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お年寄りの病気:〈高齢者によくみられる病気〉精神疾患

老年期精神病

ろうねんきせいしんびょう、Late-life psychosis

小山 恵子

高齢者での特殊事情

 今日、精神疾患の標準的な診断基準として用いられているDSM‐Ⅳ‐TRやICD‐10においては、老年期精神病という名称は見当たりません。というのも、これは正式な診断名ではなく、認知症(にんちしょう)のない高齢者において、幻覚(げんかく)・妄想(もうそう)などの精神病症状が認められる病態を総称しているものであるからです。薬物の影響や身体疾患による幻覚・妄想は老年期精神病に含まれません。先にあげたDSM‐Ⅳ‐TRやICD‐10の病名にあてはめると、妄想性障害(もうそうせいしょうがい)や統合失調症(とうごうしっちょうしょう)がおおむね老年期精神病に相当することになります。

 老年期に新たに発症する場合の症状の特徴は、体系的な妄想(訂正がきかない誤った思い込み)が主症状であり、幻覚は伴うことも伴わないこともあります。

 妄想の内容としては「いやがらせをされる」「家屋や敷地内に侵入される」「物を盗られる」などといった被害関係(ひがいかんけい)妄想が最も多く、その他心気(しんき)妄想、嫉妬(しっと)妄想、誇大(こだい)妄想などがみられます。若年発症の統合失調症に比べると、高齢者でみられる妄想の主題は現実的、具体的であることが特徴であり、その人の日常生活状況に即したいかにもありそうな内容がみられます。また、妄想の対象も隣人や家族、配偶者など身近な者がなりやすいといわれています。

 幻覚は幻聴(げんちょう)が最も多く、音楽や、壁や床を叩く音などの非言語性の幻聴、あるいは自分のことを批評したり話しかけてきたりする幻聴などがみられます。また、体に電気やレーザー光線をかけられるといった体感(たいかん)幻覚もしばしば認められます。

 一方、若年発症の統合失調症でみられるような思考障害や感情の平板化、自閉(じへい)などの陰性症状を伴うことはまれです。また、人格の崩れは目立たず疎通(そつう)性も良好であり、警察に訴えたり近隣とトラブルになったりするなど、幻覚・妄想に左右された行動がみられる以外は、社会適応も比較的良好であることが特徴です。発症に男女差があり、女性で多いことも指摘されています。

治療とケアのポイント

 老年期精神病に対する治療の中心は、抗精神病薬による薬物療法です。薬物代謝能力が低下している高齢者では副作用が生じやすいため、できるだけ少量から始めることが基本です。主な副作用としては、表情が乏しくなる、体の動きがぎこちなくなるなどの錐体外路(すいたいがいろ)症状や起立性低血圧(きりつせいていけつあつ)などがあります。

 近年、より副作用の少ない非定型抗精神病薬(ひていけいこうせいしんびょうやく)と呼ばれる薬が登場し、高齢者に対しても第一選択薬として使われるようになっています。リスペリドン(リスパダール)、クエチアピン(セロクエル)、ペロスピロン(ルーラン)、オランザピン(ジプレキサ)、アリピプラゾール(エビリファイ)などといった薬物がこれに相当します。ただし、これらの薬物は血糖値上昇を来すことがあり、クエチアピン、オランザピンは、糖尿病(とうにょうびょう)や糖尿病の既往がある方には禁忌(きんき)になりますので、注意が必要です。

 幻覚・妄想への対応は、頭ごなしに否定もしないし、といって同調もしないということが基本です。訴えの真偽に焦点をあてるのではなく、本人が感じている不安やよりどころのなさに共感をもって耳を傾ける必要があります。本人自身には病気という自覚が乏しく、自ら病院を訪れたり薬物療法を希望したりすることが少ないため、医療に結びつけるためには、本人とそれを取りまく家族、知人、医療者との間にしっかりとした信頼関係を築くことが重要です。また、社会的孤立状況や経済状況の悪化も発症要因になりますので、家族との同居や老人ホームへの入所、ヘルパー導入などといった環境調整が有効な場合もあります。

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