日経グッデイ

データで見る栄養学

コレステロール値が気になる人は揚げ物や肉を控えるべき?

脂質との上手な付き合い方

 村山真由美=フリーエディタ―・ライター

コレステロールや中性脂肪など、脂質の数値が気になっている人は多いのではないだろうか。脂質異常症は食事との関連が深いことがよく知られている。対策としては「揚げ物や肉を控えればいいんでしょ?」と思っている人も多いだろう。しかし、「話はそう単純ではありません。脂質を理解すると栄養学がよく理解できます」と言うのは、東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野教授の佐々木敏さんだ。今回、次回と2回にわたり脂質との上手な付き合い方について、栄養疫学の視点から解説してもらう。

「食品中」と「血液中」のコレステロールは別物

「揚げ物や肉を控えればいい」と思っている人も多いだろうが、実はそう単純には言い切れないようだ。写真はイメージ=(c)Olga Miltsova-123rf

編集部:健康診断の「脂質代謝」の項目には、コレステロールや中性脂肪があります。これらの数値が悪くなるのは、肉や揚げ物で油をとり過ぎたからですか?

佐々木:その質問に答える前に、まず、脂質について整理しましょう。ややこしいのがコレステロールです。私たちがコレステロールと呼んでいるものには「血液中のコレステロール」と「食品中のコレステロール」の2種類があります。食品の中にある、つまり栄養素としてのコレステロールは主に動物の細胞を包んでいる細胞膜に存在します。細胞の中でも特に神経細胞に多く、そのほか、卵の黄身にも多く含まれています。コレステロールは食品成分表や栄養学の教科書などでは脂質の一部、または脂肪酸と同列に扱われていることが多いですが、化学構造の上では、むしろアルコールに近いものです。

編集部:アルコール? コレステロールは脂質の中では特殊なものなのですね。私たちの体の中のコレステロールも、やはり細胞に含まれているのですか?

佐々木:はい。しかし、細胞がコレステロールを作るわけではありません。コレステロールは主に肝臓で合成され、血液に乗って全身の細胞に運ばれて使われます。しかし、コレステロールは単独では動脈の中を移動できないため、リポたんぱく質と結合して、リポたんぱくコレステロールという物質になって輸送されます。リポとは脂質(脂肪)のことですから、血液中のコレステロールは、「脂質+たんぱく質+コレステロール」がセットになったものです。

編集部:血液中のコレステロールと食品中のコレステロールは違うものなのですね。

佐々木:この2つを「コレステロール」と同じ名前で呼ぶことが誤解を生んでいます。リポたんぱく質と結合して全身の細胞に配られるコレステロールは、先ほど述べた通り、主に肝臓で作られたものです。でも、その一部は食品から摂取されたコレステロールに由来します。つまり、血中コレステロール(リポたんぱくコレステロール)の一部分がコレステロールであり、そのコレステロールの一部が食べ物に由来するコレステロールということです。

編集部:食事由来のコレステロールよりも、体内で合成するコレステロールのほうが多いといいますね。

佐々木:食品から摂取するコレステロールが血液中のコレステロール濃度に及ぼす影響は、かなりの個人差が認められます。「食品中のコレステロール=血液中のコレステロール」ではありませんが、全く別ものというわけでもありません。しかし、「コレステロールが多いものを食べるとコレステロール値が上がる」という単純なものでもありません。

血中コレステロールを上げる脂質、下げる脂質

編集部:では、コレステロール値に最も影響する食べ物は何ですか?

佐々木:1965年に米国の生理学者アンセル・キースは様々な種類の食事をたくさんの人に食べてもらい血中コレステロールの濃度を観察しました。その結果、「飽和脂肪酸」と「食品から摂取するコレステロール」が血液中の総コレステロール値を増加させ、「多価不飽和脂肪酸」が低下させることが分かりました(*1)。その後、たくさんの研究によってその正しさが再確認され、現在に至っています。

編集部:油の種類はいろいろあって、何に何が含まれているのかよく分かりません。

佐々木:食品に含まれている油脂は1つの脂肪酸で構成されているわけではなく、何種類かの脂肪酸が集合したものです。以下は、代表的な油脂の脂肪酸の割合を示したものです。

