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循環器の病気:血圧の病気

高血圧緊急症(悪性高血圧)

こうけつあつきんきゅうしょう(あくせいこうけつあつ)、Hypertensive emergency (Malignant hypertension)

長谷川 浩、秋下 雅弘

どんな病気か

 高血圧緊急症とは、血圧が非常に高くなり、すぐに降圧治療を開始しなければ脳、心臓、腎臓、大動脈などに重篤な障害が起こり、致命的となりうる病態です。

 高血圧脳症(こうけつあつのうしょう)、急性大動脈解離(きゅうせいだいどうみゃくかいり)を合併した高血圧、肺水腫(はいすいしゅ)を伴う高血圧性左心不全(こうけつあつせいさしんふぜん)、重症高血圧を伴う急性心筋梗塞(きゅうせいしんきんこうそく)や不安定狭心症(ふあんていきょうしんしょう)、褐色細胞腫(かっしょくさいぼうしゅ)クリーゼ、子癇(しかん)などが該当し、通常、拡張期血圧(下のほうの血圧)が120㎜Hgを超えます(表9)。

 切迫症とは、血圧が非常に高い状態でも、とりあえず先ほど述べた重篤な臓器障害の急速な進行がない状態です。心臓または血圧の専門家のいる病院に入院して治療します。

 ①高血圧脳症

 血圧が脳血流の自動調節の上限を持続的に超えると、脳血流が異常に増え、脳の毛細血管から血漿(けっしょう)成分がもれ出して脳浮腫が起こり、頭蓋内圧が亢進します。これが高血圧脳症です。

 頭痛で発症し、不穏状態、悪心(おしん)、嘔吐、視力障害、意識障害、けいれん発作を伴います。

 すみやかに降圧しなければ生命に危険が及びます。しかし、脳血流の自動調節能が障害されているので、降圧に伴って脳虚血(のうきょけつ)になりやすいと考えられます。静脈注射薬で治療を始めます。血圧値と神経症状を監視しながら、降圧速度を調整します。

 肺水腫を伴う高血圧性左心不全

 血圧が著しく高いと、心肥大にみられる左心室の拡張不全のため、左心室拡張末期圧が上昇し、肺水腫を伴う左心不全に陥ることがあります。

 ACE阻害薬(エナラプリル〈レニベース〉、カプトプリル〈カプトリル〉)やカルシウム拮抗薬(ニフェジピン〈アダラート〉、アムロジピン〈ノルバスク〉など)を用いて血圧を下げるとともに、利尿薬やニトログリセリンを用いて前負荷を軽減し、肺水腫の改善を図ります。

 ③重症高血圧を伴う急性心筋梗塞や不安定狭心症

 左心室の仕事量や心筋の酸素需要を減らすことが重要です。ニトログリセリンの持続静脈内注入が行われます。心不全がなければβ(ベータ)遮断薬(アテノロール〈テノーミン〉など)も使われます。冠れん縮(けいれんによって起こる血管や筋肉の収縮)が原因と考えられればカルシウム拮抗薬が用いられます。

 ④褐色細胞腫クリーゼ

 副腎(ふくじん)髄質から発生した褐色細胞腫が産生するカテコラミン(血圧を上昇させるホルモンの一種)の過剰分泌による急激な血圧の上昇です。ほかに頭痛、発汗、動悸(そうき)、頻脈(ひんみゃく)、胸痛、体重減少などが認められます。

 フェントラミン2~5㎎を血圧が落ち着くまで5分ごとに静脈注射します。これで降圧が確認されると75%の確率で本症と診断されます。頻脈に対してはβ遮断薬が有効ですが、十分量のα(アルファ)遮断薬を投与したあとに用います。

 褐色細胞腫高血圧性脳症や、急性左心不全、加速型高血圧‐悪性高血圧を示すこともあり、そのような場合にもα遮断薬を主体とした治療を行います。

 ⑤子癇

 妊娠20週以降に初めてけいれん発作を起こし、てんかんなどのほかの病気が否定されるものです。妊娠に伴う高血圧の治療の項を参照してください。

 ⑥加速型高血圧‐悪性高血圧

 以前は眼の網膜(もうまく)の所見から、乳頭浮腫(にゅうとうふしゅ)(キース・ワグナー分類Ⅳ群)を伴う悪性高血圧と、滲出性病変(しんしゅつせいびょうへん)(キース・ワグナー分類Ⅲ群)を伴う加速型高血圧とを区別していました。しかし、臓器障害の進行や生命予後に差はなく、最近は両者をまとめて加速型高血圧‐悪性高血圧と呼びます。

 拡張期血圧120~130㎜Hg以上で腎機能障害が急激に進行して、放置すると全身状態が急激に増悪し、心不全や高血圧脳症、脳出血を発症して予後不良です。高血圧発症時から血圧が高いこと、降圧治療の中断、長期にわたる精神的・身体的負荷(ストレス)が悪性高血圧の発症に関係します。腎臓の組織所見は病理上悪性腎硬化症(あくせいじんこうかしょう)に一致します。

 ある研究調査では生存率は本態性(ほんたいせい)高血圧に起因するものが79%、慢性糸球体腎炎(まんせいしきゅうたいじんえん)によるものは100%と報告されています。ただし、後者では18カ月以内に96%が慢性透析(とうせき)に移行していました。

 治療には原則として経口薬を用います。急速に正常域にまで下げる必要はありません。むしろそのような降圧は重要臓器の虚血を来す危険性を伴うので避けるべきと考えられます。最初の2時間の降圧幅は、治療前血圧の25%以内、あるいは拡張期血圧110㎜Hgまでにとどめます。

 カルシウム拮抗薬がよく用いられますが、ニフェジピンカプセルの舌下投与は過度の降圧や反射性頻脈(ひんみゃく)を起こすことがあり、原則として用いません。これは他の高血圧緊急症の治療に際しても共通する注意点です。ナトリウム・水貯留を伴う場合には、ループ利尿薬を併用します。

 本態性高血圧に由来する例や膠原病(こうげんびょう)の腎クリーゼでは、レニン・アンジオテンシン系の亢進が病態の形成に関係しているので、ACE阻害薬の効果が期待されます。しかし、高カリウム血症を合併、あるいは血清クレアチニン値が3.0㎎/dl以上の例には用いません。AⅡ受容体拮抗薬についても、ACE阻害薬と同様の注意が必要です。

 急性大動脈解離については大動脈解離を参照してください。

表9 高血圧緊急症

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