日経グッデイ

Dr.今村の「感染症ココがポイント!」

感染力強い「はしか(麻疹)」。流行繰り返さないために予防接種を

妊婦が感染すれば、流産や早産などを招く可能性も

 田村知子=ライター

気になる感染症について、がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長の今村顕史さんに聞く新連載。初回に取り上げるのは「はしか」(麻疹=ましん)だ。沖縄に端を発した麻疹感染が、福岡、愛知、埼玉、東京などへも広がりを見せている。国立感染症研究所の発表によれば、2018年5月30日現在までの日本全国の感染報告数は163人に上る。麻疹の流行時にすべきこと、麻疹の流行を繰り返さないためにできることを聞いた。

自分が感染しないためだけでなく、周りの人に感染を広げないためにも予防接種は有効だ。写真はイメージ=(c)Khuntnop Asawachiwantorngul-123RF

【ココがポイント!】

  • 日本の麻疹は「輸入感染」。海外から持ち込まれる可能性は常にある
  • 「空気感染」で感染力が非常に強い
  • 10~12日間の「潜伏期」があり、発症後数日間は風邪と似た症状しか出ないため、初期での診断が難しい
  • 予防には「ワクチン接種」が最善策。1990年以前に生まれた人は、予防接種歴、既往歴を確認
  • 麻疹が疑われるときは事前連絡の上、マスク着用で受診
  • 流行を防ぐには、流行していないときにこそワクチン接種を

日本の麻疹は海外から持ち込まれる

3月に沖縄での麻疹流行が報道されて以来、感染が広がっています。日本では麻疹はなくなったはずですが、今回のような流行が度々起こるのはなぜでしょう。

 日本の麻疹は、2015年3月27日から「排除状態」となっています。排除状態とは、その国や地域特有のウイルスによる麻疹が発生しない状態が3年以上継続したとき、世界保健機関(WHO)によって認定されます。

 ただ、その国や地域で排除状態になっただけであって、麻疹そのものが撲滅されたわけではありません。麻疹がまだ抑えられていない海外への渡航者や、海外から日本を訪れる人が持ち込む可能性は常にあります。つまり、日本の麻疹は現在では「輸入感染症」となっているのです。

 今回の流行も、台湾から沖縄旅行にやって来た、たった1人の外国人から始まっています。麻疹感染に気づいていなかったその旅行者が、観光地やホテルなど移動した先々で感染を拡大。そして、沖縄へ旅行していた10代の男性が、その後に帰省した名古屋の医療機関で麻疹と診断されました。

 そのときに同じ病院に居合わせた中学生や、10代の男性が受診した別の医療機関でも30代の職員が麻疹を発症するなど、感染者の移動とともに、二次感染、三次感染と広がっていきました。

 麻疹を診断した医療機関は保健所への届出義務があり、麻疹の報告を受けた保健所は、その患者に発症までの行動などを聞く接触調査を行います。そこで感染経路が明らかになるのですが、二次感染、三次感染、それ以上となっていくと、追えないケースも出てきます。

 今回の流行でも、ゴールデンウイークの人の移動でそのケースが懸念されていましたが、実際にその後、沖縄からたどれない地域での散発例が報告されました。

感染力が非常に強い「空気感染」で拡大

麻疹の感染力は、それほどまでに強いのですね。

 その通りです。一般的にはインフルエンザも感染力が強いといわれますが、インフルエンザの場合は「飛沫感染」なので、くしゃみや咳(せき)などでウイルスが飛んでも、水分を多く含んでいるため、2メートル以内のところで地面に落ちてしまいます。ですから、感染者がいても2メートル以上離れていれば、直接感染することはありません(図1)。

 ところが、麻疹のウイルスは粒子が小さくて軽いので、空中を長く浮遊します。そのため、同じ空間にいるだけで感染する可能性があるのです。このような「空気感染」する一般的な感染症は、麻疹のほかには結核と水痘(みずぼうそう)の3つしかありません。

飛沫感染の場合、くしゃみなどでウイルスが飛んでも、水分を多く含むため2メートル以内のところで地面に落ちてしまうが、麻疹のウイルスは粒子が小さくて軽いので、空中を長く浮遊する。イラスト=(c)captainvector-123RF
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 また、麻疹には潜伏期やカタル期といった診断が難しい時期があることも、感染を広げてしまう大きな要因となっています。

「カタル期」とはどういうものでしょう?

 ではまず、麻疹の経過を簡単にまとめてみましょう(図2も)。

【潜伏期】
・10~12日間は症状が出ない潜伏期間がある
・免疫のない人が感染すれば、ほぼ100%発症する(顕性感染)
【カタル期】
・発症から5日程度までで、感染力が最も強い時期
・鼻水やくしゃみ、咳、喉の痛みといった風邪のような症状がある
・低めの発熱のあと解熱し、後半には口の中に「コプリック(Koplik)斑(ほほの裏側にできる塩粒をまいたような白い斑点)」が出現する
【発疹期】
・再び高熱が出て(二峰性の発熱)、赤い発疹が耳の後ろやほほなど顔から、体、手足と全身に広がっていく
【回復期】
・高熱は3~4日間程度で下がっていく
・その後に発疹も治っていくが、炎症がひどいときには一時的に日焼けしたときのように皮膚がはがれ落ちたり(落屑=らくせつ)、黒ずんだり(色素沈着)することもある
発疹が表れる前の「カタル期」が最も感染力が強い。イラスト=(c)captainvector-123RF
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 このように、潜伏期やカタル期には、麻疹に特徴的な高熱と発疹が表れないため、感染症の専門医でも、麻疹を強く疑うことは難しいのです。しかも、カタル期が最も感染力が強いので、本人も「風邪かな?」などと思っているうちに、感染を広げていってしまいます。