油脂に含まれる脂肪酸の割合は、油脂100g中に含まれる重量(g)。データは日本食品標準成分表2010に基づく。※四捨五入の影響で必ずしも合計は100にならない
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編集部:先ほどのお話を食品で言い換えると、肉の脂やバターに多く含まれている飽和脂肪酸やコレステロールは血液中の総コレステロール値を上げ、ひまわり油(高リノール酸精製油)、調合油(サラダ油)、大豆油、ごま油などに多く含まれている多価不飽和脂肪酸は総コレステロール値を下げるということになりますね。

佐々木:そうです。以下は、682人に飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸のいずれかを食べてもらい、血液中のコレステロールの変化を観察した研究をまとめたものです(*2)。総エネルギー摂取量の5%だけ、例えば1日に2000kcal食べる人なら、100kcal分のエネルギーだけを炭水化物からそれぞれの脂肪酸に食べかえたときの、血液中のコレステロール濃度の変化を示したものです。

脂肪酸の種類によってはコレステロール値を下げる方向に働くことが分かる。大きく上げるのは飽和脂肪酸だけと言っていい。27の介入試験のまとめ(総対象者数は682人)。[注2]をもとに作成
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佐々木:総コレステロールと悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロール(*3)が上昇したのは、3つの脂質のうち飽和脂肪酸だけでした。多価不飽和脂肪酸ではむしろどちらも下がっています。飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸では体の中での働きが大きく異なるということです。

編集部:「肉の脂は体によくない、魚の油は体にいい」ということはよく知られていますが、コレステロールにおいては、植物油はいいのですね。

佐々木:はい。血液中のコレステロールへの影響だけに注目すれば、私たちが日常的に使っている植物油はコレステロール値を上げないということになります。

編集部:いうことは、揚げ物を食べてもいいんですね。それは朗報!

*1 Keys A, et al. Serum cholesterol response to changes in the diet: IV. Particular saturated fatty acids in the diet. Metabolism. 1965;14:776-87.
*2 Mensink RP, et al. Effect of dietary fatty acids on serum lipids and lipoproteins: A meta-analysis of 27 trials. Arterioscler Thromb. 1992;12: 911-9.
*3 血液中のコレステロールにはLDLコレステロールとHDLコレステロールがある。LDLコレステロールは肝臓で作られたコレステロールを全身に運ぶ役割を担っている。増え過ぎると動脈硬化の原因になるため、悪玉コレステロールとも呼ばれる。HDLコレステロールは余分なコレステロールを回収して肝臓に届けるため、善玉コレステロールとも呼ばれる。この2つの総量が総コレステロール。

佐々木:植物油を使った揚げ物ではコレステロールは上がらないので、むやみに避ける必要はありません。ただし、そうはいっても山盛り食べてはいけません。脂質はどの種類もエネルギーが多いので食べ過ぎれば太ります。また、肥満は脂肪酸とは別の理由でコレステロールを上げてしまうことがあるので、肥満気味の人は揚げ物も含めてエネルギー制限をして、体重を減らすことをお勧めします。

飽和脂肪酸のとり過ぎの原因は肉だけではなかった!

編集部:先ほどのキースの研究では、食品中に含まれるコレステロールも血液中のコレステロール値を上げるということでしたが、卵などは、やはり控えたほうがいいですか?

佐々木:個人差はありますが、全体としては、食品からコレステロールをとれば、それに応じて血液中の総コレステロール濃度が上がります。以下は、飽和脂肪酸とコレステロールの摂取量を減らすと、血液中の総コレステロール濃度がどれくらい下がるかをキースの式を使って計算したものです。スタート地点のコレステロール305mgと飽和脂肪酸14.4gは、平成24年国民健康・栄養調査における20歳以上男女の1日当たりの摂取量の平均値です。

20歳以上の日本人男女の平均的な摂取量から、飽和脂肪酸またはコレステロール摂取量を減らした場合の血中コレステロール濃度の変化を調べた。佐々木敏調べ。『佐々木敏の栄養データはこう読む!』(女子栄養大学出版部)より転載
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佐々木:コレステロールの摂取を1日当たり130mg減らして175mgにしたときと、飽和脂肪酸の摂取を1日当たり3.4g減らして11gにしたときに、血液中の総コレステロール濃度はおよそ4.5mg/dL下がりました。これは、コレステロールは卵半個分(65g)、飽和脂肪酸は牛乳(普通乳)コップに軽く1杯分(150mL)に相当します。

