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脳・神経・筋の病気:運動の異常を主症状とする病気

遺伝性脊髄小脳変性症

いでんせいせきずいしょうのうへんせいしょう、Hereditary spinocerebellar ataxia

児矢野 繁、黒岩 義之

どんな病気か

 脊髄小脳変性症とは、歩行時のふらつきや話す時にろれつが回らなくなるような症状に加え、手足が震えたり、足の突っ張りや眼の動きに制限があるといったように、さまざまな症状が複合して進行していく病気です。原因となる病巣は小脳、脳幹(のうかん)、脊髄であり、これらの部位の神経細胞が変性を来すことによって症状が現れるといわれています。

 単一の病気ではなく、それぞれ原因が異なる病気で、脊髄小脳変性症とはその総称です。遺伝性のものには常染色体優性(じょうせんしょくたいゆうせい)遺伝のものと劣性(れっせい)遺伝のものとがあります。優性遺伝のものについては、現在30種類以上もあるといわれており、それぞれその症状は異なりますが、何十年もかけて症状が進んでいくという点で共通しています。

 分類については現在SCA(脊髄小脳性の運動失調)に1から番号がつけられており、日本ではSCA3(マシャド・ジョセフ病)が最も頻度が高い疾患で、小脳性運動失調と腱反射の亢進を特徴としています。

原因は何か

 現在のところ、原因は不明です。最近、その遺伝子レベルの研究が盛んに行われており、原因遺伝子の解明が少しずつ進んでいます。ただし、その原因蛋白の機能や脳内でのはたらきなど不明な点が多いのが現状です。

症状の現れ方

 症状の現れ方は疾患ごとに異なりますが、同じ疾患でも遺伝子の微妙な違いによって症状は異なります。原因遺伝子のなかにグルタミンをコードする遺伝子CAGが異常に伸長するという共通の特徴をもった疾患群(コラム「遺伝子の検査」)があり、この伸長が長ければ長いほど症状が早く現れるといった特徴があります(表現促進現象と呼ばれる)。

 症状は疾患によってさまざまですが、ほとんどの疾患では歩行の障害で始まり、その後、言葉の障害や手の障害が加わり、これらの症状が徐々に進行するといわれています。

検査と診断

 診察で脊髄小脳変性症の疑いがあれば、血液検査と画像検査で他の疾患(たとえば脳梗塞(のうこうそく))を区別し、症状とMRIの検査である程度の診断は予想されます。発症年齢や家族歴から遺伝性が疑われたら、最終的には遺伝子検査で診断をつけますが、遺伝子が解明されていないものも約3分の1あるので、遺伝子検査でも診断がつかない場合もあります。

治療の方法

 現在のところ、根本的な治療法はありません。運動失調の改善と症状の進行の抑制を目的とした治療薬がありますが、効果については個人差があるようです。今後は遺伝子を利用した治療や再生医療の発展が治療の鍵になると思われます。

病気に気づいたらどうする

 この疾患を疑わせるような症状に気づいたら、ただちに専門医の診察を受けることをすすめます。区別すべき疾患がほかにあり、診断によっては治療法が異なるので、確実な診断が必要です。

関連項目

 錐体路と錐体外路神経難病

遺伝子の検査

 遺伝とは何らかの素因が子孫に受け継がれることで、病気も遺伝する場合があります。家族に同じ病気の人がいる場合は、遺伝性の病気を考える必要があります。

 遺伝性の病気は、遺伝子の異常で発症します。遺伝子は細胞内のDNAという物質から成り立っており、これが子孫に伝わります。異常な遺伝子が子孫に伝われば、家族に同じ病気が発症することになりますが、子孫が発病する可能性は病気の種類や遺伝の形式(遺伝の伝わり方)によって異なります。

 遺伝性の病気で遺伝子に何が起こっているかは病気によってさまざまで、複雑です。遺伝性の脊髄小脳変性症では、DNAの塩基(A、G、C、Tの4種類)という部分の3つずつの反復が異常に増えたもの(CAGCAGCAG……など)が病気の原因になります。3つずつの反復という意味で、これらはトリプレット・リピート病とも呼ばれています。

