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脳・神経・筋の病気:脳の血管障害

脳梗塞

のうこうそく、Cerebral infarction

篠原 幸人

どんな病気か

 脳梗塞とは、脳の血管が詰まったり何らかの原因で脳の血のめぐりが正常の5分の1から10分の1くらいに低下し、脳組織が酸素欠乏や栄養不足に陥り、その状態がある程度の時間続いた結果、その部位の脳組織が壊死(えし)(梗塞)してしまったものをいいます。

 この脳梗塞は、以前は脳血栓症(のうけっせんしょう)(血管が動脈硬化によりだんだん細くなり、最後には詰まってしまう状態)と脳塞栓症(のうそくせんしょう)(どこかにできた血栓がはがれて、栓子(せんし)となって脳に流れてきて詰まる状態)に分けられていました。

 しかし最近は予防的な立場からも、また脳梗塞が起きた直後の治療の面からも、脳梗塞を次の3つに分類することが多くなってきました。

 ①アテローム血栓性脳梗塞

 脳や頸部(けいぶ)の比較的太い血管の動脈硬化が、加齢、高血圧糖尿病脂質異常症、喫煙などにより起こり、その部位で血管が詰まってしまったり、血流が悪くなったり、またはそこにできた血栓がはがれて流れていき、さらに先端の脳の血管の一部に詰まってしまう状態です。

 ②心原性脳塞栓症(しんげんせいのうそくせんしょう)

 心房細動(しんぼうさいどう)や心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)、心筋梗塞(しんきんこうそく)などのために心臓のなかに血栓ができて、それが脳に流れてきて詰まった状態です。

 ③ラクナ梗塞

 主に加齢や高血圧などが原因で、脳の深部にある直径が1㎜の2分の1~3分の1くらいの細い血管が詰まり、その結果直径が15㎜以下の小さな脳梗塞ができた状態です。

 脳卒中全体のところで書いたように、日本では今、脳卒中の約4分の3が脳梗塞です。またその内容をみると、以前は日本の脳梗塞の約半分を占めていたラクナ梗塞が少しずつ減り始め、アテローム血栓性脳梗塞や心原性脳塞栓症が増え始めているようです。

予防は生活習慣の改善から

 脳卒中の危険因子のところで書いたように、脳梗塞が起きやすいのは高齢者です。また男性に多いのですが、他の危険因子である高血圧糖尿病脂質異常症、心臓病、ストレス、喫煙、大量飲酒、脱水、肥満などは、いずれもいわゆる生活習慣に関係したものです。

 脳梗塞の予防はまず生活習慣を正し、かかりつけ医の指導に従って、治療すべき生活習慣病を早めに治すように努力することが必要です。

症状の現れ方

 脳梗塞の典型的な症状には、意識障害、片麻痺(かたまひ)(片方の手足の麻痺。時には片側の手あるいは足だけ動かなくなる単麻痺もある。両方の手足が全部動かなくなった状態は四肢麻痺(ししまひ)と呼ぶ)、片側の手足や顔面の感覚障害、言語障害、失語症(しつごしょう)(考えても言葉が出てこなかったり、相手の言うことが聞こえても理解できない状態)などがあります。

 ほかにも健忘症(けんぼうしょう)、同名性半盲(どうめいせいはんもう)(両眼とも視野の半分だけが見えなくなる状態)、複視(物が二重に見える)、ふらつき、嚥下(えんげ)障害などだけのこともあります。

急いで病院に運ぶ理由

 最近は脳の検査法が非常に進歩して、脳卒中はCTやMRIを使うと早期に確実に診断ができるようになりました。図3は脳梗塞の患者さんの画像です。発症して数時間以内なので、まだCT検査ではみなさんにわかるような異常は出ていません。

 しかしMRI像では向かって左側に白く写っている梗塞(矢印)がすでに現れています。CTで梗塞がもっとはっきりしてくるのは、24時間たってからです。

 診断法ばかりでなく治療法も進歩しています。詰まってしまった塞栓(そくせん)や血栓をt(ティー)‐PA(ピーエー)という薬で溶かしたり、また梗塞の中心部や周辺部に生じるフリーラジカルという有害物質を除去する薬も開発されています。

 脳梗塞の中心部は、血管が完全に詰まるとその先は1時間くらいで梗塞になってしまいますが、その周囲の部分(ペナンブラと呼ぶ)は1~数時間はまだ生きていて、早めに適切な治療が行われれば機能を回復することも可能です。しかし治療開始が遅れると周囲の組織も徐々に壊死に陥り、1本の血管が詰まっただけなのに時間とともに梗塞は少しずつ大きくなっていきます(図4)。