編集部:卵半分と牛乳軽く1杯分の影響が同じなんですね。コレステロール値を気にしていると、食品のコレステロールのことばかりを考えがちですが、飽和脂肪酸の影響が思いのほか大きいということですね。

佐々木:どちらの影響が多いと見るかは、他の栄養素のことも含めて考えないといけませんが、飽和脂肪酸の摂取量は無視できません。さて、ここで質問です。日本人は何から飽和脂肪酸をとっているかご存じですか?

編集部:肉ですよね?

佐々木:実は、肉と乳類はほぼ同率1位なんです。国内4地域の成人(44~63歳)男女211人の飽和脂肪酸の摂取源を調べたところ、肉(の脂身)と乳類(牛乳などに含まれる乳脂肪)が各27%、25%と全体の半分を占めていました(*4)。

編集部:え? 意外です。

佐々木:健康な人はいいのですが、脂質異常症の人は気をつけたほうがいいです。ヨーグルトや牛乳をとるなら低脂肪のものを選びましょう。

編集部:肉の脂には気をつけていても、ヨーグルトや牛乳の脂は気にしていない人が多いかもしれません。「健康のために」と毎日せっせととっていたヨーグルトが、実は飽和脂肪酸のとり過ぎにつながっていたかもしれない…。これは、落とし穴ですね。

佐々木:飽和脂肪酸とコレステロールの摂取量の推移を調べてみると、1956年(昭和31年)から1972年(昭和47年)まではどちらも同じ割合で増加しています(*5)。しかし、コレステロールの摂取量は72年をピークにその後減少に転じています。一方、飽和脂肪酸は現在まで増え続けています。その結果、72年に比べて飽和脂肪酸は3割増、コレステロールは3割減となっています。

編集部:なぜ、コレステロールの摂取量は減り、飽和脂肪酸の摂取量は増え続けたのでしょうか?

佐々木:その理由を詳しく調べた研究は見当たりません。しかし、卵の摂取量の推移がコレステロールの摂取量の推移に、乳類の摂取量の推移が飽和脂肪酸の摂取量の推移に似ているのは興味深いところです。

編集部:ここまで伺って、「脂質」とひと口に言っても、種類によって体内での働きは全く違うということがよく分かりました。ということは、冒頭の「脂質の数値が悪くなるのは、肉や揚げ物で油をとり過ぎたからですか?」という質問の答えは…。

佐々木:「肉の脂身などに含まれる飽和脂肪酸や食品に含まれるコレステロールは血液中の総コレステロール値を上げやすいが、日本人がよく使う植物油は血液中の総コレステロール値を上げない。また、コレステロールと飽和脂肪酸では、気をつけるべき栄養素はコレステロールから飽和脂肪酸へと変わってきている。そして、飽和脂肪酸で気をつけたいのは肉だけでなく乳類も」となります。

*4 Sasaki S, et al. Development of substituted fatty acid food composition table for the use in nutritional epidemiologic studies for Japanese populations: its methodological backgrounds and the evaluation. J Epidemiol. 1999;9(3):190-207.
*5 Ueshima H, et al. Declining mortality from ischemic heart disease and changes in coronary risk factors in Japan, 1956-1980. Am J Epidemiol. 1987;125:62-72.

※次回は、中性脂肪値と食事の関係についてです。お楽しみに!

(作図 増田真一)

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佐々木敏(ささき さとし)さん
東京大学大学院医学系研究科 社会予防疫学分野教授・医学博士
佐々木敏(ささき さとし)さん 1994年、大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了、ルーベン大学大学院医学研究科博士課程修了(ベルギー)。2007年より現職。早くからEBN(evidence-based-nutrition:根拠に基づく栄養学)に注目し、日本初の食事摂取基準の策定に貢献。日本の栄養疫学研究の中心的存在。新刊『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』(女子栄養大学出版部)が2月上旬発売。

【Goodayのムック】
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