麻疹予防にはワクチン接種が最善策

では、麻疹の感染を防ぐにはどうしたらいいのでしょう。

 麻疹の感染を防ぐ最も有効な方法は、ワクチンを接種して、麻疹に対する免疫をつけておくことです。

 麻疹の流行は、感受性者(免疫がなく感染しやすい人)が少ないほど、拡大を食い止めやすくなります。ですから、麻疹の流行時には、リスクの高い場所のリスクの高い人、つまり、流行している地域の感受性者や、感染者と接触する可能性の高い人、例えば、空港や医療機関に勤務する人、教育関係者などに、緊急的にワクチンを接種してもらうことが重要です。

 また、国内の発生地域や海外を訪れる予定のある人、不特定多数の人と接する機会が多い人なども、ワクチンを接種しておくことが勧められます。

自分に免疫があるかどうかは、どうすれば分かりますか。

 簡単に確認する方法としては、過去に麻疹に感染したことがある人、ワクチンを2回接種したことがある人は、免疫があるのでワクチン接種は不要です。

 ただし、幼少期に感染したという記憶は、必ずしも正しいとはいえません。

 麻疹がよく発生していたかつては、医療機関でも検査をせずに、麻疹のような症状から麻疹だろうと判断されることがありました。また、「三日はしか」と呼ばれた風疹を、家族や本人が麻疹だったと思い込んでいる場合などもあります。ですので、できれば母子手帳の予防接種歴を確認してほしいと思います。

 また、ワクチンを2回接種していても、十分な免疫がつかない人もわずかにいます。ただ、そうした人が麻疹を発症したときは、「修飾麻疹」と呼ばれる軽い症状だけで終わることがほとんどで、ほかの人への感染力も低いようです。

 逆に、麻疹に感染したことがなく、これまでに予防接種をしたことがない人や、予防接種をしたことはあっても1回だけの人は、免疫がないか十分ではないため、ワクチン接種が必要です。予防接種については、以下を参考にしてください。

【1977年以前に生まれた人】
予防接種が定期接種ではなく、自然に感染して免疫のある人とない人が混在しているので、できれば母子手帳で確認
【1978年から1990年に生まれた人】
定期接種が1回だったため、2回目の接種が必要
【1991年以降に生まれた人】
定期接種が2回になっているので、基本的には接種は不要

 ただし、妊娠中やその可能性がある人、高度な免疫不全のある人などは、ワクチンを接種することができません。その場合は、家族など周囲の人がワクチン接種を徹底して、感染のリスクを下げることが大切です。

 なお、ワクチンを接種してから免疫がつくまでには、約2週間かかります。海外旅行前などは、その期間の考慮も必要です。

麻疹が疑われるときは本人はマスク着用を

「麻疹かもしれない」と思ったときには、どうすればいいでしょう。

「感染したかも」と思った人は、病気の拡散を少しでも防ぐためマスクをつけよう。写真はイメージ=(c)liza5450-123RF

 麻疹は空気感染です。「空気感染だからマスクでは予防できない」といわれますが、発症した本人がマスクをつけると、ある程度は病気の拡散を防ぐ効果があります。ですので、風邪のような症状があり、2~3週間以内に麻疹が発生した場所を訪れたり、麻疹を発症した人と接触した可能性があったりするときは、マスクを着用しておくといいでしょう。

 高熱や発疹が出て、麻疹が疑われたときは、最寄りの保健所か医療機関に電話をして相談し、指示を受けるようにしてください。そのまま受診してしまうと、移動中や医療機関で感染を広めてしまう恐れがあります。

発生していないときにこそ対策を

最後に、今後、流行を繰り返さないために大切なことを教えてください。

 麻疹の流行時にはみなさんの関心が高まりますが、収束してくると、その関心も薄れていきます。しかし、海外からの旅行者が増えている中、いつまた流行が起きてもおかしくありません。麻疹の流行を繰り返さないためには、発生していないときにこそ、積極的にワクチンを接種して備えておくことが大切です。

 麻疹はその昔は「命定め」と呼ばれたほど、危険な感染症として知られていました。現在でも、麻疹を発症してからウイルスを抑えるような治療薬はなく、発症すれば肺炎や中耳炎、脳炎などの合併症を起こす恐れがあります。また、妊婦が感染すれば、流産や早産、死産を招く危険があり、ごくまれには感染から数カ月、数年とたっていくうちに、脳炎の症状が表れる亜急性硬化性全脳炎(SSPE)を発症することもあります。

 今後、麻疹の流行や発生が落ち着いても、予防のための対策を継続し、社会全体で麻疹が流行しにくい環境をつくっていくことが求められます。

(図版作成:増田真一)

今村顕史(いまむら あきふみ)さん
がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長
今村顕史(いまむら あきふみ)さん 1992年浜松医科大学卒業。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。自身のFacebookページ「あれどこ感染症」でも、その時々の流行感染症などの情報を公開中。都立駒込病院感染症科ホームページ(http://www.cick.jp/kansen/)。