 また、詰まった塞栓を溶かすといっても、詰まってすぐならよいのですが、3~4時間以上たってしまうと、詰まった塞栓をせっかく溶かしても、壊死に陥った組織(梗塞になった部分)に大量の血液が入り込むので、部分的に出血を起こして出血性梗塞になることもあるのです。

 ですから脳梗塞ではなるべく早く、できれば発症して3時間以内に治療が開始できるよう、すぐに専門医のいる病院に患者さんを運んでください。

治療の方法

 発症したばかりの脳梗塞の治療は、内科的な薬物療法が主体になります。脳外科の手術が超急性期に有効なのは、小脳という部分の大きな梗塞や、大脳全体が梗塞のためぱんぱんにふくれ上がって、生命の危険がある時だけです。

 治療薬には脳のむくみをとる薬(抗脳浮腫薬(こうのうふしゅやく))、血栓を溶かす薬(t‐PA、コラム)、抗血小板薬(こうけつしょうばんやく)や抗血栓薬(できた血栓がさらに心臓側に向かって延びてくるのを防いだり、再発を防ぐ薬)、脳保護薬(フリーラジカルなどの有害物質を除去する薬)などがありますが、これらの使い方は専門の医師にまかせておけばよいでしょう。

 今は、設備の整った専門病院にかなり早期に入院した患者さんでは、脳梗塞発作そのもので亡くなる人は10%以下になりました。発作を起こした人のだいたい45%くらいが完全に社会復帰しています。残りの人は残念ながら寝たきりになったり車椅子の生活を余儀なくされたり、何らかの後遺症で悩むことになります。

 しかし昔は脳卒中は3分の1の人が亡くなり、3分の1の人が重い後遺症で悩まされるといわれていましたから、それに比べればかなりよくなっているといえます。ただし亡くならなくても発症後1年以内に10人に1人弱の人が再発を起こしています。再発すると後遺症をもっと強く残したり、寝たきり、認知症などの原因にもなります。

 再発の予防には危険因子をあらためて十分治療することと、抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル、チクロピジン、シロスタゾールなど)を毎日服用することが基本になります。なお、心原性脳塞栓症の再発予防には、抗血小板薬よりも抗凝固薬(こうぎょうこやく)(ワルファリン)などをすすめます。そのため、脳梗塞の細かい病型までをしっかりと診断することが必要なのです。

病気に気づいたらどうする

 いずれにしても本人や家族が何かおかしいと感じたら1分でも早く専門の医師のいる病院に行くことです。また、普段から脳卒中が起こったらここ、心臓発作らしかったらこの病院などと考えておくことが必要です。

図3 脳梗塞のCT像とMRI像
図4 脳梗塞は時間とともに広がる
血栓溶解薬t(ティー)‐PA(ピーエー)はどんな時に有効か

 2005年10月、厚生労働省は、欧米などで認可されているt‐PAという薬が日本でも使える許可を出しました。

 しかし、この薬の効果は、一部マスコミのとり上げ方の影響もあり、過大評価されている面もあります。

 t‐PAは軟らかい脳の血栓(けっせん)や塞栓(そくせん)を溶かし、途絶えていた血流を回復してくれる作用があります。適切な方法で適応のある患者さんに使えばすばらしい効果を発揮します。しかし、血栓をすべて溶かすわけではありません。また梗塞ができてから3時間以上経過した場合は(欧米では4時間半ともいわれていますが)、血流が再開して壊死(えし)に陥(おちい)った脳組織に再び血液が急激に流れ込む結果、脳に出血(出血性梗塞(しゅっけっせいこうそく)や血腫(けっしゅ))を起こし、かえって症状が悪化したり患者さんが死亡してしまうこともあります。また、その他の場合でも出血が合併する危険があります。

 t‐PAが使える条件は、①発症3時間以内で、かつ専門の医師がt‐PAの効果が十分に期待できると考えた患者さんで、②血圧が非常に高くはなく、血液検査の結果もこの治療に耐えられる状態で、③画像診断でも梗塞が進んでいないことが確認でき、④最近3カ月以内に脳卒中の発症がなく、⑤最近2~3週間以内に大手術や脳以外の部位にも大出血がなく、⑥大動脈解離(だいどうみゃくかいり)などがないことです。

 他にも高齢の方で重篤な場合は気をつけて使用する必要があります。いずれにしても主治医と患者さん本人ないしはご家族がよく相談して決めるべき治療法です。

 発症3時間以内でもt‐PAを使用しなくてよい場合もありますし、逆に3時間を過ぎてt‐PAは使用できない患者さんでも、他にもいろいろ治療法があります。いずれにしても、脳卒中のことがよくわかる医師のいる病院に救急隊の方とよく相談して1分でも早く患者さんを搬送することが最も大切です。t‐PAが使えないから患者さんは助からないというのは誤った考えであることも、よく認識してください。

篠原幸人

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