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榎木英介の「病理医の視点」

18歳アイドルの突然死事例にみる死因特定の難しさ

事務所発表の死因「致死性不整脈の疑い」が意味するもの

 榎木英介=近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師・病理医

「致死性不整脈の疑い」にみる死因特定の難しさ

 しかし、なぜ「疑い」という言葉がついており、断定していないのだろうか。

 私は病理医として、この死因を聞いたときに、「ああ、解剖などをしたけれど死因が分からなかったのだろうな」と思った。実は私も、「致死性不整脈の疑い」という死因を使ったことがあるからだ。

亡くなったときに心電図をつけていなければ、致死性不整脈が発生したかどうかは分からない。(©dmitri gruzdev-123RF)

 亡くなったときに心電図をつけていれば、致死性不整脈が発生したことが分かるが、今回の松野さんのように、救急隊がかけつけたときに心肺停止状態だった場合は、致死性不整脈の発生は分からない。

 松野さんが解剖されたという報道はないが、もし解剖されたならば、以下のような手順で死因を調べたものと推定する。

 まず、突然死を来す疾患の有無を検索する。具体的には、肺の血管に血の塊がつまる肺血栓塞栓症、大動脈の壁が割け、その隙間に血液が入り込む大動脈解離や、急性心筋梗塞、脳出血や脳梗塞の有無、気管に物がつまっていないか、臓器が死んでいないか、出血がないかなどを確認する。また、肺炎などの感染がないかも確認する。こうした突然死を来す病気が目で見てなかったことを確認した場合に、暫定診断として「致死性不整脈の疑い」とするのだ。

 これはあくまで暫定であり、その後それぞれの臓器の標本をつくって顕微鏡で確認する。急性心筋梗塞は発症直後には目で見ただけでは分からないことも多いし、思わぬ持病が明らかになることもあり、暫定診断が覆ることもままある。

 また、致死性不整脈という診断を確定させるには、心臓のリズムを生み出す場所である洞房結節や、洞房結節から発せられる刺激の通り道である刺激伝導系を顕微鏡で見て、何らかの異常がないかを確認する必要がある。まれにこうした部分に小さな出血があることや、細胞が死んでいることが分かったりする。もちろん、心臓を動かしている筋肉である心筋の様子も見ることになる。若い人に致死性不整脈を引き起こす「不整脈源性右室異形成症」の場合、心筋が脂肪に置き換わっている。また、本人が気が付いていない「肥大型心筋症」などの先天性の病気が隠れている場合もある。このように、致死性不整脈を引き起こした可能性のある病気の有無を検索することも必要なのだ。

 しかし、若い人に致死性不整脈を引き起こすブルガダ症候群は、遺伝子の異常であり、顕微鏡で心臓の組織を見ても分からない場合がある。亡くなった方が過去に心電図の検査を受けていない場合は、様々な突然死の可能性を否定して、最後に残ったものを致死性不整脈とする「除外診断」をせざるを得ない場合も多い。

 こうして、全身の様々な臓器を見て、かつ、亡くなるまでの臨床的な経過と照らし合わせて初めて死因は確定する。死因をめぐって医師同士が激論になることさえあるのだ。

 死因の特定は、決して容易ではない。しかし、こうしたことはあまり知られておらず、「インフルエンザ脳症」といった診断名が拡散したり、致死性不整脈が死因として確定したかのような報道がなされたりするのだ。

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