から発生する皮膚がんの一種です(図31)。最も多くみられるのは足の裏ですが、肛門にもまれに発生することがあります(悪性黒色腫全体の1.5%)。悪性黒色腫は、腫瘍が小さくても肺、肝、脳、骨、リンパ節、皮膚に早期に転移しやすく、予後の極めて悪い病気です。

 肛門部の悪性黒色腫は、痔疾患に伴って偶然に発見される場合もありますが、腫瘍が大きくなると痛み、出血、しこりなどの症状がみられます。鼠径部(そけいぶ)に硬いリンパ節を触れることもあります。

 診断は組織検査によって確定します。血行性に転移しやすいため、悪性黒色腫が疑われる場合は外来でむやみに生検せず、手術が行える準備のもとに入院し、ただちに迅速組織診断が行われます。

 治療は、ほかに転移がみられなければ、鼠径リンパ節郭清(かくせい)を伴う直腸切断術、または局所切除術が行われます。抗がん薬による化学療法は、切除したあとの再発や転移を予防する目的で行われます。放射線療法は、悪性黒色腫には効きにくいと考えられていますが、皮膚転移に対して温熱療法と組み合わせて行われることがあります。

山名哲郎

図31 肛門の悪性黒色腫
乳房外パジェット病

 パジェット病(ページェット病)は、アポクリン腺管の上皮から発生し、表皮に移動した細胞(パジェット細胞)が真皮内で悪性化したものです。乳房に最も多くみられますが、乳房以外にも肛門周囲、大陰唇(だいいんしん)、陰茎(いんけい)、陰嚢(いんのう)、鼠径部(そけいぶ)、腋窩(えきか)にみられることがあります。

 肛門周囲のパジェット病は非常にまれで60代や70代に多く、境界が比較的はっきりした紅斑や湿疹のようにみえ、時に落屑様(らくせつよう)(皮膚がぽろぽろむける)のこともあります。

 症状はしつこいかゆみが出ることが多く、肛門掻痒症(こうもんそうようしょう)(肛囲湿疹(こういしっしん))と似ていることから、パジェット病の診断が遅れることがしばしばあります。またボーエン病(コラム)と同様に、しばしば内臓の悪性腫瘍を合併することがあります。

 診断は、生検で特徴的なパジェット細胞を見つけることにより確定します。パジェット細胞はムコプロテインを含んでおり、これを染める特殊な染色法を行って診断します。

 治療は局所切除が行われます。切除範囲が広範囲に及ぶ場合は、皮膚移植が行われる場合もあります。皮下組織に浸潤した病変では、直腸切断術が行われます。局所に限局したものの予後は良好ですが、肝臓や肺、骨などに転移すると予後は不良です。

山名哲郎

肛門部ボーエン病

 肛門周囲の皮膚のボーエン病は、ゆっくりと進行する真皮内の扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん(上皮内がん)です。外観は肛門周囲の皮膚の慢性湿疹のようにみえます。年齢的には60代に最も多く発症します。

 ボーエン病は、子宮頸がんと同じようにヒトパピローマウィルスが原因であることが最近になってわかってきました。このウイルスは100種類以上のタイプがあり、ある種のタイプ(6型、11型)は尖圭(せんけい)コンジローマという肛門や性器に小さないぼの集まりができる病気の原因となるウイルスですが、別のタイプ(16型、18型など)は子宮頸がんの原因となります。現在ではボーエン病は、この子宮頸がんの原因となるウイルスと同じタイプが肛門の上皮に感染して発症する肛門扁平上皮がんの前がん状態(上皮内がん、異型上皮)と同じ疾患であると考えられています。

 症状としては、かゆみ、焼灼感(しょうしゃくかん)、斑点様の出血などがみられます。肉眼では不連続な紅斑、または褐色で表面が湿潤した瘢痕様(はんこんよう)の外観を示します。

 確定診断には、病変部の広範囲な生検が行われます。上皮内の扁平上皮がんで特徴的なボーエン様細胞がみられると、ボーエン病と診断されます。

 治療は外科的切除が原則です。肉眼で見えている以上に広がっていることがあるため、広範囲な局所切除術が行われます。皮膚や肛門上皮の欠損が大きい場合は、皮膚移植も行われます。局所再発した場合でも、再度局所切除することで治癒します。予後は比較的良好です。

山名哲郎

痔瘻(じろう)がんとは

 長期間にわたり(多くは10年以上)、複雑痔瘻(ふくざつじろう)を放置していると、まれにそこからがんが発生することがあり、これを痔瘻がんといいます。痔瘻の炎症が慢性刺激となって細胞機構に障害が生じ、細胞の悪性変化を引き起こすためと考えられています。

 痔瘻がんと診断する場合は、ほかに直腸がんや結腸がんが存在しないことが条件になります。組織型は粘液がんが最も多く、ついで腺がん、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんの順になります。痔瘻がんが発生する痔瘻のタイプは、坐骨直腸窩痔瘻(ざこつちょくちょうかじろう)や骨盤直腸窩痔瘻(こつばんちょくちょうかじろう)が大半を占めます。

 痔瘻がんの症状としては、複雑痔瘻が長期にわたってうみを出したり、はれたりを繰り返しているうちに、新たに持続的な疼痛や便が出にくくなる狭窄(きょうさく)症状が現れます。また、肛門部にこれまでなかった硬結(こうけつ)(硬い部分)やゼラチン状の分泌物(コロイド)を自覚します。

 診断は、腰椎麻酔(ようついますい)で硬結部や瘻口(ろうこう)部の組織の生検を行います。コロイドの細胞診から確定診断されることもあります。

 痔瘻がんの治療は、直腸がんに準じた永久的人工肛門を伴う直腸切断術を行います。局所再発を予防するために、術後に化学療法や放射線療法を行うこともあります。痔瘻がんは、局所のがんが進行していることが多いため、局所再発を来しやすく、5年生存率は約40%で、直腸がんやほかの肛門がんと比べると予後は不良です。

 典型的な症例

 65歳の男性です。約30年前から肛門のまわりに硬い部分があり、そこから時々うみが出ていたのですが、とくに痛みもなく生活に支障がなかったため放置していました。近ごろだんだんと便が出にくくなってきたことを気にしていたところ、最近になって痛みを伴うようになったため病院を受診しました。

 初診時の肛門診察では、肛門の縁にやや大きなうみの出口(痔瘻の二次口)を認め、通常の痔瘻ではみられないゼラチン様の物質の排出がありました。また、直腸指診では直腸の壁は腫瘤(しゅりゅう)状に硬く狭くなっていました。

 以上により、複雑痔瘻(骨盤直腸窩痔瘻)に合併した痔瘻がんが疑われたため、腰椎麻酔をして生検を行い、粘液がんと確定診断しました。後日、根治的切除術としての直腸切断術が行われました。

 一般的に、通常の痔瘻からがんが発生することは極めてまれです。痔瘻があるからといって、がんを心配することはありませんが、このように長期間にわたって複雑痔瘻を放置していたケースで、まれにがんが発生することがあります。

山名哲郎

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