 遺伝子検査では、患者さんの血液からDNAを取り出し、特殊な方法で異常の有無を確認しますが、それが従来知られている遺伝子の異常と同じであれば、その病気の可能性が強くなります。

 実際、患者さんに検査を受けてもらうかどうかは非常に難しい問題です。選択は患者さんの自由で、承諾をいただかないかぎり医師が検査をすることはありません。

 検査で遺伝性の病気と確認された場合、患者さんによっては“知らないほうがよかった”と感じることがあるかもしれません。患者さんには“知らなくてよい権利”、“知りたくない権利”というものがあります。家族の考えもあるでしょうが、家族に相談しにくい問題でもあります。

 一方、検査をして自分の病気を知りたいと考える人もいるでしょう。また子どもが同じ病気になる可能性がある場合、そのカップルには正しい情報を提供すべきです。

 いずれにしても主治医とよく相談し、慎重に検討してください。

戸田宏幸、黒岩義之

錐体路(すいたいろ)と錐体外路(すいたいがいろ)

 錐体路とは随意(ずいい)運動に関与するもので、その経路は前頭葉(ぜんとうよう)の運動野(や)から延髄(えんずい)の錐体交差で反対側に交差し、脊髄(せきずい)の前角に至るまでをいいます。この経路は、いうなれば運動の「オン・オフ」のはたらきをし、錐体路の障害では運動麻痺(まひ)がみられます。

 一方、錐体外路とは大脳深部の基底核を中心とする複雑な経路で、運動や筋緊張を調整するはたらきをしています。錐体外路の障害では、筋緊張の異常や、さまざまな不随意(ふずいい)運動がみられます。

小山主夫、黒岩義之

神経難病(しんけいなんびょう)(特定疾患)

 原因不明、治療方法が未確立で、かつ、後遺症を残すおそれが少なくない病気、経過が慢性で、単に経済的な問題だけでなく、介護などに著しく人手を要するために家庭の負担が重く、また精神的にも負担が大きい病気のことを難病といいます。

 このなかでも、診断基準が一応確立していて、しかも難治度や重症度が高く、患者数が比較的少ないために医療費の公費負担という手段をとらないと原因の究明、治療方法の開発などに困難を来すおそれのある病気を対象として、特定疾患治療研究事業が実施されています。

 この事業の対象になる病気を一般的に特定疾患と呼んでおり、特定疾患に該当する神経系の病気としては、プリオン病(クロイツフェルト・ヤコブ病など)、亜急性硬化性全脳炎(あきゅうせいこうかせいぜんのうえん)、脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう)、パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺(しんこうせいかくじょうせいまひ)、大脳皮質基底核変性症(だいのうひしつきていかくへんせいしょう)、パーキンソン病)、筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)、多系統萎縮症(たけいとういしゅくしょう)、副腎白質(ふくじんはくしつ)ジストロフィー、多発性硬化症(たはつせいこうかしょう)、重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)、ハンチントン病、もやもや病、スモンがあります。

 2009年10月から新たに脊髄性筋萎縮症(せきずいせいきんいしゅくしょう)、球脊髄性筋萎縮症(きゅうせきずいせいきんいしゅくしょう)、ミトコンドリア病なども追加されました。

 特定疾患に該当する場合には、それぞれの特定疾患の診断書を主治医に記入してもらい、保健所に申請する必要があります。

 特定疾患に認定されると医療保険による自己負担分が一部公費負担になりますし、さらに難病のために日常生活に著しい支障があると認定された重症患者さんや、スモン、プリオン病の患者さんは、医療費の自己負担分全額が公費負担になります。

 神経難病の方やその介護を行っている家族への支援としては、特定疾患治療研究事業以外にも、神経難病患者在宅支援事業、重症難病患者入院施設確保事業、難病相談・支援センター事業などがあり、少しでも負担が軽くなるような対策が行われています。

西山治子、黒岩義之

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