日経グッデイ

“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

中高年の筋トレは、負担の少ない「スロートレーニング」がいい?

第62回 「筋肉学」を現場で活用する(2)

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。筋肉をつけるために選ぶべきトレーニング方法は、年齢によっても変わってきます。成長期は強い負荷を避け、低強度で高回数のトレーニングが向いていると石井先生は話します。では、中高年になったらどんなトレーニングが最適なのでしょうか。

「強度重視型」と「回数重視型」のトレーニング

 前回説明したように、現場のトレーニングにはさまざまな方法があり、それはどんな結果を求めるかによって変わってきます。

 バーベルやダンベルなどを使ったトレーニングでは、70~85%1RMがオーソドックスな負荷になりますが、それ以外の重さを使用するとしたら、大きく分けて「強度重視型」と「回数重視型」が挙げられます。

 強度重視型は、絶対的な筋力を瞬間的に発揮することが目的で、90%1RM以上の負荷を使うのが一般的です。パワーリフティング、ウェイトリフティング、ラグビーなどのパワー系の競技、あるいは、そのほかのスポーツでも瞬間的な筋力発揮を求められることがあれば、強度重視型が有効です。大きな筋力を出せる筋肉を養いながら、実質的に大きな負荷に耐える身体も同時につくられていくので、競技力アップに結びつきやすいトレーニングであるといえるでしょう。

 一方、回数重視型は主に30~65%1RMの負荷、もしくは自重を使い、回数を増やして追い込んでいく方法です。回数が増えると精神的にキツくなりますが、そういう経験を積むことで、ここ一番の場面で力を発揮できる能力が身に付いてくるはずです。

成長期が終わるまでは自重トレーニングのような低強度のトレーニングを選ぶべき。筋肉にはしっかり負荷がかかるが、関節や骨へのストレスは小さくて済む。(c) Katarzyna Białasiewicz-123rf

 例えば格闘技のようなスポーツでは、疲労困憊(こんぱい)に陥った状態から、いかに相手を上回る力を振り絞れるかが重要になります。そのように精神的なストレスへの耐久力が問われる競技には、回数重視型がプラスになると考えられます。ただ、精神的なストレスの強いトレーニングを年中行うのは大変なので、1年のうちで時期を区切って行うようにしてもよいと 思います。

 強度重視でも回数重視でもない工夫としては、加圧トレーニングやスロートレーニングがあります。これは局所的なストレスを強めることで筋肉を早く疲労させることが可能なので、体力の低い人、リハビリテーションなどに効果的です。また、短時間で無理なく筋肉を追い込むことができるので、高齢者や激しいトレーニングをしたくないという一般女性などにも向いているでしょう。

 ただ、必ずしも「負荷が軽い=トレーニングが楽」というわけではないので、そこは誤解をしないようにしないといけません。それなりの筋肉をつけたいと思ったら、やはり回数を増やしてオールアウトに追い込むなどの努力が必要です。

成長期のトレーニングは回数重視型が適している

 年代によっても、選ぶべきトレーニングは変わってくると思います。

 高強度のトレーニングは、筋肉だけでなく関節や骨に及ぼす力学的ストレスも強く、成長期の選手がハードに行いすぎると、それが原因で成長痛を起こしたり、骨や関節の障害に結びついたりする危険性が懸念されます。身体が成長し切っていない選手は、低強度・高回数で追い込むトレーニングを選んだほうがいいでしょう。

 強い負荷を避けなければいけないのは、まさに身長が伸びている時期。日本人の場合は10~13歳の年代が中心になると思いますが、成長期の定義には難しいものがあり、多少の個人差はあります。なかには高校生になってから急に身長が伸びる子どももいます。その時期に筋力トレーニングを行う必要が出てきた場合も、負荷そのものはなるべく軽くしたほうがいいと思います。

 一方、高回数のトレーニングは、筋肉にしっかり負荷がかかる割に関節や骨へのストレスは小さくて済みます。“しごき” になってしまうほどやらせるのは問題ですが、回数を増やしていくチャレンジをさせることは、筋持久力だけでなく、心理的な持久力を高めるという観点からも大切になると思います。

追い込み型のトレーニングで身体がさらに成長する可能性も

 回数で追い込むトレーニングをすると、代謝物受容反射などが起こり、成長ホルモンの分泌もよくなるので、さらに身長が伸びるかもしれません。

 激しいトレーニングが求められるスポーツ選手でなければ、その時期にスロートレーニングに取り組んでもいいでしょう。スロートレーニングも内分泌系の働きを活性化させるので、同じく身体の成長を促進させる効果が期待できます。

 ちなみにスロートレーニングは、小学生から取り入れても問題ありません。小さい頃からハードなトレーニングはできないと思いますので、朝礼前にスロースクワットを毎日10 回行う程度でもいいでしょう。それだけでも足腰の使い方が安定してくるはずです。

 そして高学年になって身体が慣れてきたら、無理のない程度に少しずつ回数を増やし、筋肉の疲労感を経験させるのがよいでしょう。そうしたトレーニングを味わっておくことで、成長期後の本格的なトレーニングの下地ができ上がっていくからです。

 成長期までは「低強度・高回数(あるいはスロートレーニング)」。成長期を過ぎたら「高強度・低回数(あるいはオーソドックスな中~高強度)」。中高年になったら負担の少ない「スロートレーニング」――それが成長に応じた効果的なトレーニングといえるかもしれません。

成長期までは「低強度・高回数」。
成長期を過ぎたら「中~高強度・低回数」。
中高年になったら「スロートレーニング」。


(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
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この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。