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眼の病気:ぶどう膜の病気

トキソプラズマ性網脈絡膜炎

トキソプラズマせいもうみゃくらくまくえん、Toxoplasmic chorioretinitis

尾崎 志郎

どんな病気か

 トキソプラズマと呼ばれる単細胞の原虫(げんちゅう)による眼の寄生虫感染症です。この原虫は、網脈絡膜炎の主要な原因のひとつです。

 先天性感染と後天性感染があります。一般的には先天性の両眼性のタイプや、それらの瘢痕病巣(はんこんびょうそう)の再発が主ですが、近年は免疫不全状態の人、とくに後天性免疫不全(こうてんせいめんえきふぜん)症候群エイズ)の人での発症が注目されています。

原因は何か

 このトキソプラズマは、日本人では約30%の人が体内にもっていると報告されています。ただし、この場合は症状を示しません(不顕性(ふけんせい)感染)。

 問題となるのは先天性感染の場合です。いまだ感染していない妊婦の人が、寄生虫をもつネコやイヌ(それらの糞便(ふんべん)に寄生虫が存在)に触れたり、生肉の摂取、取り扱いにより感染することがあります。これらが胎盤経由で胎児に感染すると、全身トキソプラズマ症になり、眼の症状として、とくに黄斑部(おうはんぶ)に網脈絡膜症が生じます。

 後天性の場合は、その原因はいまだはっきりとはわかっていません。免疫力が落ちた場合に発症することが多いといわれています。

症状の現れ方

 症状は、先天性と後天性で異なります。先天感染の場合は、眼球振盪(がんきゅうしんとう)、斜視(しゃし)などを合併し、病変が黄斑部(網膜のいちばん感度のよい部分)を侵すために、視力障害が生じます(図29)。また、先天感染の瘢痕病巣が再発した場合は、飛蚊症(ひぶんしょう)(コラム)や視力低下の症状が生じてきます。

 エイズの人などに起こる後天感染では、激しい硝子体混濁(しょうしたいこんだく)、前眼部の炎症による痛み・羞明(しゅうめい)(まぶしく感じる)、飛蚊症、視力低下が起こります。

検査と診断

 この病気の診断で重要なのは、眼底検査と血清学的な検査です。典型的な眼底像は、先天感染では黄斑部に存在する境界明瞭な壊死性(えしせい)瘢痕病巣であり、その再発の場合は、瘢痕病巣に隣接する滲出(しんしゅつ)病変の存在です。

 近年増加している後天感染では、限局性滲出性網脈絡膜炎(げんきょくせいしんしゅつせいもうみゃくらくまくえん)の形をとりますが、陳旧性(ちんきゅうせい)(発症してから時間が経過している)の病変は伴わないのが特徴です。後天性のなかには、視神経乳頭周辺滲出物(ししんけいにゅうとうしゅうへんしんしゅつぶつ)、硝子体混濁、切痕状(せっこんじょう)視野欠損を3主徴とするイエンセン病があります。

 これら眼底病変に加え、先天感染、後天感染ともにトキソプラズマ血清抗体価(IgG、IgM)の上昇が診断にとって重要です。

治療の方法

 日本ではこの病気に対し、アセチルスピラマイシンの内服治療が行われます。約4~6週間内服し、効果がある場合は継続します。発症に免疫反応が関与していることが示唆されているので、ステロイド薬の内服を併用する場合もあります。

 先天性またはその再発の場合、診断・治療方針は、ほぼ確立されています。問題は後天感染の場合です。先天性のような典型的な眼底像を伴わないため、診断に苦慮することが多いのが現状です。

 また、前述したように発症原因もいまだ明らかではありません。しかし、その背後に何らかの免疫不全状態があると考えられ、それによる不顕性感染の顕性化(今まで体内にいて病気を起こさなかったものが突然に病気を引き起こすようになること)が指摘されています。このような場合、背後に何らかの全身性の病気が隠れていないかを調べることが重要です。

図29 先天性トキソプラズマ性網脈絡膜炎(右・左)による黄斑部瘢痕病巣(矢印)
飛蚊症(ひぶんしょう)

 飛蚊症はよくある症状で、心配になって眼科を受診する人もたくさんいます。しかし、大半はとくに病気とは関係がないものです。

 普通の飛蚊症は、硝子体(しょうしたい)のにごりが網膜に投影されて見えるもので、大人では多かれ少なかれ誰でもあるといっていいものです。硝子体は透明な組織とされていますが、完全に透明というわけではないからです。年齢とともに、そして近視が強いほど、硝子体には繊維の塊のようなにごりが出やすくなります(図48‐a)。

 飛蚊症は、晴れた空のように明るい背景、白っぽい背景でよく見えます。また、後部硝子体剥離(はくり)が起こると、視神経乳頭(ししんけいにゅうとう)の部分からはがれた厚くてリング状の後部硝子体皮質(ワイスリング)が飛蚊症の原因になります(図48‐b)。

 この場合、輪状ないし楕円状の濃い影が視野の中心あたりを縦横に動きまわるので相当気になるようですが、これもとくに病気とはみなされません。「何とかしてほしい」という人もいますが、「どうにもなりません」といって納得してもらうしかありません。そのうち、あまり気にならなくなるものです。

 飛蚊症を訴えて受診する人の大半が病的ではない、というのは眼科医が共通して抱いている認識です。しかし、時に飛蚊症は重大な病気のサインになります。

 網膜剥離では、飛蚊症が前駆症状になることがめずらしくありません。硝子体の牽引(けんいん)に伴って網膜に裂孔(れっこう)ができる時、必ず網膜の血管は破綻(はたん)して出血します。破綻する血管の太さや性質で量は違いますが、多かれ少なかれ出血が起こり、眼球の内部、硝子体腔へと拡散します。その出血が飛蚊症として自覚されるわけです(図48‐c)。この場合の飛蚊症は、しばしば「墨を流したような」と形容されます。

 また網膜剥離では、飛蚊症と相前後して光視症(こうししょう)(ぴかぴか光って見える、光が走るなどの症状)を自覚することもあります。光視症は、網膜が強く引っ張られるために起こる異常放電が原因と考えられています。顔面の打撲などで「眼から火が出る」というのがありますが、それも同じ理屈です。

 墨を流したような飛蚊症、光視症を自覚したら、ただごとではないと思ったほうがよいでしょう。早急に眼科医に受診する必要があります。

河野眞一郎

図48 飛蚊症の原因

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