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データで見る栄養学

「〇〇は体にいい」を一度疑ってみる

第1回 健康情報のエビデンス、その落とし穴とは?

 村山真由美=フリーエディタ―・ライター

エビデンスがあるとその情報をうのみにしがちだが、「そこで思考を止めてしまうことは問題」と佐々木さん(c)Ferli Achirulli-123rf

 「情報を簡単に見極めることは難しい時代です。しかし、一番簡単なのは、『それを言うことで得をする人が、それを言っているかどうか』を見ることです。得というのは金銭だけでなく、名誉とか権威も含みます」

 私たちが日々生きていくために必要な情報は、義務教育で習った知識を有機的に結合させることで事足りる、とも佐々木さんは言う。

 「義務教育よりも高い知識や論理能力、技術が特に必要だとは僕には思えません。算数と英語はバラバラだけど、それぞれを頭の中から引き出してきて、そのときの状況に合わせて組み合わせられる力、それが重要です」

 この力は、言い換えれば「応用力」だ。「応用力を身に付けるためには、まず、栄養データにはどういうものがあり、どのように読むのかを知ることです。読み慣れることが大切です」

だまされないためにはデータを読み慣れること

 日本では病気を予防する栄養学よりも、病気を治す医学が重視されてきた。しかし、高齢化の進展や生活習慣病の増加に伴う医療費の高騰により、近年、「予防」に注目が集まっている。

 「日本の国民皆保険は素晴らしい制度です。しかし、予防に対する国民の意欲を損ねてしまったという一面があります。『もし病気になっても、少しの治療費で治してもらえる』と思ったら、努力して健康になろうとは思いませんよね。でも、治療に10万円かかると言われたらどうですか? 必死に予防に取り組みますよね。それがアメリカ社会です」

 アメリカ人は収入が多い人ほど健康で、少ない人ほど不健康な傾向があるという。それは、「収入が多い人は知識があり、問題を切実に捉える理解力があることが多いからです。30年後の自分と今の自分を同等に捉える力があれば、未来のために、今、何をするべきかが分かる。しかし、知識や理解力が欠けていると、今が幸せならいいや、と何もしません」

 日本も本気で予防に取り組む時代になってきた。

 「本当かどうか分からない情報を簡単に信じたり、自分の体を使って試したりすることは、命や健康を軽んじる危ない行為です。今、それをやると将来どうなるのか? と客観視することが大切」

 私たちは、家のローンを組む際に、未来のシナリオを想定しリスクを考える。当たり前だが、宝くじが当たることを前提にローンを組む人はいない。ビジネスシーンでも同様。宝くじに当たることを前提に収益の予測をする人はいない。

 「学問的に真偽が明らかにされていない情報をうのみにして、特定の食材や食事法にのめり込むことは、宝くじに当たることを前提にローンを組んだり、収益の予測をするようなものです」

 食べ物は生活に密着した存在なため、私たちは「何を、どれだけ、どのように食べるか」について無頓着ではなかっただろうか。しかし、真剣に「予防」に取り組むなら、その情報を真剣に見極める必要がある。

 野菜を先に食べるといいという話も、赤ワインの話も、イクラの話も、「言われてみればそうだよね」と思える。データにだまされないためには、データを読み慣れることが必要だ。

 次回から、「糖質制限と脂質制限、やせるのはどちらか」「早食いは太るは本当か」「そんなに食べていないのに太るのはなぜか」など、身近な話題をデータから読み解いていく。「正しいデータの読み方」を身に付けて、「ぶれない食べ方」を身に付けよう。

佐々木敏(ささき さとし)さん
東京大学大学院医学系研究科 社会予防疫学分野教授・医学博士
佐々木敏(ささき さとし)さん 1994年、大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了、ルーベン大学大学院医学研究科博士課程修了(ベルギー)。2007年より現職。早くからEBN(evidence-based-nutrition:根拠に基づく栄養学)に注目し、日本初の食事摂取基準の策定に貢献。日本の栄養疫学研究の中心的存在。近著は『佐々木敏の栄養データはこう読む! 疫学研究から読み解くぶれない食べ方』(女子栄養大学出版部)。
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